53.走り続けたキミのために
前回のあらすじ。
黄河が財前父にスカウトされるも、
なんやかんやで断り、
明音の気持ちに変化が生まれた。
雪が、降っている。
気休め程度につけられた暖房の中、吐く息が白く空気へ溶けてゆく。
大会から一週間、すっかり十二月になりました。
どこもかしこも、今となってはクリスマス一点。
アルカンシエルの店内も、クリスマス限定のメニューや装飾で、彩られています。
「ねえねえ真冬。これ、どうかな? ブッシュドノエルをコーヒー味にしてみたんだけど」
「へぇ、いいんじゃない? 甘すぎなくて。上に置いてあるサンタは、なんで二体?」
「誰かと食べるとき、どっちが食べる? ってなっちゃうでしょ? 一緒のものを味わいたいかなぁって。はい真冬❤︎」
「………………どうも」
頬を染めた真冬ちゃんが、那月ちゃんのスイーツを口にする。
二人は相変わらずだ、ああいう雰囲気をみてるとすごく微笑ましくなる。
「とーーこーー、ボク達もやろーー。はい、あーん」
「や、り、ま、せ、ん!! あなた達も、公表したからって堂々といちゃつかないでください!!」
「ええ〜? いちゃついてないよ〜ねぇ?」
「……君たちよりはまし」
「二人ばっかりずるい〜ボクもとーこといちゃつく〜ぎゅ〜」
「ちょっ、だから!!」
それに負けじと劣らず、純君が橙子ちゃんにひっついていく。
二組のカップルは、順風満帆だ。
ずっとみてきたからこそ、嬉しい思いで心がいっぱいになる。
四人を見てると、心が軽くなるんだよなぁ……
「あ、そだ。明音君も味見……って、明音君?」
「ほえ?」
「どうしたの、ぼーっとして。疲れちゃった?」
気がついたときには、話しかけられていた。
しまった、と思い慌てて首を横に振る。
何事もないように、自然に、自然に……
「ごめん、なんでもないよ。味見だっけ、いただきまー……」
「……そういえば、今日黄河休みだね」
黄河、の名前にびくりとする。
それでも平然を保ち、彼女の質問に答えた。
「そ、そうだねぇ。何してるんだろぉ……」
「そういえばこうちゃん。あの後、お父様にちゃぁんとお店の話聞きにきたんですよぉ〜ちゃっかりしてますよねぇ?」
ぎくぎくっ
「こう君、最近調子いいよね〜大会に出たのが、よほど糧になったのかな?」
「こーが、ぜっこーちょー」
「み、みんなどうしたの? さっきから、こうの話ばかり……」
「どうもこうも、黄河のことでまた何か悩んでるでしょ。わかりやすいんだよね、君」
うぐっ……
「ごめんね? 打ち上げでも様子おかしかったから、気になって。うちらでよければ聞くよ?」
その言葉に、逃げられないと悟った僕は観念して話し出した。
気がついたら、あんなことを言ってしまっていたこと。
心のどこかで、彼が遠くへ行ってしまうのが、怖くてたまらなかったこと。
それを話すが否や、橙子ちゃんと那月ちゃんが嬉しそうな声をあげて……
「やだぁ、それって好きってことじゃないですか〜❤︎ おめでとうございまぁす♪」
「ってことは両思いかぁ〜こう君に言いなよ、絶対喜ぶよ〜」
「うーん……好き、なのかな……? うまく、いえないんだけど。真冬ちゃんの好き、とは違うって言うか……離れたくないって思っただけで、好きとは言い難いと言うか……」
僕は真冬ちゃんが好きだった。彼女を応援し、やっと笑顔が見れた。
そのことに悔いはない。そして今ではみんな結ばれ、どこかうらやましいとすら思っている。
だからこそ、わからないのだ。この気持ちが、なんなのか。
別に、こうのことが嫌いとか、そういうわけじゃない。
仮にこの気持ちが好きだったとして、真冬ちゃんのことは好きじゃなかった、みたいに言ってるように思えてしまって……
「……何を言い出すかと思えば……そこまで悩む必要、ある?」
真冬ちゃんの声がする。
彼女はため息をつくと、懐かしむような顔で告げた。
「君の好きは本物だった、それは僕が一番わかってる。その好きがあったから、黄河への好きに変わったってことじゃない? ちがう?」
