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61.不器用な決意に餞を

前回のあらすじ。

好きに向き合った真冬を支えるため、

那月は、個人事務所の道を見つけ、

マネージャーになることを決める。


新たな季節を前に、

それぞれが自分の未来へと動き出す――。


これは、それぞれが選ぶ、これからの物語ー

      *黄河side*


「黄河、まだ先になるとは思うんだけど。僕、ここ、辞めると思う」


変化というのは、唐突だ。

予感をしていてもしていなくても、所構わずやってくる。

那月と共にやってきた真冬から発言を聞いた時は、衝撃よりも予想通りだった。


「ふーん、やっぱりか。お前なら、そーすると思った」


「うわー、こう君反応薄〜それだけ? もっと他にいうことないの? びっくり〜とか」


「ねぇわ。間近でスカウトされりゃぁ、誰だって勘付くだろ」


「言っとくけど、スカウトは断ったよ。あと、辞めるのは那月もだよ」


「……あ?? なんで??」


「実はうちら、個人事務所開こうと思ってね。うち、真冬にはサックスを好きで吹いてほしくて……それで閃いたの! うちが真冬を支えればいいじゃんって!」


「はぁーーらしいっつーかなんつーか……いつの間にそんなこと……」


「別に。みんなみたいに前に進みたくなった、ただそれだけの話だよ」


そういう彼女の顔は、いつにも増して綺麗に見える気がする。

おそらく、前髪を切ったからだろう。

以前は片目が隠れるほど長くて鬱陶しいだけだと思っていたが……こうも顔が違って見えるとは。女子ってのは怖いな。


「支えたい、ねぇ……相変わらずラブラブなご様子で」


「それより、君はどうなの?」


「あ? 俺か? この前は喫茶店デートしたが……」


「明音とじゃなくて、店の話。橙子のお父さんに言われてたよね、独立の話。あの話、本当に断るの?」


その言葉に、ああと納得する。

あの時は明音が声を上げてくれたのが嬉しくて、つい断ったが。

ここは、師匠とその奥さんの店。俺の店ではない。

だからいつかは、独立しなければならない。そんなことは、わかっているがー


「……断ったんだがなぁ。あのオッサン、しつけーんだよ。師匠が嫌がるのもわかるわ」


「それ、橙子ちゃんの前で言っちゃダメだよ? そこまで言われてるなら、やればいいのに。どうしてうけないの?」


「どーせなら、師匠と同等になりたくてな。それ言ったら、留学で腕を磨くのもありだとかいわれてな。下手すら四年かからって言われて……」


「それで君、ビビってるんだ」


「ビビってねーし。んなことしたら、明音が一人になるじゃねーか」


あの時あいつは、真っ先に嫌だと言った。

おそらく、俺と離れるのが寂しいのだろう。

ずっと隣にいたんだ、そうなるのも無理はない。

それにーー


「こちとらようやく恋人として、隣に並べるようになったんだぜ? 離したくないって思うのは、当然だろ」


「やだぁ〜なにそれ、のろけ? こうちゃんってば、おっもぉい」


振り返ると、いつの間にか橙子と純が背後に立っていた。

やほ、と純が手を挙げる隣で、意地の悪い笑みを橙子が浮かべている。


「話、聞いてましたよぉ。そんなに言うならやればいいじゃない、留学」


「お前なぁ……他人事だと思って……」


「……あーちゃんだったら、夢に向かってるあなたを止めたりしない。応援したいっていうに決まってる。そんなのもわからないの?」


その言葉に、思わずどきりとする。

彼女の言葉を受け取るように、真冬達が続けた。


「……君はいつも、好き嫌いにはっきりしてる。引くくらいに、ね。でも今の君は、明音を理由に逃げてるだけだよね? 僕にはあんな啖呵切ってきたくせに、君が好きから逃げるの?」


「お、俺は、別に……」


「こう君の気持ちはわかるよ? 誰だって離れるのは嫌だしね。でも、二人は今も昔も、かたーーい絆で結ばれてんじゃん! うちらに負けないくらい!」


「あかねは、大丈夫。大丈夫じゃないのは、こーがのほうなんじゃない?」


こいつらは、どうしてこうも人の気持ちを言い当ててしまうのだろう。

正直、もう答えは出ていたのかもしれない。

踏ん切りがつかなくて、ただ先延ばしにしていただけで。

離れるのが嫌なのを言い訳に、逃げていただけなのかもな……

 

