58.ひたむき王子は、大好きな姫を離さない
前回のあらすじ。
受験のためにこなくなった純を、心配する面々。
彼の一途な愛とは裏腹に、橙子は一人、
彼のために大きな決意をする。
新たな季節を前に、
それぞれが自分の未来へと動き出す――。
これは、それぞれが選ぶ、これからの物語ー
*純 side*
「……こんな感じかな。今日はこの辺にしようか」
暖房の音だけが響く静まり返った部屋で、重い筆記用具を置く。
目の前には、たくさんの問題が並んでいる。
正直、みたくもないものばかりで、頭がクラクラしてきちゃう。
「ふみゅう……疲れた……眠い……」
「あら、大変! 私、家まで送るわ。おぶってもいけるけど、どうする?」
隣で採点をしていた家庭教師のお姉さんが、心配そうに声をかけてくれる。
それでもボクは、間髪入れず、
「……ん、大丈夫。だってとーこのお嫁さんにならなきゃいけないから」
と、返事した。
中3の冬、もうすぐボクは高校生になる。
ずっと、今日まで頑張ってきた。
誰にも悟られないように、こっそりと。
すべては、とーこのため。
これが、初めてやりたいと思ったことだから。
「とーこ、ね……受ける時からそうだったけど、そこにこだわる理由もないっていうか……無理しすぎじゃない?」
わかってる、そんなこと。
ボクは頭がいいわけでも、容量がいいわけでもない。
いろんな人に反対された。先生、おじさん、そしてテストの結果。
それでも、曲げたくなかった。ここで曲げたら、とーこが遠くなっちゃう気がして。
とーこと一緒にいたい、そのためにはボクが頑張らないといけないんだ。
とーこの隣に、いてもいいように。
「そうかもだけど、ボクなりに頑張りたいんだもん。だってボク、とーこに好きって言ってもらってないから」
「好きって言ってもらってないって……そもそも相手はお嬢様なんでしょ? 純君がここまでする必要なんてあるの?」
「ある。とーこを幸せにするってきめたから」
「それでも私は心配なの! あの財前家の娘なんて、この先何があるか分かったもんじゃない……私なら、あなたを支えられる。純君がどこに行っても受け入れるわ! だからお願い、無理……しないで」
まただ、みんなしてこのセリフを言う。
ボクは別に、やりたくてやってることなのに。
とーこを好きになった時から、こうなることは覚悟していたつもりだ。
不得意なりに、頑張ってきた。
それでもまだ、届かない。
ねえママ、ボクにはやっぱり、無理なのかな?
とーこを幸せにするなんて。
「私を誰だと思ってるの? 私は財前家の娘、ほしいものはなんだって手に入れたいの。彼を苦しめる真似はもうしない。わかっちゃったんです。私が財前家の跡を継けばいいだけなんだって」
そんなことない、とばかりに彼女はボクの上をいく。
駅でバスを待っていた時に現れたのは、紛れもなくとーこだった。
あんなに財前家が嫌いだったはずなのに、継ぐことを堂々と宣言してしまう。
そう言い切る彼女はとてもまっすぐで、すごく強い目をしていて。
その強さに、お姉さんも何もいえなくてー
「みましたぁ? 今の帰り際のあの悔しそうな顔! 人のもの取ろうとするからこうなるのよ! こうちゃん達にも見せたかったわ」
「……とーこ。なんで、あんなこと言ったの?」
「ああでも言わないと、嫌でも離れないでしょ? あなたに気が合ったようだけど、相手が悪かったわね」
「でも、お家、嫌いなんじゃないの?」
「嫌いよ、家というよりその名前が。だからってあなたが無理をするのは、私が困るの。あなたにはあなたのやりたいことをやってほしい」
「とーこ……」
「それに私が財前家の橙子になったとしても、あなたは一人の私として愛してくれるでしょ?」
ああ、やっぱりとーこには敵わない。
こんなに頑張ってきたボクを、否定することなく受け止めてくれる。
強くて、かっこいい。ボクの大好きな人。
「……大丈夫だよ、とーこ。ボクが頑張ったのはとーこのため、だけじゃなくて、ボクのためでもあるから」
「? どういう意味?」
「ボク、パパとママのお店を守りたい。昔、とーこがここで笑ってくれたみたいに……とーこがいつでも帰ってこられる場所を、ボクがずっと守っていきたいんだ」
ずっと、なんとなく思っていた。
ここにボクがいたら、どうなるかなって。
小さい頃から、同じ景色を見ていたから、自然とそう思ったのかもしれない。
こーがみたいに、コーヒーは作れないかもしれない。
パパも、きっとよくは思ってくれないだろうな。
けれどボクは、ママがいたあの場所をなくしたくない。
アルカンシエルはとーこにとっても、ボクにとっても大切な場所だから。
こんなわがままくらい、許してくれるよね。
「だからボク、これからも隣にいるよ。大人になっても、おじいちゃんになってもずーっと」
「……好きにしたら。まっ、どう頑張っても、店長さんのコーヒーには敵わないと思いますけど」
「そういえば、さっき好きって言ってくれたよね? もっかい言って、ちゃんと聞きたい」
「ぜーーーったい嫌!」
繋いだ手は、どこまでも暖かい。
照れたように笑う彼女はいつにも増して可愛く、愛おしくみえたー
(つづく!!)
おまけの小ネタ
純「ただいま〜戻って来たよ〜|・ω・)ノ 」
橙子「はぁぁ、疲れた( ˘-з-)」
真冬「お疲れ、意外と早かったね」
那月「よかったぁ、戻って来てくれて! 純君が他の子に目移りしちゃったんじゃないかって、心配しちゃったよぉ〜(⸝⸝> н<⸝⸝)」
純「?? なんの話??( 'ω'))
黄河「とぼけんなよ。お前、見知らぬ女とたい焼きくってたんだろ? こっちは証拠写真まであるんだ、シラを切っても……」
純「……あー、家庭教師のお姉さんの話?」
全員「へ??」
純「休憩してた時に撮ったんだ〜今から帰るよって連絡付きで。お姉さんのことは、お店に来たことがあるから、パパは知ってるはずだよ?(˙꒳˙ )」
那月「ってことは、全然浮気じゃないじゃん! て、店長さんわざとやりましたね!?ε٩(๑>ω<)۶з」
藍「はてさて、なんのことやらー( ˙³˙)~♪」
橙子「もう!! しんじらんない!!! 私の苦労なんだったのよ!!ヽ(`Д´)ノ」
明音「もしかして僕達、最初から踊らされてたんじゃ……(^^;)」
真冬「……またしてやられたね、店長にε-(´-`*)」
黄河「相変わらず、師匠には敵わねーな╮(•́ω•̀)╭」
店員全員、策士・藍に溺れる。( ・´ー・`)




