57.わがまま令嬢は、純朴王子を逃がさない
年末年始が明け、いつも通りの日常が戻ってきた
アルカンシエルの面々。
そんな中、ふと純から告げられたのは
「店に来られない」という言葉。
新たな季節を前に、
それぞれが自分の未来へと動き出す――。
これは、それぞれが選ぶ、これからの物語ー
*橙子 side*
『ボク、頑張るよ。とーこをお嫁さんにするために。そのためならなんでもする。ボクを好きにさせるよ。待っててね、橙子』
あの時の彼の言葉が、私は忘れられない。
忘れることなんかできない。だって、すごく嬉しかったから。
ずっと、財前の娘として生きてきた。
それはこれからも……いや、きっと未来永劫そのことは変わらない。
それが私の運命。逃れられない、財前家の呪い。
そんな私を、たった一人の女性として見てくれた彼。
だから、言えなかった。ずっとそばにいて、なんて無責任なこと。
自分の存在が、彼を苦しめることになることくらい、わかっていたから。
「やっぱ静かだよね。純君がいないと」
なっちゃんが、ポツリという。
あれ以来、彼は本当に姿をみせなくなった。
彼がいなくなるのは、文化祭の時もあった。初めてではない。
だから全然、寂しくなんかない。
「あいつ無駄にこの店いるもんな。まあ、あいつにとっちゃここが家だから、当たり前なんだが」
「ちょっとぉ、皆さん寂しがりすぎません? 純ちゃんがいないだけで、そこまで気分下がりますぅ?」
「むしろお前がふつーすぎんだよ。一応彼氏なんだろ? 少しは気にしろよ」
「文句言ったところで仕方ないじゃない。純ちゃんがいないのは、ほとんど私のせいだもの」
私の言葉に、みんながさすがというように納得する。
そう、私は財前の娘。名前だけで大学にも簡単に受かってしまう。人がどれだけ頑張ったかなんて、嘲笑うかのようにあっさりと。
けど、彼は別。ただの一般人だし、そんなに勉強が得意ではない。
それなのにあの子はーー
「純君、そんなに難しい高校受けようとしてるのかな……藍さんは、なにか聞いてます?」
「さぁてねー。親権をあちらに譲ってからは、ノータッチなので。あーでも、女の人と話してるのはみたかなー」
「えっ、浮気ってこと?! いやでも、橙子ちゃん一途な純君に限ってそんなこと……」
「純はそうでも、相手はそうでもないんじゃない? 彼がいいって人は、少なからずいると思うから」
純ちゃんが、別の女の人といた、か。
大丈夫、彼がいいという人がいることなんて、わかってる。
文化祭での彼を見た感じ、クラスメイトからも好かれているのだろう。
だから、きっとみんなからはこうみえる。私が彼を苦しめている、と。
私は彼にとって、悪役……なのだから。
「……橙子ちゃん、大丈夫?」
あーちゃんの、声がする。
顔を上げると彼はいつもの優しげな視線で、こちらを向いていた。
「はぁ? 何急に、私いつも通りですけど」
「あ、ごめんね。なんか、いつもより寂しそうに見えて……」
「寂しい? 私が?? そんなわけ……」
「純君はいつも橙子ちゃんのことを思ってた。けど、橙子ちゃんは? 純君のこと、どうも思ってないの?」
「別に私は……」
「あー、そーだったな。お付き合いも仮とかいってたもんなぁ。純が誰かに取られよーが、どうも思わねぇんだろ」
かちん、ってきた。
そんなこと、あるわけない。
だからこの人は嫌いだ。ほんとわかってない。
「いいわけないでしょ! 思うからこそ、何も言わないんじゃない! あの子はいつも、私のために動いてきた。お父様の機嫌取りも、年末年始の挨拶回りだって、全部全部……彼の未来を縛っている私が! 言える立場にあるわけないじゃない!」
「橙子ちゃん……」
「そもそも私、頼んでないし! そうしろだなんて一言も!! 私はただ、純ちゃんは純ちゃんのままで……そばにいてくれるだけで、十分……」
