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21.漆黒が芳すその謎は

前回のあらすじ。

休日に行った喫茶店で蜜柑とばったりあうが、

そんなに悪い子じゃなさそうだった。

夏の日差しが、アスファルトを照りつける。

肌をじりじりと焼くような暑さの中、汗が額を伝ってゆく。

うるさすぎる蝉の鳴き声が、さらに自分の体温を上げるような気がしてー


「暑い……」


季節は夏真っ盛り。僕、聖明音は今日も今日とて、仕事中です。

ついさっきまで接客していたのだが、野菜等の在庫が少ないこともあり、買い出しにやってきている。


以前真冬さんと行った店に、と言う話も出たが、なんでもこうが特売で安いお店を見つけたとかで、遅くなっても良いからと少し遠いお店に足を運んでいる。

見つけてくれた那月さんは、自分が行くと言ってくれたけど、スイーツの要である彼女が抜けては元も子もない。

かたや真冬さんは料理担当、そしてこうはコーヒー担当と、一人欠けてはお店の運営に差し支えてしまう。

ということで、僕が行くことになったんだけど……何もできないって、本当申し訳ないなぁ……


「野菜、調味料……頼まれてたのはこれだけかな? そろそろお昼時だし、お店に戻らないと」


「ねえ、あの人やばくない?」


「しっ、見ない方がいいって。絶対不審者だよ〜」


通りすがる人の声が、聞こえる。

振り返ると、そこには不自然すぎる人がいた。

顔が見えないくらい深く帽子をかぶっていて、全身真っ黒な服装を身に纏っている。

とてもじゃないが、普通ではない。

おまけに長袖なんて、真夏に暑くないのかなぁ、なんて思った次の瞬間、その人が前につんのめるように倒れてー


「うわぁぁ!!!? だ、大丈夫ですか!?」


気が付けば、駆けつけていた。

変な人とか、不審者かもとか、そんなのもうどうだっていい。

目の前で倒れた人がいたら、助けないと!!


