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62.Arc-en-ciel

前回のあらすじ。

真冬、那月の成長を受け、一人悩む黄河。

仲間達に背中を押され、彼は独立のため

留学することを決意する。


新たな季節を前に、

それぞれが自分の未来へと動き出す――。


これは、それぞれが選ぶ、これからの物語ー

         *藍side*

「……財前コーポレーションの後継ぎに、突然の志望校変更。さらにサックス個人事務所設立にマネージャー志望ときて、最後は留学ですか……まったく、多種多様ですねー」


夜、静まり返った店内で一人、カウンターを拭く。

振り返っても、もう誰もいない。

ついさっきまでここにいた彼らが、それぞれの決意を語っていた声が、まだ耳の奥に残っているようだ。

各々の道を申し出た彼らは、昔とは違う面構えになっていた。

今の店長は自分じゃないのだから、勝手にやめていけばいいものを。


「この店も、だいぶガタがついてきましたねー……」


かつては「自分と彼女」だけだった。

気がつけば、若者たちの居場所になっている。

ちょっと前までは、この場所にすら帰りたくなかったのに。

ここを始めて数十年。個人的に続けるのは潮時か、なんて思っていたのにー


『ほんと、若者って自由だよねぇ〜みぃんな勝手にいなくなるんだもん!』


聞きなれた、声がする。

もう二度と聞けないはずの、鈴を転がすような笑い声が。

隣には、虹架がいた。

自分が最後に見た姿とまったく同じ、八重歯を見せて笑っている。

あまりに軽々しく「よっ!」と手を挙げてくるので、思わずため息が漏れ出てしまう。


「……ミーも疲れてるんですかねー。幻覚まで見るようになるとは」


『え!? 大丈夫!!? 生姜!! 生姜持ってくるね!!』


「丸ごと持ってきてどーするんですかー。どうやら本物のようですねー……」


これは、幻だ。

そうでも思わないと、直視できなかった。

彼女は、死んでいる。しかも事故で、遺体もひどい有様だったと聞く。

だから遺体確認も行かなかったし、葬式にも行かなかった。

それがどうして、こんなことに……


『いやぁ、ごめんね? ちょっとランランに一言いたくてさぁ』


「一言?」


『きいたぞぉ? あたしがいないからって、店だけじゃなく純ちゃんまでポイしたって! ダメじゃん、そんなことしちゃ!』


痛いところをつかれた、と少し視線を逸らしてしまう。

多分彼女は俗に言う、幽霊か何かなのだろう。どこかでみていて、自分に文句を言いにきたのだろう。

死んでもなお、厄介な存在だ。


「……別に、捨ててはないですよ。現に戻って来てるじゃないですか。彼も彼で、嫌と言うほど構ってきますし……そんな小言を言うためにでてきたんですかー? 暇人で何より」


『相変わらず言葉だけは達者じゃねぇ〜。それもあるけど、ほら、黄河君もいなくなっちゃうでしょ? あんだけ頑張ってくれてたのに、店長不在になっちゃうから……ランランはどーするのかなーって」


「ぶっちゃけミーは、閉店してもいいと思ってますし、どーもしませんけどねー」


『えー、ほんとにぃ? そんなこと言ってぇ、閉店させるつもりないくせにぃ〜』


彼女のにやにやした笑いに、思わず鼻で笑う。

それがわかっていたとでもいうように、彼女は続けた。


『だってそれなら、最初から黄河君に閉店するっていうじゃん。留学するって言った時、彼を止めなかったのは、続ける気があったから。違う?』


「死んだら占い師にでもなったんですかー? まあ否定はしないですけど」


『ふっふっふー、あたしをみくびらないでよぉ〜? 昔、よく言ってたじゃん。ここに帰って来たいと思えるような店にしたいって。あれから結構経つけど……ここにはまだ頑張って欲しいから』


