23.刑事の疑念
「はぁ?右手首だけ見つからない?なんで?」
話し声やPCを打つ音でざわついていた署内に三郷の素っ頓狂な声が響いて一瞬静まり返ったが、またすぐに署内のざわつきは戻った。
自分のデスクの古びた鼠色の椅子にどかりと寄りかかり、器用に片手でPCを操作しながらカップ焼きそばをすすっていた三郷に、コンビニから戻ってきた小林が、頼んでいたコンビニコーヒーを差し出しながら発した言葉に思わず素っ頓狂な声も出ると言うものだ。
「それがわかったら苦労しませんって。そもそも白骨化遺体は俺らの管轄じゃないですし、担当の曽根の話じゃ2号館の地下の部屋全部探したらしいですけど、出てこなかったって話です。」
そう言って、三郷の隣の席に座るとコンビニ袋の中から、バジルトマトのパスタに8品目のサラダ、ヨーグルトに豆乳を取り出す。強面な見た味に似合わず意識高い系女子みたいな昼飯の内容を横目に自分はカップ焼きそばに向き直る。
「他に外傷はなかったのか?」
「頭蓋骨陥没に、頚椎骨折、他にも骨折箇所があったようで、階段から転落したんじゃないかって話です。」
「当時は無理心中か痴情のもつれの末に……って話だったらしいが、その分だと揉めた末に意図せず転落死させてしまい、自責の念を感じてってところか?そんな単純な話に思えんのだがなー」
「三郷さんずいぶん白骨化遺体にこだわりますね?沼田医師の方も力入れてくださいよ」
「めったなこと言うな、力入れてるだろ沼田医師の方にもな。が……こうも周りがだんまりじゃな……状況から見て転倒した際に腹部に包丁が刺さったか、自殺かって見た目だが、自殺する理由もみつからない。それに、直前に言い争っている声を聞いている者がいた。殺人にはならなくとも、揉みあいの末の結果か……どちらにせよ証拠が足りない。参るねーまったく」
「あっ、そうそう。話戻りますけど、白骨化遺体は手首が見つからないんで、1号館の調査の話が上がってるらしいですよ。」
「はぁ?どして1号館?」
「昔から1号館の地下1階には死体が埋まってると言う噂があるとかで」
「おいおい。上も焼きが回ったか?そんな噂話で調査するのか?大体調査はいれるのかよ?」
「理事長はだいぶ渋ってたらしいですけど、沼田医師の件でだんまり決め込んでる代わりのつもりか、許可下りたって話です。」
「そりゃ、何も出ないって言ってるようなもんじゃねーか?」
「だったら渋らないんじゃないですか?」
「渋ったふりだろ。」
「まっ、鬼が出るか蛇が出るかですね。」
「はん、0か100かの間違いだ。」
そう言いながら再び焼きそばを食べ始める。その頭の片隅で思うのは、この事件が切っても切り離せない何かがあるような気がするという事、勘はあながち馬鹿にならない。
が……立証するものがなきゃ意味がない。
「まいったねー」
そう呟きながら、小林の買って来たコーヒーに手を伸ばし一口飲めば
「んっぐ!?お前まさかこれカフェラテか!?」
「三郷さん栄養偏ってそうだったんで、カルシウムも必要だろうと後輩からの気遣いです。」
「いらねぇーよそんな気遣い!!道理でお釣りが返ってこないわけだよ全く……」
ブツブツ文句を言いつつもカフェラテを飲む三郷に、小林は「密かに三郷さん健康化計画」の第一歩を踏み出せたことに心の中でガッツポーズをしたのだった。




