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違和感の残る朝

 長い夢を見ていた気がする。

 

 誰かが死んで、

 そして――世界が巻き戻る夢だ。

 

 「……っ」


 目を開ける。


 見慣れない天井。

 木造の、少し古びた梁。


 ゆっくりと上半身を起こすと、体が軽いことに気づいた。


 違和感。


 何かが、おかしい。



 「……ここは?」


 

 窓の外を見る。


 広がっているのは、見たこともない田園風景。

 遠くには森、そして低い山。


 少なくとも、日本じゃない。

 確証があるわけではない。ただ、そんな気がした。

 


 「……はは」


 

 自分でも分かるくらい、乾いた笑いが漏れた。


 


 ――いや、違う。


 


 そうじゃない。


 


 問題はそこじゃない。


 


 胸の奥がざわつく。


 


 もっと根本的に、“何かがズレている”。


 

 

 「うん。今日もいい天気だね。今日もいい1日にしよう」


 


 ――口が、勝手に動いた。


 


 言おうと思って言ったわけじゃない。


 なのに、自然にその言葉が出ていた。


 


 「……なんだ、今の」


 


 自分の言葉なのに、どこか他人事のように感じる。


 


 けれど、それ以上考える前に――


 


 「ウェス、起きてるの?」


 


 ドアの向こうから声がした。


 


 「……あ、はい。今行きます」


 


 返事もまた、自然に出る。


 違和感を抱えたまま、俺はベッドから降りた。


 


 


 階段を降りると、女性が一人、洗い物をしていた。


 


 「おはよう、ウェストファリア」


 


 振り返ったその人を見て――


 


 “知っている”と、思った。


 


 記憶にあるわけじゃない。


 でも、知っている。


 


 「……(かあ)さん。おはようございます」


 


 言葉が自然に出る。


 


 「随分嬉しそうな顔ね」


 


 母――ルシカは微笑んだ。


 


 嬉しそう?


 


 そう言われて、自分の頬に触れる。


 


 確かに、少し口元が緩んでいた。


 


 「……今日は、先生が来る日ですから」


 


 まただ。


 


 考える前に、答えが出る。


 


 まるで“正しい選択肢”をなぞっているみたいに。


 


 「そうだったわね」


 


 母は嬉しそうに頷いた。


 


 そこに、階段を降りてくる足音。


 


 「おはよう、ウェストファリア、ルシカ」


 


 男性――父が姿を見せる。


 


 この人も、知っている。


 


 でもやっぱり、思い出せない。


 


 


 食事が始まる。


 


 パンを手に取り、口に運ぶ。


 


 味は――普通だ。


 


 でも。


 


 「……」


 


 違和感が消えない。


 


 


 ――この会話。


 


 


 どこかで、聞いたことがある。


 


 


 「そういえば今日だったな。先生が来られるの」


 


 父の言葉に、思わず顔を上げる。


 


 今の一言。


 


 “知っていた”。


 


 


 「えぇそうね、ウェスが嬉しそうにしてたわ」


 


 続く母の言葉も。


 


 


 「……」


 


 胸の奥が、ざわつく。


 


 これは、既視感なんかじゃない。


 


 


 “結果を知っている感覚”。


 


 


 ――どこかで。


 


 ――いや、違う。


 


 ついさっき、同じやり取りを聞いた気がする。


 


 


 「どうした?」


 


 父が不思議そうにこちらを見る。


 


 「……いえ、なんでもないです」


 


 そう答えるしかなかった。


 


 


 ――考えるな。


 


 ――今は、流れに乗れ。


 


 


 直感が、そう告げていた。


 


 


 食事を終え、外へ出る。


 


 空気が、澄んでいる。


 


 ……なのに。


 


 世界が、ほんの少しだけ“薄い”。


 


 不意に、背後から声がした。


 


 


 振り返る。


 


 


 そこには、一人の女性が立っていた。


 

 黄金のような髪。


 この世界のものとは思えないほど整った顔立ち。


 


 

 「初めまして。私の名前はラティ=シェラレオネ」


 


 彼女はゆっくりと歩み寄る。


 


 その一歩一歩が、やけに“正確”に見えた。


 


 


 「……キミが、私の弟子かな?」


 


 


 その瞬間。


 


 


 ――理解した。


 


 


 この人は。


 


 


 “気づいている”。


 


 


 「……はい」


 


 思わず、そう答える。


 


 


 ラティは、じっとこちらを見つめた。


 


 


 まるで。


 


 


 何かを“確かめる”ように。


 


 


 「……不思議ね」


 


 


 小さく、呟く。


 


 


 「あなたの魔力――普通じゃない」


 


 


 空気が、わずかに揺れる 

 



 

 ラティは微笑んだ。


 


 


 「とりあえず、見せてくれるかな?」


 


 


 試すような視線。


 


 


 逃げ場は、ない。


 


 


 「……分かりました」


 


 


 手を前に出す。


 


 


 魔力を、流す。


 


 


 ――その瞬間。


 


 


 世界が、わずかに“止まった”。


 


 


 色が薄れ、


 音が遠のき、


 すべてが一瞬だけ静止する。


 


 


 そして。


 


 


 炎が、そこにあった。


 


 


 詠唱も、過程もなく。


 


 


 ただ、“存在している”。


 


 


 「……やっぱり」


 


 


 ラティの声が、やけに遠く聞こえる。



 


 


 「キミ――」


 


 


 一瞬、間があった。


 


 


 「前にも、同じことをした?」


 


 


 


 その言葉に。


 


 


 背筋が、凍りついた。

私は今、原因不明の体調不良になっております。皆さんもどうか体調にはお気をつけてお過ごしください。


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