51.漢の終着点
前回のあらすじ。
バリスタ大会に向けて、
二人の特訓を介して、本番を迎えた。
タイムリミットが、刻々とすぎる。
張り詰めた空気の中、コーヒーの香りがその場を充満させてゆく。
審査員たちの視線の圧に、僕は思わずごくりと唾を飲みー
「審査結果が出ました。技術点、45点、味覚点66点、表現力62点。合計173点、エントリーナンバー58番、最終審査へ進出です」
「っしゃ!!!!」
彼の声と、まばらな拍手が会場に響く。
高らかに握られたこぶしをみて、僕はほっと肩を撫で下ろした。
今日は、ついにバリスタ大会の日。出場者であるこうの応援をしに、みんなで応援の垂れ幕まで会場にやってきている。
必勝という二文字は、それだけで伝わると、文字は真冬ちゃんが選んだものだ。
デコレーションは橙子ちゃん、書いたのは那月ちゃん……店のみんなの思いが詰まっている。
当事者であるこうは無事、第一、第二と勝ち上がり、次がもう決勝だ。
優勝まで、あと少しー見えるところまで来たというのに、僕の心は落ち着かなくて……
「総合点173点か……ギリギリだね」
隣で見ていた真冬ちゃんが、肘をつきながら言う。
その言葉に思わず、うっと声が漏れた。
「や、やっぱりそう、だよね……? 何が原因、なのかなぁ」
「そもそも技術点が低すぎ。あれだけ丁寧にやれって言ったのにできてないし。雑なんだよ、彼」
「真冬ぅ、そこまで言わないの! いいじゃん、勝ったんだから!」
「でもぉ、決勝はラテアートをあしらったオリジナルコーヒーでしょぉ? ただでさえギリギリなのに、独創性皆無なこうちゃんは厳しいんじゃないですかぁ?」
「ボクは好きだけどなー、こーがのラテアート」
そう、問題はかなり彼がギリギリであると言うこと。
大会に疎い僕にとって、こんなにも厳しいなんて思わなかった。
優勝が一筋縄じゃいかない。わかっていたはずなのに……
「どのみち決勝が厳しいのは確実だね。黄河、ギリギリまでコーヒーのアイデア浮かんでなかったみたいだし」
もし、彼が優勝しなかったら、どうなってしまうのだろう。
彼は僕の隣に並んで立ちたい、そう言っていた。
そんなこと、しなくてもいい。
無理して形にこだわらなくたっていい。
だって僕は、自分なんかよりずっと前から、一生懸命で不器用な彼の方が、ずっとすごいって知っているから……!
「ぼ、僕、ちょっと行ってくる!」
「えっ、明音君!? 行くってどこに!」
気がついた時には、席を立っていた。
静止するみんなの声なんて、聞こうともせず。
会えるかどうかなんてわからない。ただ僕は、ここで見てるだけなんてできないからー!
「こうっ!!」
一番前の席から、会場が見える。
そこにはけていくこうが、僕の声に顔を上げた。
目が合った途端、僕は何を言えばいいかわからなくなってしまい、咄嗟に
「勝っても、負けてもいい! 僕、ちゃんとみてるから!! こうのこと、ずっと!!」
って言ってしまって……
ぼ、僕のバカァ!! これじゃ、余計緊張させちゃうだけじゃないかぁ!
焦りと恥ずかしさが、急にぐるぐる頭を駆け巡る。
心なしか後ろから笑い声が聞こえるような、そんな気がしてー
「………んっとに、お前ってやつは……」
何か、声が聞こえる。
顔を上げると、こうは笑っていた。
僕の応援がおかしいとばかりに。
その笑みからは緊張なんて感じさせない、いつものこうそのものでー
その口が、縦と横に動く。
ばーか、と言っているのか、べーと舌を出してさえくる。
その顔に思わず、ドキッとしてしまってー
「明音君、もう何してるの! すみませ〜ん、失礼しましたぁ」
那月さんが、強制的に連れ戻す。
その最中も、彼の顔が頭から離れなかった。
決勝は程なく行われた。
決められた時間内で、一人一人が自分のオリジナルコーヒーを作る。
こうは、いつになく真剣だった。
静かに豆を挽き、お湯を注ぎ、いつもと変わらない様子でコーヒーを作る。
そして、ミルクを入れようとしたその時、彼はふっと笑ってー
「………ねぇな、やっぱ。俺、これで行きます」
会場が、ざわつく。
なぜなら彼は課題である、ラテアートをせずにただのコーヒーを出したのだ!!
「……天宮君、だったかな。どういうつもりだい?」
審査員長である橙子ちゃんのお父さんが、両腕を組む。
このままでは、大会のルールに則っていないことで、規則違反になってしまう。優勝なんてレベルじゃない。
それでも彼は、なぜか胸を張って堂々としていてー
「わかってねぇなぁ、おっさん。このコーヒーが、俺そのものなんだよ」
「……と、いうと?」
「ま、ほんとは、虹でも描こうと思ったんだけどな。飾らなくても、これが一番美味いって笑ってくれるバカがいる。……それだけで十分だろ」
心臓が、跳ねる。
その言葉が僕のことを示すことなんて、すぐにわかった。
こうは、ずるい。これでもかというほど、言葉や態度で示してくれる。
そんなこと言われたら、僕はー
「……やれやれ、とんだ大番狂せですねー。あなたは」
すると、ある一人が審査員席から立ち上がる。
藍さんだった。
彼はおもむろに歩き、そのコーヒーを口に入れる。
びっくりするこうに向けて、彼は一言、
「ここまで、よくきましたね。さすがはミーの一番弟子です」
藍さんが笑う、こうが一礼する。
瞬間、会場中は拍手に包まれる。
ラテアートの項目は、0点を言い渡されてしまったけど。
それでも、非難するものはいない。
観客席で見守っていたみんなも、心なしか晴れやかな顔をしていてー
「……飾らない、か。黄河らしいね、本当」
「なーにがらしいですか。お父様や店長さんに大恥かかせて!」
「でも、すごい拍手だよ。さすがこーが」
「こりゃあ、目一杯労わないとね。よかったね、こう君」
仲間たちの温かな声に、彼が後ろを振り向く。
目が合った瞬間、僕は強く、とても強くうなずいて見せる。
彼はにやりと笑い、やってやったぜとばかりに僕らの方へ拳を突き出す。
その背中は、僕が知っている誰よりも格好良くみえたー
(つづく!!)
おまけの小ネタ
那月「あー、びっくりしたぁ。まさか席を立ってまで応援するとはねぇ〜。審査員に止められなかったのが、幸いかなε-(•ω• )」
明音「うう、ごめんね……迷惑かけて……本当、申し訳ない……(>_<)」
真冬「気にしないで。大体の予想してたし、むしろ最低限のもので済んでよかったよ」
明音「……え、予想?」
真冬「明音ならやりそう、ってことをあらかた予想してたんだよ。ほら君、黄河の結果次第じゃ、絶対審査員に文句言いかねないでしょ?ε-(´-`*)」
明音「そんなことしないよ!?Σ(°д°ノ)ノ」
那月「他にも、審査員にこう君のよさを熱弁するとか、藍さんに賄賂渡しそう、とかもあったよねぇ〜( -∀-)」
橙子「あーちゃんって、そういうところありますからねぇ〜。止める身にも私になってくださいよ?╮(•́ω•̀)╭」
純「あかね、偉い。頑張った( -`ω-)b」
明音「僕のことなんだと思ってるの!?(꒪д꒪II」
勢いに全振りする男。(自他認)




