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幻想世界の調べと晴嵐の解決士   作者: 行雲 流水


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第一幕 転移






 少年、一条シアンは考える。


 

 まず、追っ手である刑事についてだが、これについては分かっていた。別に彼らが警察官であることを知っていたわけではないし、確認したわけでもないが、追いかけてくるという時点ですでに確定したようなものだからだ。



 次に、なぜ刑事に追われているか、だが、それこそわかりきっていることだった。いずれこうなることは明白だったし、それが遅いか早いかの違いでしかない。まぁ、今回は早すぎると言わざるを得ないが。ここまで早く見つかったことを考えても、やはりシアンの運が悪かったのだとしか言いようがないのだ。



  

 なぜなら、仕方がないからだ。




  

 まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 

 



 シアンは奴を殺したことについて、後悔はしていなかった。

 殺人を犯すことの罪の重さとか、

 被害者の遺族が悲しむとか、

 自分はその後どうなるのかとか、

 そんなことはこの5年間で嫌になるほど考えた。




  

 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考え抜いて、そして、―――――――――殺した。

 




 最愛の両親を、―――父さんと母さんを、殺した奴がこの世界でのうのうと生きてるのが許せなかった。



 

 奴は半グレだった。窃盗、暴行、レイプ、薬物売買、詐欺……、調べれば調べるほど、どうしようもなく、クズだった。

 死んだほうがマシなやつ、なんて人間が本当にいたんだとその時に気づいた。

 



 だから、さほど抵抗もなく殺せた。

 死ぬ間際の言葉を言わせることもせず、命乞いすらもさせることなく、呼び出した地下駐車場で首を絞めて殺した。

 だから、シアンは奴を殺したことを後悔はしていなかった。




 そして、死体を車に積んでいる、まさにその時に目の前の刑事が現れた。

 シアンは死んだ両親のためにも、全力で人生を生きると決めている。葵がいなくなったときからもずっと、全力で生きている。幸せになることが、家族への手向けであると信じている。


 


だから、―――絶体絶命のこの状況で、取れる選択肢もすでに決めている。


 


「おい、早く車に乗れ」

 刑事がシアンの様子に不信感を抱いたのか、語気を強めて動くように促す。それでも下を向いて動かないことにしびれを切らし、シアンの背中を押そうとしたその時――――――、



 すでに、シアンの体は空中にある。

 


「獄中生活じゃあ…………幸せにはなれないだろ」

 


 シアンのその呟きを聞き取れたものはいない。

 驚きに口がふさがらない刑事たちを尻目に、シアンはくろぐろとした濁流のなかに、沈んで、そして、見えなくなった―――。















 温かい。


  

 この感触には覚えがある。

 

 8歳、いや、もっと前かもしれない。

 ほとんど記憶などない頃の温かさ……。

 これは……そうだ……母さんの手に似ている。

 いつもニコニコと笑っていて朗らかな母の手。

 よく俺の髪を手ですいてくれていた。

 愛してくれていた母さんの…………。

 俺が好きだった母さんの手つき……。



 薄っすらとしか見えないけど、これはきっと母さんだ。ほのかに感じる体温がそう確信させる。


 ―――だが、そう思った瞬間、景色は一転する。



 椅子が、机が、壁が、窓が、天井が、

 全てが赤く染まる。



 生臭い匂いと鉄の匂いが鼻腔をなで、同時に、ひっくり返されたかのように平衡感覚を失う。

 抑えきれない吐き気に、焦点をとらえられずに歪む視界。遅れて、部屋の中を染めた赤い何かが血であることに気づく。



 そうだ―――、これは―――、父さんと母さんが殺されたあの部屋――――――。

 


 なにかを隠すように黒く、影の落ちる空間が少しづつ、明確な形をもち始める。


 心臓の音がうるさくて周囲の音が聞こえない。

 なにかノイズのかかったようにザラザラとした不快な感触が脳内を走る。



「…………ね…………」



 ねぇ、大丈夫だよね?

 いつも、弁護士として頑張って働いているじゃないか。自慢の両親だよ……?

 


 なのに……なんで……、なんで…………、

 なんで、なんで、なんで!なんで!!

 なんでっ!!!なんでぇっっ!!!!!!!



「…………ね…………ねん…………」



 父さんも母さんも―――死んでるんだよ?