「それ、本人に言ったのか?」
はっとする。
言われて初めて自分が彼に、気持ちをまったく口にしていないに気がつく。
つい黙ってしまうと、彼ははぁぁと深いため息をついてー
「いいたいことあんなら、はっきり言えよ。純にも、その女にも。いつものお前なら、そーするだろ」
その言葉が、私の心をくすぶる。
かぁぁと熱くなる体を放って置けず、私は荷物を持ってー
「店長さんごめんなさいっ、早退しますっ!!」
「はーい、どうぞ〜あ、ちなみに今改札前だって。たい焼き食べながら電車を待ってるそうですよー」
「ご丁寧ににどうも!!!」
「あの、橙子ちゃん! が、がんばれ!!」
みんなが、背中を押してくれる。
橙子として、見てくれてる。
純ちゃん、ごめんね。
わがままで、財前家の娘で。
やっと、わかった。あなたが苦しまない方法。
あなたが苦しむくらいなら、私がーー
「あのっ!!!」
改札前、そこに彼はいた。
その隣には大人っぽい女性がおり、仲の良さをアピールするかのように、たい焼きをシェアしている。
私がきたことを不思議そうにみている純ちゃんとは違い、隣の女性は怪訝に顔を顰めた。
「……なんですか、あなた」
「お初にお目にかかります、私財前橙子と申します」
「……! あなたが、純君の……私は家庭教師をしているものです。あなたのせいで彼、すごく無理してるんですよ?」
この人、私のこと知ってるんだ。
どうやら店長さんが話していたのは、彼女のことだろう。
聞かなくても、すぐにわかった。
私を見た途端、彼女の目が変わったから。
「寝る間も惜しんで勉強してるようで、この前も補習中に寝ちゃったり、忘れ物も多くなったり……志望校だってそうです。偏差値が全然届いてないのに、上の高校にこだわって。止めても聞かないんです、彼女のためだって言って」
「……そうですか」
「私なら、彼を支えてあげられる。彼のことをなんとも思ってないのなら、もう身を引いて……」
「誰が、なんとも思ってないですって?」
その言葉に、彼女が私を向く。
お父様、お母様。こんな私のわがままを許してください。
やっとみつけた王子様だから、彼じゃなきゃダメだから。
「私を誰だと思ってるの? 私は財前家の娘、ほしいものはなんだって手に入れたいの」
「なっ……! それは、彼を苦しめても平気ってことですか!?」
「それは違う、彼を苦しめる真似はもうしない。わかっちゃったんです。私が財前家の跡を継けばいいだけなんだって」
「とー、こ?」
「……大好きよ、純ちゃん。あなたはあなたのままでいて?」
今度は私から、その手を伸ばすの。
(つづく!!)
おまけの小ネタ
那月「それにしても、純君が高校受験かぁ。いつもここにいるから、中3だってこと忘れちゃうよね〜( ¯꒳¯ )」
真冬「実年齢より幼くみえるのは否めないよね。携帯の操作とか、ろくにできてないしε-(´-`*)」
黄河「にしても師匠、よくわかったな。たい焼き食ってるとか」
藍「その携帯練習にミーも付き合わされてるんですよー。意味不明な写真や連絡ばっかりきて。この写真や連絡も、そのおかげで、ってやつですかね┐(´д`)┌」
明音「え、これお相手の人!? 大人っぽい人、ですね……大学生くらい、かな……ど、どうしよう、僕余計なこと言っちゃったんじゃ……( ºωº ;)」
黄河「橙子といい、この女といい、純って意外と年上好きなんだな。俺には全く理解できん( ・᷄-・᷅ )」
真冬「子供っぽいしね、引っ張ってもらいたいタイプなんじゃない?ε-(•́ω•̀ )」
那月「それじゃあ橙子ちゃん、大ピンチじゃん! なんでそんなみんな冷静なのぉ?ヾ(・ω・`;)ノ」
この後みんなで無事を祈願した。⸜( ˆ࿀ˆ )⸝⚑




