11.不器用店長は、今日も今日とて店を振り回す。
前回のあらすじ。
閉店を知らせに来たお嬢様に抵抗したところ、
閉店まで猶予をもらえた。
ついでに店長が、親友の黄河だとようやくばれた。
初夏。木々がざわめき、小鳥がにぎやかにさえずっている。
柔らかい風が肌に触れ、夏の匂いが少し混ざって薫る。
そんな中、僕は彼をじっと見据えた。
「…………えー、この度私、店長天宮黄河は? 聖明音に嘘をついていたことを謝罪し、今から……なあ、これ読まなくてよくね」
「だーめ。ここまでしないと、こう反省しないもん」
「どんだけだよ。……あー、今から聞かれることに対して、全て話すことをここに誓います」
正座をした彼が、言いたくなさそうにメッシュ混じりの髪をかく。
謝罪文とかかれた紙を読みおえた彼に、真面目にやって、とつぶやいた。
「おはよ……朝から何してるの君たち」
「あ、真冬。なんかわかんないけど、今から事情聴取するんだって」
「閉店を黙ってたこと? 丸く収まったんだし、何も正座させてまで怒らなくても」
「それがさぁ。明音君、店長がこう君だったことに怒ってるっぽいんだよね」
「ああ、それで」
着替えを終えた青天目さんと那月さんが、冷めた視線をこちらに向ける。
騒動の翌日、僕はこうを呼び出した。彼女たちより早く。
理由はもちろん、彼から事情を聞き出すためである。
「君たちって確か大学からの仲なんだっけ? 僕的には、あれで気づかない聖もどうかと思うけど?」
「わ、わかってます、僕の落ち度もあるってことは。でも問題は、どうして黙っていたか、なんです。こう、今までお店のことはおろか、就職先の話全然してくれなかったので」
彼の成績は悪くない。
でも見た目や言動のせいで、誤解されることが多い。
だから就職先が決まったと聞いたときは、自分のことのように嬉しかった。
こうの良さが、伝わる人がいたんだって。
けれど彼は、それ以上何も言わなかった。
飲食系とだけ言って、職場の話を避けた。
元から多くを語らない性格だったし、むしろ話してほしくなさそうだった。
だから僕も深入りしなかったけれど。
「どうして言ってくれなかったの? ここに働くって言った時だって、隣にいたのに……あの時に店長ですって、言ってもよかったよね?」
僕の質問に、彼は答えない。
しばらくすると、頭をかきながらため息をついてー
「………んだよ」
「え?」
「恥ずかしかったんだよ!! 文句あるかこら!!」
と、彼は勢いよく叫び、すぐに顔を逸らしてしまう。
予想外すぎる答えに、きょとんとしてしまう。
逆にそれを聞いていた那月さんは、ぷぷっとと笑い出した。
「恥ずかしかったからって、こう君、可愛すぎ……っ」
「わーらーうーな!! ぶん殴るぞ那月!!」
「だってぇ、お面まで被ってたし、余程の事情があるのかと思うじゃん? ねえ?」
「浅すぎにも程があるでしょ。さすが黄河」
「……やっぱりお二人は、最初から知ってて協力してたんですね」
そういうと、那月さんはごめんとばかりにウインクする。
初対面のときから、三人は親しげだった。
こうは遠い知り合いだとか言っていたけど、それが仲間同士だったと考えれば納得はいく。
それでも、どこかモヤモヤするのは、言ってほしかったという気持ちが勝つからだろうか。
そんなことを思ってる僕に、青天目さんがため息混じりに告げた。
「知ってた、というか。付き合ってあげたんだよ、この茶番に。この人、あまりにも必死だったからさ。明音って人が来ても、自分を知らないふりをしろって。君が働く前から、ずっと」
「えっ、こうが、自分からですか?」
「明音君も知ってると思うけどさ。こう君って、ものすんごい不器用なんだよね」
いわれてみれば、大学時代のこうは家庭科の成績が壊滅的だ。