「で、でも、好きかどうかもわかんないのに、こんな曖昧な気持ちで返事するのは……」
「最初はそんなんで、いいんじゃないかな?」
那月ちゃんが、僕の肩を持つ。
まるで励ますような、優しい声色だった。
「うちも、最初はそうだったよ? 真冬が誰かに取られちゃうって思ったら、すごいモヤモヤして。今好きだって言わなくたっていい。一緒にいる間、ゆっくり好きになってもいいと思うな」
「で、でも、その……」
「にえきりませんねぇ。いつもなら勢いで押し切っちゃいそうなのに、なぁにがそんなに不満なんですか?」
「……いいのかな、僕なんかが隣にいて」
こうのことは好きだ。あんなに好きって言ってくれる人、きっといない。
でも彼は、みんながいいと思うほど、とてもいい人だ。
そんな彼と付き合うのが、僕でいいのかー……
「あーーーもうっ! めんどくさい!」
すると橙子ちゃんが、いきなり立ち上がる。
何を思ったのか、彼女は僕の頬を引っ張り出してー
「いひゃいいひゃい、何するの、とーこちゃん」
「じれったいのよ! うじうじして!! それが閉店は嫌だとか啖呵を切った人?!」
「い、今それ関係な……」
「私はあの時、あなたがいれば大丈夫だと思った!! 私の本音を見つけてくれたあなたなら、この店をどうにかしてくれるかもって!」
その言葉に、え? と思わず呟く。
彼女の横で聞いていた純君が、懐かしむように言った。
「ボクね、あかねがいたからパパ戻ってきてくれたって思うんだ。ボクだけじゃ、話せなかった……こーがの隣にいるのは、あかねにしかできないことだよ」
「純君……橙子ちゃん……」
「うちさ、明音君が大会の時に叫んだ時、わかっちゃった。やっぱりこう君には、明音君しかいないんだなぁって」
「そもそも、悩むなんて君らしくないでしょ。僕の時みたいに、まっすぐでいいんだよ。黄河だって、君に救われた一人なんだから」
そういえば僕は、ずっと誰かのために走ってきた。
勢いのまま告白したり、閉店してほしくないと言ったり、藍さんを探しに行ったり。
そうすることでしか、自分の存在意義がないと思っていたから。
でも、違う。それが僕の良さなんだ。
こうはそのままでいいと評してくれて、みんなも救われた、なんて言ってくれて。
ああ、これ以上ないほどの褒め言葉、もらっちゃったな……
「あーあ、なんかむしゃくしゃしてきちゃった。背中、叩いていいですかぁ? 今後一生弱音を吐けないように」
「叩くのはかわいそうだけど……でも、明音君は、いつもうちらを応援してくれたもんね。今度は、うちらの番ってことかな」
「あかねなら大丈夫。がんばれ、あかね」
「君がどんな答えを出しても、黄河なら受け入れてくれると思うよ」
みんなの手が、僕の背中を押す。
この想いを伝えよう。
こうに、僕の気持ちをー
(つづく!!)
おまけの小ネタ
那月「それにしても、明音君がこう君とかぁ。ついにって感じだね〜告白した時はびっくりしちゃったけど(*´艸`)」
橙子「まあ、言われてみれば、とは思いましたけど♪( ◜ω◝ )」
真冬「それだけわかりやすいからね、黄河って」
純「二人が付き合ったら、このお店カップルだらけになっちゃうね〜(´∀`)」
明音「カップル、になるのかな……(^^;)でもみんなのおかげで、少し勇気が出たよ。ありがとう(*´ω`*)」
全員「…………( '-' )」
那月「ねぇ、うちら背中押してよかったん、だよね……?('ω' ;)」
橙子「……確認ですけど、ほんっとーーにこうちゃんでいいんですかぁ? あの人、結構意地悪だし、家事なんて絶望的ですよ?(¬_¬)」
純「こーが、色々言ってくるもんね〜コーヒーのこととか、すごいうるさそー( -ω-)゛」
真冬「正直黄河に君がもったいないかもね。もう少し考えてみたら?( ・᷄-・᷅ )」
明音「ええ!? どうしたの急に!∑( °д° )」
みんなの扱い、黄河<明音。黄河「おいこら( ・᷄ὢ・᷅ )」