光が、強くなる。

幻覚が終わろうとしている、それだけはわかった。

なのに彼女は、ずっと笑っている。

いつもと変わらない、あの頃のまま。

顔に伸びる手のひらすら、温もりを感じさせられるようなー


『ごめんね、勝手にいなくなって』


「………らしくないですね、謝るなんて」


『いやー、気づいちゃったんだよねー。店を始めようって言ったのも、結婚しようって言ったのも、全部あたしからだった気がして。その上先に死んじゃったし……そりゃ忘れたくもなるよなーって?』


「はて、そうでしたっけねー」


『ほほう、とぼけるとは。それだけ君も、成長したってことかねぇ〜みんなと一緒で。あたしゃ嬉しいぞよ』


「あんたはミーの母親か何かですか」


彼女が、悪戯そうにニヒヒと笑う。

不思議だ、彼女と話していると、幸せだったあの頃に戻ったように感じてしまう。

かつては、あんなに消えて欲しいと思っていたものなのに。

……消えないでほしい。

彼女の思いも、過ごした日々も、全て。


『おや? そろそろ時間みたい! んじゃ、あたし行くね! ランランのコーヒーも飲んで帰りたかったけど、無理そうだわ!』


「言うだけ言って帰るとは……相変わらず、嵐のような人ですねー。コーヒーは仏壇にでも置いとくんで、勝手に飲んでくださーい」


『マジ?? やったーー!』

「……ねえ虹架」


『ん? なあに、ランラン」


「やれるだけやりますよ、この店は。それに黄河さんといい、息子といい、ここの連中は嫌でもやめさせてくれないみたいなんで」


『……そっか、その言葉が聞けただけでじゅーぶんあたしゃ満足だよ。がんばれランラン! アルカンシエルの未来は、君に託された!!』


「ただ、一つ訂正したいですねー。結婚しようって言ったのは、ミーが先だったはずですよ」


その言葉に、彼女が振り向く。

なんとも嬉しそうな、いつもみていた笑顔が目の裏にこびりついてー


「愛してるよ、虹架。これまでも……これからも」


その言葉が届いたかどうかは、もうわからない。

思えば、一回も言った事がなかったかもしれない。それだけ、彼女に甘えていたのだと実感させられる。

虹架。あなたって人は、本当にーー


「パパ、おまたせー。橙子送ってたら遅くなっちゃった。あれ、何してるの?」


聞き慣れた声が、する。

視界がゆっくりと、元の薄暗い店内の景色へと戻っていく。

そこにはもう、彼女の姿はない。

手のひらに残った温もりも、気のせいだったかのように消え去っていた。

ただ、カウンターに置いた自分の手のそばには、かつて彼女と買った虹を模ったネックレスがあってー


「……今日は一緒に帰りましょっか、純」


思えば、息子の名前も呼ぶのも久しぶりだな、なんて思いながら、店を後にする。

大丈夫。言われなくても守るよ、この店は。

あなたと自分の、かけがえのない場所だから。


(つづく!!)

おまけの小ネタ

虹架『それにしても見ない間にかわったよねぇ、店内!』


藍「あのー、小ネタにまで現れるのやめてくれません? あなた、ミーにだけに見える幻設定なんですよねー?( '-' )」


虹架『いーじゃん、細かいことは! あたし出番超少ないんしぃ、探検くらいさせてよぉ!(・ε・` )』


藍「一応ミーの主役回なんだけどなー( = =)」


虹架「おっ、ここに英語の本がある! 黄河君が留学とはねぇ〜入った時は目が当てられないほど不器用だったのに( -ω-)゛』


藍「まーあんまり今も変わらないですけどね。おかげでミーは店長に逆戻りですよー┐(´д`)┌」


虹架「それ、サボりたいだけでしょ〜? あ、なら純ちゃんに任せるのもありなんじゃない? なんか店つぎたいっていってたし!d(≧▽≦*)」


藍「いつの話だと思ってるんですか。そもそもミーは、彼がその道に行くことすら反対なんですけどねー」


虹架『あっ、じゃああたしがやるのはどう!? レジェンド店長復活って!! 絶対バズると思うんだけど!!((`・∀・´))』


藍「自分でレジェンドっていいますー? そもそもあなた絶望的に経営向いてなかったし、客が来なくなったら困るので早く消えてくださーいε-(´-`*)」


仲良し夫婦。

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