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第七話 距離

夜は、静かだった。




 あの出来事のあと、街は何事もなかったかのように動いている。




 人も、光も、音も――


 すべてが元通りに見える。




 だが、トシノリの中だけが違っていた。




 「……なあ、ルル」




 歩きながら、小さく呼ぶ。




 「なに?」




 すぐに返ってくる声。




 それだけで、少しだけ安心する自分がいた。




 「さっきのやつ……また来るのか?」




 少しの間。




 「うん」




 短い返事。




 分かっていた。


 でも、聞かずにはいられなかった。




 「そっか」




 それ以上、言葉が続かない。




 夜風が、少しだけ強く吹いた。




 その時だった。




 トシノリの指に、何かが触れた。




 「……?」




 一瞬だけ、体が固まる。




 それは――ルルの手だった。




 ほんの少しだけ、触れる。




 握るわけでもなく、引くわけでもなく。




 ただ、そこにある。




 「……大丈夫だよ」




 ルルが、静かに言った。




 その声は、いつもと同じはずなのに――


 どこか、違って聞こえた。




 トシノリは、何も言えなかった。




 ただ、その温もりを確かめるように、


 ほんの少しだけ、指を動かす。




 逃げない。




 消えない。




 そこに、いる。




 「……ルル」




 名前を呼ぶ。




 それだけで、胸の奥が少しだけ熱くなる。




 「なに?」




 いつもの返事。




 でも――




 「いや、なんでもない」




 言えなかった。




 言葉にした瞬間、


 何かが壊れてしまいそうで。




 ルルは、小さく笑った気配がした。




 「変なの」




 「……うるさい」




 少しだけ、軽口が戻る。




 でも、手は離れなかった。




 そのまま、二人は歩く。




 静かな夜の中を。




 「ねえ、トシノリ」




 「ん?」




 「次はね――神話に触れるよ」




 その言葉に、トシノリは少しだけ目を細める。




 「高千穂か」




 「うん」




 短い返事。




 でも、その奥にあるものは重い。




 ただの旅じゃない。




 ただの物語でもない。




 世界線を戻すための、戦い。




 そして――




 失うかもしれない未来。




 トシノリは、繋がった手を見た。




 「……離すなよ」




 小さく呟く。




 ルルは、少しだけ驚いたあと――




 「うん」




 優しく答えた。

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