07.終了
しばらくしてガージェスが、それらしいものを見付けた。
件名は「魔法道具闇販売について」とある。
日記にあった通り、自分で作った魔法道具を闇ルートで販売し、手配されている男について書かれていた。
犯人とされている男は「グレバーニという魔法使い」と書かれているが、検束はできないまま、となっている。
つまり、容疑者を捕まえられず、未解決ということ。
グレバーニから魔法道具を買ったという人間が数名捕まっており、その供述から彼は一人で魔法道具を作っていたようだ。
販売する時は何カ所かの闇ルートを扱う人間を使い、店に出したり注文を取っていたようだが、彼がどこでそれらを作っているのかは突き止められないまま。
捕まった「客」も、さすがに製造場所までは知らなかったようだ。本人に連絡がついて、商品を手にできればいいので、作っている場所などに関心はない。
ずっと調査は続いていたものの、ある時を境にグレバーニはぱったりと姿を見せなくなった。
最後の購入者が捕まってから、およそ十年。捜査は続けられたが、グレバーニは見付からないまま。いわゆる「迷宮入り」となった。
「日記に解決の文字がなかったって言ってたけど」
「ああ、本当に未解決事件だったんだな。組織で動いているようではなかったし、十年も音沙汰がなかったから捜査が打ち切られたんだ。魔法道具を悪用した奴が野放しのままっていうのは、気に入らないけど。百年近く経っているから、少なくともこいつは死んでる。延命できる薬でも作っていたって言うなら、話は別だけど。それなら、ずっと商売を続けているはずだ。この話はここで終わり、だな」
闇ルートそのものは人が替わり、きっとどこかで続いているだろう。それについての捜査は、専門の部署がする仕事。
ガージェス達がすることは、この「グレバーニが起こした事件」についての内容確認なので、この件に関しては終了だ。
ガージェスは資料に書かれている必要な文字を紙から浮かせ、自分が持って来た紙にその文字を焼き付ける。
浮いていた文字はすぐに元の資料へ戻り、ガージェスの手元には複製した文書が残った。
「捜査資料の文書なんて、必要なの?」
「調べた結果、こういった事件資料があったってことをチームリーダーに報告しなきゃいけないからな。これで、あの日記に関しての憂いは全部なくなるって訳だ」
「そうなのね。あの日記はどうするの? 魔法書は図書館で再利用されるけど、日記なんて使えないし」
「依頼主からは、破棄していいって言われたからな。残すかどうか、残すならいつまで残すかを決めるのは、ホークルだ。覚え書きノートだから保管する必要はないし、近いうちに処分されるんじゃないかな」
説明しながら、ガージェスは資料を元の場所へ返した。
資料室を出ると、さっき案内してくれた魔警課の魔法使いに資料を複製したことを告げておく。
「じゃあ、これを報告したら、この仕事はおしまい?」
「日記についてはな。戻ったら、他の魔法書のページ確認作業の続きだ」
「あ、あれね……」
ホークルからも「地味」と言われた、あの作業。
これならもう少しややこしくても、この日記に書かれた事件を確認する作業の方がよかったな、などと考えながら、エルスティンは研究班の部屋へ戻ったのだった。
☆☆☆
それから二週間程は、のんびりした時間を過ごせた。
魔法道具の回収を依頼されることもなく、現在使われているものをどこをどう改良していくか、といった会議などがあるくらい。
初日に見た長机に置かれた石やろうそくなどが現在研究対象になっている、と聞かされた。それについての話し合いだ。
会議はちょっと眠い部分もあったが、ローグラッドが思いがけず(と言うのは失礼だが)魔法道具の知識が他の人より深いとか、アードリーは手先が器用で細かい作業が早いとか、ちょっとした発見があったりして面白い。
ホークルはしゃべり方がやや単調で、最初は少しとっつきにくいような気もしたが、面倒見はいいので頼れる人なんだとわかってくる。