「……あー、クソ。どいつもこいつも、言うようになったじゃねえか」


「これでも付き合い長いからねぇ〜こう君のことは、それなりにわかってるつもりですよ」


「お店のことはまかして。こーががいなくなっても、パパととーことボクで、なんとかするから」


「それにしても、ほんと君って重いよね。離れた方が、明音はむしろ安全だと思うけど」


「あはっ、それ言えてる〜なんなら、一生帰ってこなくてもぜぇぇんぜん平気ですよぉ〜?」


「お前らなぁ」


あいつは、俺の言葉を聞いた時、寂しいと思ってくれるだろうか。

いや、あいつならきっと、笑顔でこう言うんだろうな。

僕は大丈夫、行って来なよって。

自分の本心なんて言わず、ただ相手のことを思う。

そんなあいつだから、俺は好きになったんだー


「あっ、こう……お疲れ様。あの、さ……」


営業が終わり、静まり返った店内。明音は更衣室の前でそわそわしながら俺を待っていた。

照れたようにもじもじしているのが可愛くて、つい声に出そうになる。

それでも彼は、気づいてもないように顔を赤くさせ、


「こ、これ! バレンタインで作ってきたんだ! あ、味は保証できないけど、よ、よかったら!」


と、渡してくる。

中から出てきたのは、不恰好に膨らんで、端っこが少し焦げたカップケーキだった。


「あー、今日バレンタインだったのか。サンキュー、不恰好っつーわりにうまくできてんじゃねーか」


「本当はうまくできたのをって思ったんだけど、全然うまくいかなくて……」


「普通にうめぇけどなぁ。……なあ明音、俺が店、独立したいって言ったら、留学したいって言ったら、どう思う?」


明音の顔が、びっくりしたように振り向く。

四年。店に来て、店長に任されるまでと同じ月日。

店長といっても、師匠がいない間の代打だっただけ。それがずっと気がかりだった。

大会で認められてからそれが薄まったせいか、欲が出てしまった。

もっと、上に行きたいと。


下手したら、俺の方から帰ってきてしまうかもしれない。

それだけ彼と離れるのが、怖い。

けれどこいつはーそんな俺とは真逆に、にっこりとした笑顔を浮かべてー


「……素敵だと思う。応援するよ」


その笑顔に、押さえていた感情が溢れ出る。

思わず俺は、彼を強く抱きしめてー


「うわっ、こう!? どうしたの?」


「顔に寂しいってかいてんだよ。普通に言えよ、俺だって寂しいんだから」


「えぇ? さ、寂しいけど……こうなら、絶対帰ってくるってわかってるから。僕、待ってるよ。こうが帰ってくる、その日まで」


ああ、やっぱり、こいつには敵わねぇ。

始まりはただの親友だった。

それが今じゃ、こうして抱きしめるのが当たり前の恋人だ。


……もし、まだ明音が俺を完全に好きになりきれてねぇんだとしたら。

長い月日をかけて、わからせてやる。

俺が、最強でかっこいい、自慢の彼氏だってことを。


「必ず、お前の隣に帰ってくる。約束だ」


そのために俺は、師匠だって、なんだって超えてやる。

待ってろよ、明音。


(つづく!!)

おまけの小ネタ

真冬「で、留学するのはいいけど……君、英語できるの?( ・᷄-・᷅ )」


黄河「あ? できるにきまってんだろ」


那月「英語かぁ〜大学以来やってないから、うちは自信ないなぁ(^^;)」


橙子「それこそたまに来ますよね、外国のお客さん。私は社交辞令的にふっつーーに話せますけど( ¯ᵕ¯ )」


純「とーこ、英語ペラペラ。かっこいい〜(๑✪ω✪๑)」


橙子「そういうあなたは、片言ですけどね。伝わらなかったらどうする気ですか?」


黄河「はんっ! んなもん、気合いでなんとかなる!!((`・∀・´))ドヤァ」


全員「………」


真冬「つまり話せないってことだよね。うん、わかってた( '-' )」


橙子「どうやら教えた方が良さそうですね、あなたの頭的に╮(•́ω•̀)╭」


那月「あ、翻訳機持っていけばいいんじゃない? うち、持ってるよ?( *´꒳`*)」


純「ジェスチャーもおすすめだよ〜( ´ ▽ ` )ノ」


黄河「う、うるせぇ! 伝わらなかったらの話だろーが!!ヽ(`Д´)ノ」


色んな意味で信用性ない男。

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