師匠と、この世界の話
「ねぇ、ウェス」
昼下がり。
修行の合間、草の上に寝転びながら、ラティ師匠が空を見上げたまま言った。
「この世界のこと、どこまで知ってる?」
急な質問だった。
「えっと……国の名前とか、種族とか……そのくらいです」
「そっかそっか」
軽い調子で頷く。
「じゃあ今日は授業にしましょうか」
くるっと体を起こして、こちらを見る。
「この世界がどれだけ広いかをね」
指を一本立てる。
「今いるのが中央のアルデア大陸ね」
「人間が多いし、文化も安定してる」
なるほど、と頷く。
「で、南西に行くとエルヴァン大陸。エルフが多いかな。
長生きでプライドが高い」
「偏見入ってません?」
「事実なんですよね、これがまた」
呆れたように言った。
「南東はゲルド大陸。あまり言い方は良くないけど、いわゆる亜人種の国だね。
砂漠が大半を占めてて、すんごい暑い」
「東にはノルニア大陸。魔帝国ノクティスっていう帝国がほぼ全域を支配してる」
強そうな名前だな、と思った。
「ここが1番触れたくない国かな」
「触れたくない?」
「強すぎるのよ、世界の均衡を壊すほどに」
「四大剣聖、それに五賢聖をも抱えている国だから」
その後、何かを言おうとして、視線を逸らした。
「——それに、私のお師匠もいるの」
「師匠の師匠ですか、ぜひお会いしたいですね」
空に向けた視線をこちらに向けると、いつか会えるわ、と言い微笑んだ。
⸻
「で、南にあるのが魔大陸。ここは凄く危険」
「なんでですか?」
「七大迷宮っていう迷宮がほぼ全てあるから」
「七大迷宮?」
「ええ」
先程の口調はどこへやら。
少し声のトーンを落として言った。
「ここは……まぁ、今はいいや」
「気になります」
「でしょ?でも今はまだ早いね」
軽く流された。
でも、その目は真剣そのものだった。
———
夕方。
修行が終わり、並んで歩く帰り道。
「楽しかった?」
ラティ師匠が聞く。
「はいっ。知らないことを知ったら、もっと知りたいことが出てきました」
即答だった。
「そっか」
少しだけ、嬉しそうに笑う。
「じゃあ明日も頑張ろっか」
「はい!」
そのとき、風が吹いた。
ただの風。
何もおかしくない。
――なのに。
一瞬だけ。
「……?」
同じ風を、もう一度感じた気がした。
でも、それはすぐに消えて。
何事もなかったかのように、世界は続いていく。
「どうしたの?」
「……いえ、なんでもないです」
「変な子ね」
くすっと笑うラティ師匠。
その横顔は夕日の斜陽に照らされて、綺麗な髪が風になびく。
どこか遠くを見ていた。
ここではない、どこか遠くを。
その理由はわからない。
ただ、僕は思った。
――この時間が、ずっと続けばいいのに。
そんなことを、少しだけ。
今回はのほほんとした会にさせていただきました。まだまだ幼いウェス君ですが、次回はここから数年後の話になります。




