第八幕 主人公
――――――あっ。
死んだわ。
これ。
なんていったっけな。
たしか……デイノニクスだっけ。
それをめっちゃデカくしたやつ。
そんな見た目だな。
まあ、無理か。
普通に考えて。
勝てるわけがない。
もとより、抗えるはずもなかった。
分かっていた。
弱者は強者に淘汰される。
それが自然の摂理。
世の理。
昔からそうだ。
肝心な時に運が悪い。
誰も救ってくれない。
だから、自分でどうにかするしかない。
でも、どうにもできない。
無力だった。
俺は。
本当に無力だった。
父さんと母さんが殺された時も。
姉さんがいなくなった時も。
俺が殺されかけている今も。
――何もできない。
なんにも、できない。
武術とか……はは……笑えてくるな。
理術でどうにかなんてのもむり。
無理無理無理無理無理無理。
理不尽。
不条理。
運命。
無駄な人生。
ああ……だめだな……弱気になってる。
もっと……強く…………強く、生きなければ。
強く、強く、強く。
もっと強く。
じゃないと報われないじゃないか。
全てが報われない。
意味がない。
なくなってしまう。
みんなの思いが、想いが……失われていく。
みんなの分まで……俺が……
……生きなければ。
無惨に、破かれた俺の腹から血が流れているのを感じる。痛みはもう感じない。
とっくに。
寒いな。
いや、暑いか。
既に、目の前が見えない。
暗い。
アウレは……どんな顔をしているだろうか。
まだ、申し訳なさそうな顔をしてるのだろうか。
うん。たぶんそうだろう。
彼女のことをもっと知りたかった。
俺の恩人だから、礼ぐらいはしたかった。
そう思うと、俺の方が申し訳なくなってくるな。
手が……濡れている。
俺の血…………だろうな。
ああ……失われていく。
微かに残っていた命の躍動が、
みんなが俺に託してくれた魂の熱が、
罪を償うための少しの時間が、
全部、全部、――失われていく。
意識が少しづつ、だが、確実に遠のいていく。
そして――死んだ。
もはや、俺の中に巣食う『それ』だけをわずかにのこった意識で叩き起こし、必死に。
文字通り、必死につかみながら。
猛烈な後悔とやるせなさと無力感を抱いて。
静かに――死んだ。
俺の意識は完全に――何かに飲まれた。




