10.鬼面店長の正体は閉店フラグと共に
前回のあらすじ。
二人きりでわっほいしてたら、
店の閉店を通告された。
店内のBGMが、タイミングを見計らったようになりやんでいる。
ドリップの液が、時を刻むように落ちてゆく。
そんな沈黙を破るように、彼女ー青天目さんは、冷静に返した。
「悪いけど、僕は店長じゃないよ。那月、あいつは?」
「仮眠してる。その入れ違いに店長をって言われたから、うちが代わりに用件を……」
「その制服、白椿附属校だよね? ここから一時間はかかるのに、わざわざくるなんてよっぽど暇なんだね」
「ちょ、真冬!! 言い方!!」
「そちらこそ、随分横柄な態度ですね。私を誰だかご存知ないんですか?」
そういうと、彼女はそっと一歩下がる。
右足を斜め後ろにひき、左足の膝を軽く曲げ体を沈めると、両手でスカートの裾を軽く持ち上げ、頭をさげた。
その様子はさながら、貴族のお嬢様のようでー
「改めまして、私は財前蜜柑。財前コーポレーション社長の一人娘です。たまたま近くに来たので、ご挨拶に伺いました」
「ざ、財前!? それってもしかして……」
「はいっ。この店を経営している、あの財前コーポレーションですよぉ?」
財前コーポレーション、それは日本人なら誰でも知っている大手企業の名前だ。
主に飲食店経営を行っていて、テレビのCMで見ない日はない。
社長さんの顔も随分有名だし、僕も知っているけど……まさかこの喫茶店に、財前コーポレーションが関わっていたなんて。
「ふうん、財前ねぇ……高校生なのに親の会社に首突っ込むなんて、大したお嬢さんだね。閉店のこと、店長は知ってるの?」
「はいっ、蜜柑ちゃん優しいですから、前々から通知してあげてましたよぉ? なのにあの人、ぜぇんぶ無視するんですもん。だからきちゃった❤︎」
「い、いきなりそんなこと言われても、急に閉店だなんてできないよ。他のお客さんのことだってあるし……」
「あらやだ、これだけしんとした状態の店で、よくそんなこと言えますね? この店にくるお客さんが少ないことくらい、働いてるあなた達が一番わかっているんじゃなくて?」
財前さんの声のトーンが、一段と低い。
まるで、逃げ場はないと言わんばかりに、目の前を茨で閉ざされているように。
閉店。まるで雲を掴むような話で、いまだに実感が湧かない。
けれど彼女のいうことも、少しわかる。
実際僕が入ってからもお客さんは少なかったし……
でも、だからっておとなしく受け入れるのは、違う。
「実際、ここをつぶして大型ショッピングモールに別チェーン店を建てるって話もでてるんです。見苦しい言い訳してないで、さっさと閉め……」
「待ってください!! 閉店なんて、させません!!」
気がついたら、叫んでいた。
いつもより大きく、はっきりとした声で。
その様子に、みんなどこかびっくりしたような、そんな顔つきだった。
「経営が難しいなら、売り上げを伸ばせばいいだけの話ですよね!? 閉店なんて、そんなの絶対ダメです!」
「おお〜……明音君、かっこいい!」
「まあ、威勢のいいですことっ。そこまで言い切るなんて、何か理由でも?」
「だって、だって……閉店したら青天目さんに会えなくなるじゃないですか!!」
「うんうん、そう……え? 理由それ??」
「別にここがしまっても、会おうと思えば会える気がするけど」
「ここじゃなきゃダメなんです!!! この店は僕にとって、始まりの場所なんですから!!!」
呆れているのか感心しているのか、各々の様々な感情が僕に向けられる。
それでも閉店してほしくない、と言う気持ちは彼女達も同じなはず!!
