04.最初の仕事
「処分に困ってる?」
アードリーの言葉に、エルスティンは首をかしげた。
研究班の仕事には、廃品回収も含まれているのだろうか。そういう話は聞いたことがないのだが。
「研究班は、魔法道具の研究ばかりをするって訳じゃないの。身内に魔法使いがいると、道具も色々と家にあったりするじゃない。その魔法使いが亡くなった時にそういう物があると、家族がその処理に困るでしょ。もしへたな処分の仕方をして何か起きたりしないかって、一般の人は思う訳。まずそんなことはないんだけれどね。もちろん、絶対にないとは言い切れないんだけれど。魔法使いの道具は魔法使いが処分するのが一番ってことで、依頼が来るの。こちらとしても、使えるものがあれば再利用できてありがたいしね」
「はぁ、そんなお仕事もあるんですね」
「たまにだけど、変わった魔法道具があったりもするから、研究材料としてもちょうどいいの」
この魔法道具はどこを改良したらもっとよくなるだろう、といったことを主にやるのだと思っていたエルスティンは、考えたこともない仕事内容に感心するばかりだ。
仕事が決まった時、ガージェスに報告には行ったが、お互いが忙しくてゆっくり話をしていられなかった。
そうでなければ、こういったこともするんだ、と教えてもらえていただろう。
「今日はそんなに遠くないから歩いて行くけれど、場所によっては魔獣の力を借りるわ。今から行くお宅の魔法道具は、かなり昔のものらしいの。何代か前の当主が魔法使いだったそうなんだけれど、その人の持っていた魔法道具が物置になっている部屋から見付かったんですって。古いと、たまに魔力が暴走する場合もあるからね。いつもなら二人か三人で行くんだけれど、今回は念のために。それと、せっかくあなたが来るんだから、現場を見せておくにはちょうどいいだろうってことでね」
初日にいきなり実地調査が入った、という訳だ。いいのか悪いのか。
いや、これからのことを考えれば「いい」と思うべきなのだろう。仕事に慣れるなら、少しでも早いほうが自分のためだ。
やがて、街のとある一角にある屋敷へ着いた。
アードリーの話では、そこそこ裕福な部類に入る家柄らしい。確かに、庭だけ見ても、エルスティンの家の住居兼店舗が楽に入りそうな広さだ。
今回の依頼人は、チェラード家の当主エスタ。じき六十に手が届く、という紳士である。
ごま塩頭に少しだけ幅のある体格の当主は、柔和そうな顔に少し不安の色を浮かべながら、魔法使い達を屋敷内へ案内した。
「三代前、つまり私の曾祖父にあたる当主が魔法使いでした。彼が使っていた物は以前から代々の当主の部屋にいくつかあったのですが、他に誰も魔法使いがいないので手つかずだったんです。彼の物はそこにある物だけだろうと思っていたのですが……。先日物置でぼやがありまして、火元近くにあったにも関わらず無傷の物がいくつかあり、もしかしたら彼の遺品などではないか、と」
魔法がかかった物は、種類によっては自然の火では燃えたりしない場合がある。攻撃魔法か解呪魔法を使わない限り、簡単に破損しないように作られていることが多いためだ。
ぼやになった物置で見付かった物も、そういった理由で無傷だったと考えられる。
魔法道具についての知識が少しだけあったエスタは、このまま屋敷内に置いていてもほこりをかぶるだけ、と考えて、ハーロネルトに連絡を入れたのだ。
自分達に使えない物を、ずっと家に置いていても仕方がない。それに、アードリーが話していたように、もし魔法が暴走したら、という不安もあった。
今までは触らなかったから何事もなかったが、これを機に整理しようとしておかしなことが起きたら、と考えたのだ。
こんな流れで、ハーロネルトに連絡を入れて来る人はよくいる。
物置の方はホークル、ガージェス、ローグラッドが向かう。何が置かれているかわからないので、多めに人数を回したのだ。
