CASE 5:Kouga Amamiya
一人に、ならざるをえなかった。
誰にも頼らず、一人で生きていくしか無かった。
それを壊してくれた、唯一の存在。
彼の存在が、全てを変えた。
生き方も、思いも、そして、将来も。
隠し続けてきたこの想いは、
いつしか、
引き返せない「覚悟」へと変わってゆく――。
これは、そんな彼の話。
そして彼が歩む、これからの物語ー
*黄河side*
物心ついた頃から、仲間とか、友情ものとか、そう言うのが好きだった。
何かのために乗り越えたり、同じものを一緒にするような、そんな関係性に憧れがあった。
しかしそれは、儚く消えることとなる。
人の第一印象は、大体見た目で決まる。
お袋譲りの鋭い目と、親父譲りの長身。
そこにちょっといかつい系の服を着てりゃ、そりゃあ誰も寄ってこない。
ただ道を聞いただけで、その道を開けられ、向こうから話しかけてくる、なんてこともない。
どこに行っても見た目、見た目。ふざけんな。
こちとらタバコも、暴力だって振ったことがねえ。
学校だって無遅刻無欠席だぞ、親にだって褒められたってのに。
だから第一印象なんて、俺にとっちゃ呪いみたいなものだった。
それなのに、あいつはー大学の講義中に出会ったあいつだけは、違った。
「教科書、忘れちゃったんだよね? よければ、一緒にみようよ。隣座っていい?」
……今、こいつなんて言った? 俺の隣に座る?
正直、ビビった。こんな奴、今までいなかったから。
しかもこいつ、俺を前にして笑顔を向けてくる。頭おかしいんじゃねえの?
「お前……怖くねぇのか? 俺が」
「え、怖い? どうして? 僕、しってるよ。天宮君が優しいってこと。この前、みたんだ。迷子の子供と一緒に、お母さん探してたとこ」
「……マジか、みられてたのかよ。はず」
「恥ずかしくなんかないよ。むしろ優しい人だなぁって思ったんだ。僕、聖明音。実は前から、話しかけるチャンスを見計らってたんだ、よろしく」
聖明音。コイツは本当に馬鹿正直で、底抜けに明るい。
俺の見た目なんて、まるで最初から気にしていない。唯一そいつだけが、俺の中身を見てくれた。
彼といることで周りも、見る目が変わったのだろう。
相手から話しかけられるようになったのも、顔が広くなったのも、全部あいつのおかげだ。
とはいえ俺自身の見た目の評価は、相変わらずと言うほかない。
就職活動は全敗。履歴書を送れば書類で落とされ、面接に行きゃ「君、顔で損してるよ」と言われる始末。
なんなんだよ、どいつもこいつも。
「こうには、ちゃんといいところがあるよ。それが伝わる人が、きっといると思う」
それでも頑張ろうと思ったのは、明音がいたからだ。
落ちた時も、自分のことのように悲しそうな顔をしたり、励ましてくれる。
……かっこ悪い、何やってんだよ、俺は。
「おにーさん、見るからに路頭に迷ってますって顔してますねー。一杯、飲んでいきません? 新作の試食する人、探してたんですよねー」
そんな時、出会った。あの店ーアルカンシエルと師匠に。
初見は、ただの変な奴だと思った。
それまで喫茶店の中に入ることすらなかったし、コーヒーより酒が好きだった俺には、良し悪しなんてものはわからなかったのに。
ただ、その人のコーヒーを飲んだ瞬間、何もかもがひっくり返った。
まろやかなコクと、程よい酸味。砂糖もミルクも入れていないのに、異常に飲みやすく感じてー
「気なんて使わなくていいですよー、正直にうまいかどーかだけ教えてくれれば……」
「弟子にしてください!!!」
「……what?」
「弟子にしろって言ってんだよ!! 俺を!! ここで働かせろ!!」
俺は不器用だ。裁縫だって、料理だって向いてない。
それでも、これだと思った。これしか、ないと思った。
このコーヒーを極めれば、俺だって胸を張れる。
そして、明音の隣に堂々と立っていられる。
店のことは、黙っておこう。
一人前になる、その時まで。
だから俺は、必死に努力した。
師匠がいなくなっても、俺より腕がいいスタッフが入っても、ずっと。
明音のために、明音にかっこいいところを見せるためにー
「僕、好きな人できたかもしれないっ!」
それなのに、こいつのバカさは俺の予想を遥かに覆した。
は?? なんでだよ、なんでそうなるんだよ。
好きな人がこの店に入って行った??
ていうかここ、アルカンシエルじゃねえか。しかもよりによって、相手は真冬だと?
やってくれた。
隠し続けてきた修行も、一人前になって驚かせようとしていた計画も、全部台無しにしやがって。
真冬には他に好きな人がいる。それは知っていた。
だが、俺は明音に笑っていてほしい。だからあいつの恋を、とことん付き合って見守ることに決めた。
その道中で、那月の様子がおかしいことにも気づいていた。
傷つくと分かっていてもなお、真冬たちの仲を手助けしているあいつの姿も見ていた。
……全部知っていたのに、結局俺は何もできなかった。
「やっと伝えたんですねー、正直今頃? って感じしますけど」
「……師匠。みてたんすか、相変わらず、どこにでも出てきますね」
「最近の様子から、なんとなーく行動を起こすんじゃないかと思ってましたからねー。それにしても、あなたがバリスタ大会に出ると言い出すとは。世も末ですねー、そんなことしなくても、彼は十二分にあなたを評価してると思いますけど」
「わかってる。けど、今の俺じゃ、俺自身が認められねぇんだ。あいつらも変わったんだ、俺も腹括らねーと」
明音、俺の身勝手を許してほしい。
俺はお前が好きだ。
隣で笑ってくれればいいと、ずっと思っていた。
けど、それだけじゃ足りないんだ、今はもう。
「それに、俺は昔っから好きなもんにはまっすぐなんだ。止められる理由なんてどこにもねぇだろ?」
かっこよくなろう、強くなろう。
俺には、お前がいなきゃだめなのと同じように、明音には俺が必要であってほしい。
お前に笑っていてほしい、そのためならどんなことだってする。
一人で、どうしようもない俺に、光をくれたお前へ。
決戦の舞台が、今、幕を開けるー
(À suivre : La suite……)
*ケース話は、おまけはありません*