 

 俺を――置いていかないで……。

 お願いだから…………。俺も……連れて行ってよ……。



「…………少年!!………………起きろ!……少年!!!」



 急激な光が閉塞感を破り、視界にぼんやりとした世界を形成する。


 俺はゆっくりと目を開けた。



「よかった…………少年……、急に息が荒くなったと思ったら、涙を流して苦しむからどうしたのかと思ったよ」

 


 どうやら今まで、長らく横になって寝ていたらしく、体がうまく言うことを聞かない。まだ、ぼんやりする頭で、何で寝てるのかを思い出そうとする。それに―――、さっきまで夢を見ていたような気がするが思い出せない。

 


 ふと、水のせせらぎのような音が聞こえた。

 それと同時に、その音に呼応するかのように記憶が鮮明に蘇ってきた。



「あっ、あれ? 俺、警察に追われて――、それで河に飛び込んで、そのまま溺れたはずじゃ?」

「どうやら、記憶が混乱しているようだね。長い間、気を失っていたようだし、今は安静にするといい」

 


 俺の独り言に答えた声を認識して、そこに人がいることに気づく。この場合、そこ、というのは真上である。 

 地面に寝ていたようだが、頭だけはなんだか柔らかい物のうえに乗っているようで―――、真上には端正に整った顔がある。

 もしかしなくても、膝枕されていたようだった。

「やっと私を見てくれたね」

「あ、ごめんなさい」

 どうやら、ずっと自分の側で見ていてくれたようなので、すぐに頭をどけてとりあえず謝った。

 決して、勝手に膝枕を堪能してごめんなさいという言う意味ではない。

 だが、謝られてもあんまり嬉しくないらしく、

「そういうときは、ごめんなさい、ではなくてありがとう、というものだよ?」

 とふくれっ面で頬を膨らまして言うのだった。



 少し可愛らしいと思う。

 


 ―――ではなく。

 まずはここがどこで、どれくらい時間が経っていて、それでこの隣でふくれっ面をしている女性がいったい誰なのかを知るべきだろう。

「えっと……、ここってどこです?それに今は何日ですか?」

「それについては簡単に答えられるよ。ナランデル鉱山新迷宮の最奥でエンロコの星5の陽が答えだ」




 ……………………は?

 


 ふざけている…………わけではなさそうだ。

 どうやら本気で言っているらしい。いや、まだ、彼女が虚言癖である可能性も残っているか。

「あの……もう一度言っ」

「ナランデル鉱山新迷宮の最奥でエンロコの星5の陽だ」

 正直に言って、意味がわからない。言葉は聞き取れるのに、その意味は理解できない。今までに味わったことのない経験である。



「えっと……じゃあ、俺はなんでここにいるんでしょうか。川で溺れていたはずですが……。誰かが、あなたが引き上げてくれたんですか?」

「あなた、じゃなくてアウレよ」

「あ、アウレさんが引き上げてくれたんでしょうか?」

「まぁ、正直に答えてもいいんだけど、どうやら君は本当に何もわかっていないみたいだし、困惑するだけだと思うけど……、嘘をついてもねぇ……。この状況じゃ、意味がないというのもまた事実…………悩ましいわね」

 


 ひとりでにうんうんと唸っている、先ほどからクルクルと表情の変わるこの女性を冷静になった頭で、改めて見てみると、美人であることに気づく。それもとんでもなく美人である。というか見た目的には美少女といったほうが正しいだろうか。


 それに、確実に日本人ではないであろう、顔立ちだ。日本語が通じるので、多分日本育ちではあるだろうが。

 絹のような透き通った白髪に、金色の瞳。


 何というか……、いっそコスプレと言ってしまったほうが近い気がする。そんな神秘的な美しさを彼女は纏っている。まぁ、彼女が何者であるにせよ、先ほどの発言で虚言癖ではないことが分かったので、一安心ではある。



「んーー、…………よし!本当のことを簡潔に、かつ正確に伝えるわ!」

「……お願いします」

 出会って五分で、すでにアウレの勢いに慣れつつあるが、それはともかく、どうやら本当のことを教えてくれる気になったらしい。


「まぁ、簡単に言うとね。私がこの迷宮をひとりで探索していたら、最奥にたまたまたどり着いてしまったから、この場所を覚えて定期的に来ていたわけだけど、そしたら、今日は君がこの部屋にいたってわけ。簡単でしょ?」

 


 いや……、答えになっていないが……。

「君、そこで寝ていたんだよ」

 と急に話が変わって、地面―――ではなく床に視線を向けた。今まで、ただの地面の割れ目だと思っていたが、よく見ると模様になっている。

 周りを見渡すと、床だけでなく、壁や天井にも同じような模様があり、なにか遺跡然としたものを感じる。そもそも、ここがどこなのかは分からないが、普通に洞窟か何かの中だと思いこんでいた。しかし、ところどころ、人の手が加わった形跡があり、建造物の中なのだと思い直す。

 ちなみに、外はここからでも見えているが、外は森のようである。陽の光が入り込んでいることから、昼間なのもわかる。


「えっと……これが何か?」

「これは聖痕だね」


 へ?

 本日、何度目かもわからない疑問符を浮かべた俺に気づいてアウレは先を続けた。

 

「理術の痕跡である程度絞れるからわかるんだけど……これは転移の聖痕といわれるもの。かなり珍しいものだからね。定期的に見に来てたの。つまり、君は溺れているときに、この迷宮の最奥に転移してきたってわけだ」


 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 


 


 

 

 









 

 

 







  


  

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