ちなみに、ホークルだけは既婚者で、二歳の娘がいるらしい。表情や口調にあまり変化がないので、エルスティンとしては彼がどんな顔をして子どもと接しているのか、ちょっと気になる。
ガージェスは、小さなことでも後回しにせずに処理しようとし、こんなに真面目な性格だっけ? と不思議な気がした。
子どもの時はこうではなかった気がするが、何気なく尋ねてみると「忘れて怒られるのがいやだから」という答えが返ってきて、子どものような理由にエルスティンは笑ってしまった。
どうやら、一度痛い目に遭ったらしい。
基本的に定時で帰れる部署なので、ガージェスと一緒に帰れる日もある。これだけでも、エルスティンにとっては「この部署に入ったメリットがある」というものだ。
「おはようございます」
いつものように研究班の部屋へ入ったエルスティンは、ホークルとアードリーが真剣な顔で何か話しているのを見た。
「あの、何かあったんですか?」
「現地調査の依頼が入った」
それを聞いて、エルスティンは初日の仕事を思い出す。
「調査……チェラード家みたいに、魔法道具の回収ですか?」
「今回は、もう少し手の込んだ場所を調査する。エルスティン、飛行系の魔獣は呼べるか?」
「は、はい」
リーダーの問いに、エルスティンは緊張しながらうなずいた。
な、何なの? そんな大変そうな所へ行くの? 魔物に関わらない部署だから、安全だと思ってたのに。
こうして魔獣召喚について尋ねられるからには、少なくとも歩いて行けるような距離ではない、ということ。
さらにさっき、手の込んだ、という言葉があったから、単なる「家にある魔法道具を調べる」という仕事でもなさそうだ。
初日に特殊な作業をすることになったが、特殊なものはあれくらいだと思っていたエルスティン。
しかし、今回はどうもそうではないらしい。やはり、仕事には色々なものがあるのだ。
「持って来たぞ」
ガージェスがたたまれた黒い布の束、ローグラッドが茶色い革の手袋と、それと似たような色と材質の袋を数枚持って入って来た。
布はどうやらマントらしく、ローグラッドが持って来た袋はエルスティンの上半身がすっぽり入りそうなくらいに大きい。
これらは研究班の部屋の隣にある、倉庫部屋に置かれている物だ。
職務部の魔法使いは、部署にもよるが、着る服は基本的に自由。しかし、マントだけは協会から支給された物を、仕事中は常にはおることになっている。
魔法使いの必須アイテムであり、制服のようなものだ。
これには、防御の魔法が編み込まれている。いつどこで、魔法による危険にさらされるかわからないためだ。
襟元に協会名が刺繍されていて、これでどこの協会に所属している魔法使いかがわかる。
万が一の場合、協会名がわかることで身元を少しでも早く判明させる、という、ありがたいような怖いような役目もあるのだ。
ガージェスが持って来たマントは、その防御の力が通常のものより強い。何が起きるか予測できない場所へ向かう時に使う、と聞いた。
それらを思い出し「手の込んだ」と言うよりは「危険な場所」へ行くらしい、とエルスティンは緊張する。
ローグラッドが持って来た手袋もまた、防御の魔法がかけられたものだ。
どういった魔法道具を回収するにしろ、素手で触れて危険な状態になっては困る。いきなり触れることはしないにしても、より安全に作業するためにはめるのだ。
袋は道具を持ち帰る時、魔法が暴走しないように封印状態にできる代物。何かのきっかけでよくない作用が起きても、被害を最小限に抑えられるように作られているのだ。
普段の回収でも、こういった袋は使用される。大きさや重さを気にせず、圧縮できて楽に持ち帰ることができるのだが、この袋はそれより防御力が高いのだ。
それらを見ている限り、今回は危険度と持ち帰る量がかなり違うらしい。
「全員揃ったので、説明を始める。昨日、みんなが帰った後で、退治班から報告があった」





