5.夢中さ、君に
前回のあらすじ。
初めての喫茶店で
接客を頑張ってこなした。(しかし不発に終わった)
「それでねぇ! オムレツを作った青天目さんが、ほんっとにかっこよくて! 動作ひとつひとつが絵になるくらいの美しさだったんだよ〜」
つい一週間前の出来事を、あたかも昨日のことのように話す。
今でも鮮明に思い出せる彼女のオムレツを作る姿に、僕はまた感嘆のため息を漏らす。
『………ふーん、随分と楽しそうだな』
そんな僕とは真逆な、無関心極まりない声が聞こえる。
電話の先は無論、友人であるこうだ。
今日は、お店が休みの日。
仕事柄なかなか休みが合わないため、こうして電話で現状を報告してるわけだけど……
「あのぉ、黄河さん? 黄河から店のこと聞いてきたんだよね? それならさぁ、もう少し興味を持っても、いいんじゃないかな?」
『俺が聞いたのはあくまで仕事のことだ。真冬のことを聞きたいわけじゃねっつの』
「そ、それは……ごめん……」
『真冬があれだし、どーせすぐ根を上げて諦めると思ってたんだが……まさかここまでとは。恋愛の力すげーな』
「それ、どう言う意味?」
人は、恋愛すると見違えるほど変わると言う。
興味がなかったおしゃれをするようになったり、相手への気を引くために何かしたり、人それぞれだ。
正直、自分でもびっくりするほど、僕も影響を受けている。
青天目さんのことなら些細なことでも、すべて見てしまうし、覚えてしまう。
例えば、お箸を持つ手が左だったな、とか。休憩中は本を読んでいるな、とか……
『で、肝心の仕事は? うまくやれそうか?』
「まあ、なんとかね。覚えるのがやっとだけど……頑張ってやってみる! 本当は、青天目さんや他の人と、もっと仲良くなりたいんだけど」
『……あ、そういや那月から伝言頼まれてたんだわ』
「伝言って?」
『今晩、18時に店集合。服装は私服でいいって』
コンバン??? 今、今晩って言った???
まさかと思いながらも、壁にかかった時計を振り返る。
ゆっくり、恐る恐る視界に入ってきたのは、17時を指した時計の針でー
「えっ、もう1時間前じゃん!! なんでそんな大事なことを先に言わないの!!?」
『どーでもいい惚気話を延々とするお前が悪い』
「うわぁ、服どうしよう!!」
通話状態にしたまま、派手な足音をたてて動き出す。
そして、引き出しにある服を手に取ってはあわせ、取っては合わせを繰り返した。
「これは、カジュアルすぎるか……これだと張り切りすぎ?? ああ、もう決まんない!!」
『何で今更服選び出してんだよ。たかが私服なんだし、何着たって一緒だろ』
「ずっとスーツだった僕にとって、初めての私服出勤なんだよ!? 見苦しすぎる格好なんて、青天目さんにはみせられないよ!」
『そーゆーもんか?』
「紫藤さんに連絡つくんだよね? それなら、一言言っといてくれない? 少し遅れます、こうのせいでって!!」
『そんな焦らなくても、遅い方が助かるってあいつも言ってた……っと、わりい。俺も用あるから抜けるわ。あんまり考えすぎんなよ』
「あ、ちょっとこう!!」
受話器の向こうから、通話の切れた音と皿を置くような音がした気がする。
相変わらず、彼は忙しいなあ。まあ、長々話していたし、しょうがないんだけど。
とりあえず選んだ服を着て、僕は慌てて家を出る。
店内と家の距離は、近くもなければ遠くもない。
JRで十五分揺られた後、駅から徒歩で5分ほどかかる場所にある。
とはいえ体力もなく、出るのも遅かった僕が、18時に着くにはとても無理すぎて……
「あっ、きたきた。聖くぅん」
店の入り口がみえると、そこには紫藤さんが出迎えてくれていた。
まさか、待っていたのだろうか。そんなこと考えるまもなく、僕はすぐ頭を下げた。
「す、すみません!! 遅れてしまいました!!」
「もしかして、走ってきたの? 全然ゆっくりでよかったのに」
「そ、そんなわけには……でも、どうしたんですか? 今日、お店休みなのに」
「まあまあ、中入ったらわかるって!」
有無を言わさず、背中を押される。
中に入ると、そこにいたのはー
「あ、きたね。お疲れ」
「よう。まってたぜ、聖」
いくつものテーブルが、中央に寄せられている。
その上に揚げ物、サラダ、飲み物など、様々な食べ物が置かれている。
その食卓を囲むように、青天目さんと店長さんの二人が僕を見ていてー
「えへへ、びっくりした? 今日は、聖君の歓迎会含む、親睦会しまーすっ!」
紫藤さんが、にこやかに笑う。
事態が飲み込めない僕は、ずっと目をパチパチさせるしかなかったー
(つづく!!)
おまけの小ネタ④
黄河「明音、今から向かうってよ。準備、できてんのか?」
那月「うん、今出来たたとこだよ〜( ^ᵕ^) 聖君が来る頃には、焼き菓子も焼き上がると思う!」
黄河「揚げ物にサラダ、それに焼き菓子か……ふっつーだな。ケーキくらい作ればよかったものを( ・᷄〜・᷅ )」
真冬「この短時間じゃどう考えても無理でしょ。急に言い出した挙句、電話で抜けてた君に言われる筋合いはないんだけど( ・᷄-・᷅ )」
黄河「仕方ねぇだろ、こいつ休みのたびに真冬真冬うるせーんだよ」
真冬「その割には自分からかけてた気がするけど。もう彼来てるんだし、仮面つけて大人しくしてて」
黄河「てめっ、やめろこら!ヽ(`Д´)ノ」
那月「聖君、喜んでくれるかなぁ〜♪(*´ ˘ `*)」
歓迎会まで後少し!