だいたい何があるかわかっている当主の部屋へは、アードリーとエルスティンが向かうように言われた。
鳥や花などのレリーフがほどこされた、高級木材であろう暗い茶色の扉。取っ手は金。本物かどうかは、エルスティンに判断できない。
扉だけで、何となく圧倒されてしまう。
「お屋敷そのものが大きいと、部屋も広いですねぇ……」
案内された当主の、つまり今はエスタの部屋へ入り、エルスティンはしみじみとつぶやいた。
研究班の部屋が人数の割に広いのは、作業をするための場所が必要だから、というのはわかる。
たぶん、さっき見たあの幅広な長机で、何かしらの作業をするのだ。
でも、ほぼ一人ですごすであろうこの部屋が、研究班の部屋と同じくらいの広さ、というのはどういうことなのだろう……と思ってしまう。人口密度が低いにも程があるのでは、と。
中へ入ると、右手に白いレースのカーテンが引かれた大きな窓。正面には、重厚感ありまくりの大きな机。扉と同じで、きっと高級木材だ。
左手には背の高い立派な棚があって、難しそうな単語の並んだ背表紙の本。
扉と当主の机の間、つまり部屋の中央には、応接セットのソファと大理石の低いテーブル。
応接室とは別に、懇意の相手を呼んだ時に使うものだろう。座ればきっと、身体が沈み込むタイプだ。
暗紅色のジュータンは、毛足が長くて足音が吸い込まれる。これは掃除が大変だろうな、と会ったこともない清掃係の苦労を思うエルスティン。
見たことも入ったこともないが、自分が今いる場所が修学部長の部屋が引き伸ばされたもののように思えた。
棚などの調度品やそこに置かれた高そうな置物や壺、壁に掛けられた絵画などに感覚が追い付かないので、たぶん自分にわかりやすい例えで自己防衛しているに違いない。
「何をしたら、こんな部屋を造れるんでしょう……」
「魔法使いをやっていてここまでのお屋敷を造ろうと思ったら、少なくとも研究班では無理ね。開発班で大儲けできるような魔法道具を作るか、退治班でブラックリストに載ってるような大物の魔物を仕留めないと。……それでも、ここまでできるかしら」
アードリーが現実的なことを言う。
「富裕層の稼ぎ方なんて考えていたら、仕事する気が失せちゃうわ。世の中にはこういうおうちもあるのね、くらいにしておきなさい」
「チェラード家で魔法使いをしていた方は、魔物退治で稼がれたんでしょうか」
「来る前に調べたけれど、魔法警衛課だったみたいよ。それ以降では、当主も話していたけれど、魔法使いは出てないわ。当主のおじいさん、つまり二代前の当主が事業で成功したそうよ」
魔法警衛課は、犯罪者になった魔法使いを取り締まる部署だ。
見習い時代、この部署を目指すクラスメイトがいたが、エルスティンには完全に縁のない部署だと思っていた。
警衛課や魔物退治班は、魔法の力や技がものを言うのだ。一応、正規の魔法使いとして認定はされたが、自分にそこまでの力はない、とエルスティンは自覚している。
それ以前に、ガージェスと同じ部署を目指していたので、なりたいとは全く思わなかったが。
無駄話はそこまでにして、二人は部屋の物を調べ始めた。
魔法書など、間違いなく魔法関係とわかっている物は、すでに当主の机の上に置かれている。
あとは「知らなかったが実は……」という物が他にないかの確認だ。
棚や机の引き出しなど「全部見てもらって構わない」と許可を得ているので、二人して遠慮なく開けてゆく。
立派な羽ペンや、質のよい高そうな紙のノートなど、文房具系が多い。仕事部屋としても使われているからだろう。
だが、どれも普通の物品だ。棚にある本なども、一般的に売られている書籍ばかり。
「特に魔力を感じさせるような物はなさそうね」
「はい。机にあるのは、古いけど普通の魔法書みたいだし。当主が心配されるような物は、なさそうですね」
ある程度部屋を調べたエルスティンは、机の上に置かれた魔法書を見てみる。厚い本、薄い本と色々だが、十冊くらいあるだろうか。
「あれ?」





