プロローグ
第一部 少年と少女の解決屋
第一章 英雄殺し
―――本当に運が悪い。
思い出してみると昔からそうだったかもしれない。不幸体質だった、とか呪われているんだ、とかではなく、ただただ本当に運が悪かった。
全くもってついてない人生だ。と少年はそう思った。
だからこそ、こうして今、喉が焼けるほど走っているし、後ろを振り返る余裕もなく必死で逃げている。後ろを振り返る余裕もない割に、自分の過去を振り返る余裕はあるのかと疑問に思うのかもしれないが、前を向いてただひたすらに走り続けるというのは案外、退屈なものだ。
そうして、退屈しのぎに過去を振り返ってみた結果、気づいた。自分は運がなかったんだということに。
とはいえ、気づいたところでこの状況を打開するきっかけにはなりそうもなかった。そういう意味では、過去を思い出すというこの作業は徒労に終わったわけで、結果的に単なる現実逃避のようになってしまった。無論、現実逃避の前に、もっと逃避しなくてはならない存在が後ろに着々と迫ってきているとこを考えれば、過去を振り返っている余裕すらもないのかもしれないが。
そんな無意味に思える思考も唐突に遮られた。
真夜中とはいえ、ネオンでそれなりに明るい都内の路地を駆け回っていた彼だが、長らく閉鎖的だった視界が唐突に開けた。
橋である。
それなりに大きめな河川にかかった橋。
止まることなど許されない少年はそのまま橋の上を直進するしかない。
しかし、橋の中腹あたりで、その足はついに止まった。
否――止めざるを得なかった。
先回りされていたことに気づき、橋の上に来たことを後悔するがもう遅い。
橋の反対側からも追っ手が来ていた。
「ハァ――、ハァ――、」
小一時間、全力疾走していただけあって、少年の息は限界まで上がっている。
そして、そんな少年を挟むように橋の左右から、黒スーツの男たちが数人ずつ近づいてくる。
まるで、今にも警察庁捜査一課だ、とか言いそうな風貌の一人のリーダーらしき男がようやく追いつくに至った小柄な少年に向かって、低く押し殺したような声で言った。
「警察庁捜査一課だ。一条シアンだな。君には殺人の容疑がかかっている。署までご同行願おう」




