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幻想世界の調べと晴嵐の解決士   作者: 行雲 流水


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第二幕 迷宮





 『転移』と一口に言っても、その意味はいくつか存在する。テレポートやワープ、あるいはタイムリープという可能性もある。

 


 だから、アウレが口に出した『転移』がいったいどういう『転移』を指すのか、その意味次第で、今後の自分がとるべき行動が変わってくる。

 『せいこん』に関しては、多分、『聖痕』であってると思うが……。

 とはいえ、確認しなければ何も始まらない。



「転移の聖痕とは何ですか?」

 そう言うと、アウレはよくわからないといった顔で首を傾げた。

「……? そのまんまの意味だけど……」

 


 どうやら、根本的な認識に決定的な違いがあるような気がする。何というか、そもそもの枠組みの違い、というべきか。俺も彼女のことを知らなさすぎるし、同様に彼女も俺のことを知らなさすぎるのだ。

 アウレもそのことに思い至ったのか、真剣な眼差しで聞いてきた。

「というか、君はそもそもどこから来たの?」

 


 本来であれば、東京から来たというのが正しいのだろうが、正直にそう答えると少々、問題がある。何せ、自分で言うのは何だが、殺人犯である。ここがどこの国か知らないが、そもそも国の中なのかどうかも知らないが、もし仮にもここが日本の中だった場合、今ごろ血眼になって探しているであろう刑事たちに手がかりを与えることになりかねない。

 


 だからといって、ここで黙っていても何もならないし、嘘なんかつこうものなら、目の前にある唯一の状況を知るきっかけを失うかもしれない。

 この質問には少しぼかして答える、というのが正解だと判断した。



「日本です」

「…………ニホン」

 どこか含みのある言い方で俺の言ったことを復唱する。ただ、日本を知らない、というわけではなさそうで安心した。


 アウレは俺が日本と言った瞬間、かなり驚いていたようだが、今は熟考しているような素振りを見せている。

 


 何か変なことを言っただろうか?

 アウレの容姿や、この遺跡――アウレ曰く迷宮らしいが――から、ここがおそらく日本ではないことをある程度は確信していたが、それでもそこまでおかしなことを言ったつもりはない。むしろ常識的であろう回答だ。それに、彼女は紛れもなく日本語を話しているし、日本と聞いて、知らないということはないであろうことも予想している。

 あまり、熟考する要素は無いように思うが……。



 しばらく考え込んでいた様子のアウレだが、どうやら、自分なりに納得のいく答えにたどり着いたようで、ひとりでに頷いて、晴れやかな顔でこちらに視線を戻した。

 先ほどから見ている限り、アウレはひとりで納得する癖があるようである。



「んー。かなり驚いたけど、それなら君が何も知らなさそうなのも納得だよ。なるほど、君は『迷い人』だったってわけだ……。さっきから君の体からあふれ出している気持ち悪いぐらいの『それ』については、まだ気になるけれど……。とはいえ、君の出自はわかったんだ。それに君がこの状況に置いては、ほとんど何も知らないであろうこともわかった。さぞ不安だろう? さあ、このお姉さんに何でも聞くがいいさ!」



 何だが、さっきから気になるワードばかり口にしていた気がするが……。とはいえ、彼女の言った通り何もわかっていないこの状況で、何でも聞いていいと言うのだから、こちらとしては願ってもない話である。


 こうなれば、話は早い。俺が何も分かっていないことを分かったくれたようだから、さっきまでのように認識が食い違う、ということもないであろうからだ。

 だから、最初に聞いたことを繰り返すことにした。

「さっき迷宮の中だと、言ってましたけど、じゃあこの迷宮はどこの国にあるんですか?」

 そしてアウレは今まで見た中で一番真剣な目をしてこう言うのだった。


 

 「その質問に答える前にまず、君に伝えなければいけないことがある。ここは君が思っている『世界』じゃない―――。君がいた『世界』とは違う『世界』。つまり、君とっては『異世界』ということになるね」










 全く予想していなかった、というわけではない。日本人であれば、あるいは、ある程度日本のポップカルチャーに触れていれば、『転移』と聞けばまず思い浮かぶのは『異世界転移』という言葉だ。

 だが、その可能性は限りなく低い、とも思っていた。だってそうだろう? 常識的に考えて、違う世界にワープするというのは、なかなかに想像しがたいものだ。まだ、同じ世界にワープするほうが想像できる。現実的かと言われると首かしげざるを得ないとはいえ。

 

 ただ、アウレがここは『異世界』だ、と言い切った以上、それを疑うということはしない。疑い始めたらきりがないということもあるが、それよりも彼女の目が真剣だったから、という理由のほうが大きい。もしふざけて言っていたら、確実に信じなかった。

 だから、俺はアウレのその言葉を受けて――、

「―――異世界、なんですね。わかりました」

 と答えた。


「ふーん。ずっと思ってたけど、君って結構、肝が据わっているわよね」

 何を期待されていたのかは分からないが、随分と拍子抜けしたというふうな表情をされた。

 


「まあいいわ。分かってくれたようだし……。さっきの質問に戻るけど、ここは南の大陸、最北に位置する世界有数の軍事国家、アルガレス帝国のさらに最北に位置する交易と採掘の都ナランデルの新たに見つかった採掘場にある迷宮、その最奥―――ということになるわね」



 ―――なるほど、全然わからない。

 しかし、先ほどとは違い、理解はできた。

 


 となると次に大事なのは、今後自分はどう動くべきか、ということである。異世界となると、もちろん日本円しかない俺の財布は役立たずだろうし、どうせスマホも使えないことは想像に難くない。そもそも、水浸しで電源すら入らないだろう。

 であれば、現実的に考えて、まずは衣食住をどうにかしなくては、明日の命すらも危ういのだ。せっかく溺れて死ぬところだったところを命拾いしたのだ。すぐにでも行動に移すべきだろう。

 俺は初めて自分の運がいいと思った。



「あの、これから俺はどうするべきですか? できれば、すぐにでもその……迷宮をでて、宿と仕事を見つけないといけないと思うんですけど……」

 と聞くとアウレは渋々といった様子で――

 


「そのことに関してなんだけど…………、とても言いづらくはあるのだけれど、多分このままだと君―――、」

 と前置きをしてこう言うのだった。



「迷宮を出る前に死ぬことになるよ」

 

やはり、俺は運が悪い。

 

 

 








 


 

 

 

 

 

 

 


 

 

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