大学時代の彼は、包丁すら持ったこともない、ご飯も全てレトルト一択という、ザ・不器用。
でも僕が見たのは、店長として手際よくコーヒーを淹れる姿でー
「見た目不良で、不器用な俺が急にコーヒー淹れます〜なんて言ってみろ。お前、絶対止めただろ?」
「そ、そんなことしないよ! 心配はしたかもだけど……」
「……だから、自分で決めてたんだ。うまくなって、勉強とかやることやって、自分に自信が持てるようになってから話そうって。いるのは4年前だが、ちゃんと働き始めたのは2年前からだ。店長だって雇われみたいなもんで……要は、男の意地みたいなもんだよ、悪かったな」
照れ隠しのように顔を逸らすこう。
そういえば昔も、そんな顔をしていた。
入社して落ち着いた頃、久しぶりに会った彼の手は、絆創膏だらけだったのだ。
僕が聞いてもちょっとな、なんて誤魔化すように顔を逸らしてたっけ。
……ああ。変わらないな、こうは。
「僕のほうこそ、ごめん、話も聞かずに怒って。……でも、もう秘密はなしだからね? 大事なことはちゃんと話すこと!」
「あー……気が向いたらな」
「もぉ、そういうとこ!!」
「まあまあ明音君、親しき仲にも礼儀ありっていうし」
「黄河って、大事なことほど言わない癖あるよね。今回の閉店だってそうだし」
はっ、そうだった! 閉店!!
「……僕、大手会社の娘さん相手に大見得を切っちゃったけど……大丈夫だった?」
「いいんだよ。お前のおかげで最後のチャンスをもらえた。むしろお手柄だ」
「でも、ショッピングモールとか、赤字とか。あれ、本当なの?」
那月さんが心配そうに聞く。
あの時はなんとか首の皮一枚つながったと思ったけど、まだ油断できないようだ。
「お前らも感じてるだろ。客が少ねぇって。……悔しいが、あいつの言ってたことは事実だ」
「そ、そんな……じゃあどうしたら……」
「決まってんだろ。八月末までに売り上げを伸ばす! この店を閉店になんて、させねぇ」
彼はホワイトボードを取り出し、ペンを構えた。
「つーわけで今日は作戦会議だ!! 案を出すまで帰れねぇと思え!」
「……どこから持ってきたのそれ。お客さん来たらどうするの」
「そん時はそん時だ! ほれ、案出せ案!!」
ニヤリと笑うこうに、思わず笑ってしまう。
こうして僕たちの長い戦いは、幕を開けたのです!!
(つづく!!
おまけの小ネタ⑩
明音「それにしても、あんなに不器用だったこうが、コーヒーを淹れれる様になるなんて……立派になったなぁ(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷̥́ ᵕ ᵒ̴̶̷̣̥̀⸝⸝⸝)」
黄河「親かよお前は。これでも苦労したんだぜ? ま、俺にかかれば余裕だったがなっε-(`・ω・´)フンッ」
真冬「……ここで、天宮黄河さんの不器用記録をご紹介します」
黄河「あ?( ・᷄-・᷅ )」
真冬「まず、料理壊滅問題」
那月「あー、こう君、砂糖と塩の区別すらつかないから……最近まで、コーヒーがしょっぱいって言われてたっけ。それ以前に、大さじとか料理の細かい分量無視しちゃうから、厨房出禁になっちゃったりしたし……(^_^;)」
真冬「次に、裁縫壊滅問題」
那月「針に糸通すだけで一週間かかったって聞いた時は、さすがにびっくりしたなぁ〜」
真冬「他にもクレームに対抗するわ、店の備品壊すわ、指示や指摘が適当すぎるくせに文句いうわ……散々だったよ。他にもあるけど、全部聞く?( - - `)」
明音「え、えっと……大学時代とかわらないので、大丈夫です(•ᴗ•; )」
黄河「おいまて。最近はやらかしてねぇだろ。つーかなんでそんなに覚えてんだ、今すぐ忘れろ( ・᷄-・᷅ )」
苦労の末、店長になった男。




