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第六話 歪んだ世界

揺れる。




 足が、崩れる。




 「……トシノリ!」




 ルルの声が、遠い。




 膝が地面に触れる。




 冷たいアスファルト。




 息が、うまく吸えない。




 それでも――




 不思議と、怖くはなかった。




 「……よかった」




 かすれた声で、呟く。




 「ルルが……無事なら」


 その瞬間だった。




 胸の奥で、何かが“触れた”。


 光。




 丸い、透明な何か。




 水晶玉。


 見たこともないのに、分かった。




 「……これが」




 手の中に、確かな感触。


 世界が、ひび割れる。




 音が消える。




 時間が止まる。


 観測者も、ルルも、すべてが静止する。




 トシノリだけが、動ける。


 「……そういうことかよ」




 血の味がする中で、少しだけ笑う。




 「選べるんだな」


 水晶玉が、静かに光る。




 頭の中に、“別の未来”が流れ込む。


 ルルが撃たれる未来。


 自分が倒れる未来。


 何も変えられない未来。


 そして――


 もう一つ。


 「……これだ」




 トシノリは、水晶玉を強く握る。




 「変える」


 その瞬間――




 世界が、砕けた。


 夜の空気。




 いつもの帰り道。




 いつもの街灯。


 トシノリは、立っていた。




 無傷で。


 目の前には――




 黒いスーツの男。




 銃を構えたまま。




 だが、その指は――まだ引き金を引いていない。


 「……ここか」




 トシノリは、一歩前に出る。




 男の目が、わずかに動く。




 「なんだ、その反応は」


 トシノリは、笑う。




 「知ってるんだよ」




 「お前が撃つことも」




 「その後、何が起きるかもな」


 背後に、ルルの気配。




 まだ――無事だ。


 「撃たせない」




 静かに言う。




 その声には、さっきまでなかった重みがあった。


 男が、引き金に指をかける。


 だが――


 トシノリは、動かない。


 ただ、見ている。




 すべてを知っている者の目で。


 「ラクダを忘れるな」




 小さく呟く。


 呼吸を整える。




 距離を取る。




 流れを見る。




 そして――選ぶ。


 銃声が鳴る。


 その瞬間。


 トシノリの体は、すでに半歩ずれていた。


 弾は、空を裂く。


 外れた。


 「……なに?」




 初めて、観測者の声が揺れる。


 トシノリは、ゆっくりと顔を上げる。


 「世界線が変わった」




 静かに言う。


 後ろを振り返る。




 ルルがいる。




 無事だ。


 「……よかった」




 小さく笑う。




 「守れた」


 ――だが。


 胸の奥に、わずかな違和感が残っていた。


 それが何かは、まだ分からない。


 ただ一つだけ、確かなことがある。


 世界は――




 まだ、歪んでいる。

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