「真冬に会えなくなる、か。相変わらずだな、お前は」
厨房から、人が出てくる。
いつからいたのか、そこには鬼の面をした店長がいた。
面の下、ふっと口角があがる。
すると何を思ったのか、彼は面の紐を取ってー
「悪い、遅くなった」
そこにいたのは、紛れもなく親友のこうだった。
メッシュ混じりの髪をかきながら、よっと軽快に手を上げる。
その姿に、僕は訳がわからなくなってー
「こ……こう、なの?」
「よ、明音」
「え、ちょ……なんでこうがここにいるの?」
彼がここにいる。それだけはみたら、別に不自然ではない。
でも、明らかにいつもと違うのは、その彼がアルカンシエルの制服を着ていることだ。
着崩し方はまんま店長さんと一緒。
それだけでなく、片手にはお面が握られていた。
人見知りだと言って決して素顔を見せなかった店長が、していたものと全く同時のお面。
すると彼は、はぁ〜とふかぁぁいため息をつき、
「なんでも何も、俺もここの店員だからにきまってんだろ」
「えーっと、それはつまり……」
「俺がここの店長だってこと」
とあっさり答えを……って、ええぇぇぇぇ!!?
「うそ! だってそんな! じ、じゃあ宇賀あまみって!」
「偽名に決まってんだろ。鼻からいねーわ、そんな奴」
「さ、最初からこうだったってこと!!?」
そんなこと、あっていいのだろうか。
そりゃあ、どこかでずっと、似ているとは思っていたよ?? 声とか雰囲気とか、考え方だって似通ってたし。
でもまさか、店長とこうが同一人物だったなんて!!
……いや、今思えば、最初から気づくべき点はたくさんあった気がする。
顔を隠したお面での登場、人見知りという割には僕らに普通に話せているというガバガバな設定。
さらに彼とまったく同じピアスに、一度だけ呼ばれた気がする僕の名前ー
な、なんで気づかなかったんだろう……これじゃ、僕が馬鹿みたいじゃないか!
一人で頭を整理させているのに気づいてるのかいないのか、こうは僕たちを守るように彼女の前に立ちはだかった。
「よぉ、財前。見ない間に随分偉くなったな」
「そちらこそ、この期に及んでお仲間を増やすなんて、どういうおつもりなんです? 増やしたところでどーにもならないというのに、お馬鹿さんですことっ❤︎」
「どーせお前が勝手に言ってることだろ? 悪いがここにいる連中は皆、ここを閉店にするつもりはねぇ。ここは俺らにとっても、大切な居場所なんだ」
その目は、まっすぐだった。
闘志に満ち溢れており、どんな相手でも物おじしないのが目に見える。
きっと彼女たちも、僕も同じ。
それを感じ取ったのか、彼女はふうんと呟き、つまんなさそうに言った。
「そこまでいうんだ? なら、最後のチャンスを与えてあげちゃいます。8月31日。そこまでに売り上げをあげてください」
「えっ、本当ですか!?」
「ま、無駄だと思いますけどね〜? せいぜい頑張ってください、閉店するその日まで♪」
くつくつ笑いながら、彼女は店を後にする。
なんだか、とんでもないことになってしまったみたいです!
(つづく!!)
おまけの小ネタ⑨
財前蜜柑、強襲&黄河、推参!!
明音(ま、まさか、こうが店長さんだったなんて!!((((;゜Д゜))))
黄河「ふぁ……ねっみぃ〜どこかの誰かさんのせいで、寝不足だわ。ったくε-(´-`*)」
那月「ご、ごめんね、起こしちゃ悪いと思って……( ´>ω<)人 でも、いいの? お面……」
黄河「ここらが正念場だと思ってな。それに、さっきの俺、ちょっとかっこよくなかったか?(`•∀•´)✧」
真冬「それ、自分で言う?( - - `)むしろ言うには遅い方でしょ。それより……」
明音「あれ、てことは……僕、店長さんにこうのいいところとか、話したことあったよね?! 知らずに本人に言ってたってことになるの!? わわっ、は、恥ずかしい!!(´∩ω∩`;)」
真冬「あれ、どうにかしてくれるよね。君の後始末として」
黄河「………('ω' ;)」
黄河の苦労はまだまだ続く。