「き、救急車!! 救急車呼びましょう!! えっとぉ、あれ?! 何番だっけ!!?」


とはいえ僕は、ただの一般人。

対応ができるわけも、冷静な判断ができるわけがない。

そうだ、こうに連絡しよう。なんて思いながら、携帯に指を走らせたその時ー


「………ず……」


「え?」


「救急車……呼ばなくて、いいんで……水を……ください……」


消えるような声が、聞こえる。

意識があった、それがわかった僕は心底ホッとしたのだった。



「あー、生き返るー……すみませんねー、お水もらっちゃって」


さっきまでの危機感を感じられないくらい、のんびりとした口調が聞こえる。

片手で水をごくごく飲んでいる様子を見ながら、僕はぽかんと口を開けることしかできなかった。

午前十一時を指した頃、倒れた人と共にいるのは、近くの公園だ。

目立つからと、少し元気になった彼がここを教えてくれたのだ。

人気がない小さな公園は、木陰が多いこともあり、風がが吹き抜けて涼しく感じるけど……


「いやー夏は厄介ですねー。歩くだけで死にかけることになろうとは」


「そ、そうですね。でも、その服装で歩いてるから、余計にだとは思いますけど……」


「手厳しいですねー。助けてくれましたし、頭の片隅には入れておきますー」


だらんと丸まった猫背に、眠ってしまいそうなくらいだらっとしたタレ目。

さっきはみえなかったが、帽子の下から金色のような黄色のような髪色が少しだけみえている。

首には紐……があるみたいだけど、何があるかまでははっきりわからない。


体は痩せ細っていて、正直倒れるのも無理もないと思ってしまうほど弱々しい。

そして語尾を伸ばす特徴的な喋り方……全てにおいて生気を感じない。

それになぜか……初めてあったはずなのに、誰かに似ているような、そんな気がしてー


「それにしても、あなたもよく声かけましたねー。みるからに不審者じゃないですかー、ミー」


「目の前で倒れられたら、誰だって声かけますよ」


「お人好しな方ですねー。この辺の人ですかー? 随分買いこんで大変ですねー」


「ああ、仕事できてるんです。僕、喫茶店で働いてて、その買い出しで」


彼の眉が、少し動いたきがする。

気のせいだったのか、彼は何事もなくへぇ〜と変わらない調子で話し出した。


「大変ですよねー夏は。電気代の節約だったり、食材の鮮度保持だったり」


「お詳しいんですね。確かに大変ですけど、楽しいですよ。周りの先輩もいい人ばかりで……あ、でも……」


「自分は何もできなくて情けない、とか?」


どうして、わかったのだろう。

咄嗟に彼を振り返る。

太陽の光が差し込んでるにもかかわらず、彼の瞳は深い漆黒で、表情が読み取れない。

それでも彼は、変わらぬ調子で淡々と語り出した。


「ありますよねー、周りがすごすぎて自分の存在価値がないーってやつ。そこまで考えることありますー?」


「だ、だって……みんな、本当にすごいんです。ただでさえお店大変なのに……何も力になれなくて」


「その周りがどーなのかは知りませんが、人は人、っていうじゃないですかー。気にするだけ時間の無駄ですよー」


「そ、そうなん、ですかね?」


「それに、あなたも相当すごいと思いますよー? 見知らぬ人を助けたり、普通に話してるだけで充分」


やる気も、覇気もない。のんびりとした喋り方。

それなのに発する言葉は、僕自身への労いに聞こえる。

見た目だけは、変な人同然なのに。

……違う。この人は、変な人でもなんでもない。

きっと優しくて、温かい人だ。みんなと、同じように。


「あ、あの!! ありがとうございます!!」


「なんでお礼言うんですー? ミーが言う立場なのに」


「そうなんですけど、相談乗ってもらったので……」


「随分変わった人ですねー。ミーがいうのもなんですが」


「あの! よかったら、うちの喫茶店にきませんか? コーヒー奢りますよ!」

 

「あー……いいですー、お気持ちだけで。ミー、コーヒーは好きじゃないんで」


その言葉に、え? と思わず呟く。

嘘だ。そんなこと、あるはずがない。

彼から、同じ匂いがするのだ。店で焙煎している珈琲豆と同じ、焦げたナッツのような香ばしい匂いが。

だって、毎日嗅いでるんだ。間違えるはずがない。


それでも、いえなかった。ううん、言い出せる雰囲気じゃなかった。

その言葉を口にした彼が、少し苦しそうな、歪んだ顔で、首元にあたる部分をぐっと掴んでいたからー


「じゃ、ミーは疲れたので、帰りまーす。お疲れ様でしたー」


そんな顔は一瞬で、あたかも気のせいと思わせるくらいひらひら手を振りながら、その場を去っていく。

彼の言動の意味が僕にわかることなく、遠ざかる背中をじっと見てることしかできなかったー


(つづく!!)




おまけの小ネタ

明音が買い出しに行ってる頃、お店ではー


黄河「暇だわ( ・᷄-・᷅ )」


那月「こないねぇ、お客さん」


真冬「今日は一段と静かだよね。彼がいないことも関係してるんだろうけど( - - `)」


那月「そういえば明音君は買い出しだっけ? 前は3人だけだったのに、いないと寂しいもんだよねぇ〜」


真冬「ま、いてもうるさいだけだけどね。お皿割ったり、接客であたふたしてたり」


黄河「あれでもマシになった方だけどな。にしてもお前がそんなこと言うとは、珍しいこともあるんだなぁ?? まさか、寂しいのか?( -∀-)」


真冬「寂しいのは君のほうでしょ。さっきから時間ばっか気にして……正直目障り」


黄河「なっ!( ゜д゜) お、俺はただ、帰りが遅いから心配して……!(`-´)」


那月「明音君、早く帰ってこないかなぁ〜♪(*^^*)」


なんだかんだで喫茶店に馴染んでいる明音でした。

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