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第五話 世界線

夜の空気が、張り詰めていた。




 いつもの帰り道。




 いつもの街灯。




 いつものはずの風景が――どこかおかしい。




 「……来てるね」




 ルルの声が、低くなる。




 トシノリは足を止める。




 空気が重い。




 背中に、視線を感じる。




 「観測者か」




 振り返る。




 そこに――いた。




 黒いスーツの男が、二人。




 昼間の男とは違う。




 もっと無機質で、感情がない。




 「対象を確認」




 その一人が、淡々と口を開く。




 「接続存在の排除を開始する」




 空気が変わる。




 一瞬で、“日常”が剥がれ落ちた。




 「……排除?」




 トシノリが呟いた瞬間――




 パンッ!!




 乾いた音。




 何が起きたのか、理解するより早く――




 ルルの気配が、揺れた。




 「……え?」




 時間が、遅くなる。




 ルルの存在が、崩れるように薄れていく。




 撃たれた。




 そう理解した瞬間――




 体が勝手に動いていた。




 「やめろォ!!」




 トシノリは飛び出す。




 ルルと、銃口の間に。




 もう一発。




 音が、遅れて聞こえる。




 衝撃。




 胸に、焼けるような痛み。




 視界が揺れる。




 足が、崩れる。




 「……トシノリ!」




 ルルの声が、遠くなる。




 膝が地面に触れる。




 冷たいアスファルト。




 息が、うまく吸えない。




 でも――




 不思議と、怖くはなかった。




 「……よかった」




 かすれた声で、呟く。




 「ルルが……無事なら」




 その瞬間だった。




 胸の奥で、何かが“触れた”。




 光。




 丸い、透明な何か。




 水晶玉。




 見たこともないのに、分かった。




 「……これが」




 手の中に、確かな感触。




 世界が、ひび割れる。




 音が消える。




 時間が止まる。




 観測者も、ルルも、すべてが静止する。




 トシノリだけが、動ける。




 「……そういうことかよ」




 血の味がする中で、少しだけ笑う。




 「選べるんだな」




 水晶玉が、静かに光る。




 頭の中に、“別の未来”が流れ込む。




 ルルが撃たれる未来。


 自分が倒れる未来。


 何も変えられない未来。




 そして――




 もう一つ。




 「……これだ」




 トシノリは、水晶玉を強く握る。




 「変える」




 その瞬間――




 世界が、砕けた。


 夜の空気。




 いつもの帰り道。




 いつもの街灯。




 トシノリは、立っていた。




 無傷で。




 目の前には――




 黒いスーツの男。




 銃を構えたまま。




 だが、その指はまだ引き金を引いていない。




 「……ここか」




 トシノリは一歩前に出る。




 男の目が、わずかに動く。




 「なんだ、その反応は」




 トシノリは笑う。




 「知ってるんだよ」




 「お前が撃つことも」




 「その後、何が起きるかもな」




 ルルの気配が、後ろにある。




 まだ、無事だ。




 「撃たせない」




 静かに言う。




 その声には、さっきまでなかった重みがあった。




 男が引き金に指をかける。




 だが――




 トシノリは動かない。




 ただ、見ている。




 全てを知っている者の目で。




 「ラクダを忘れるな」




 小さく呟く。




 呼吸を整える。




 距離を取る。




 流れを見る。




 そして――選ぶ。




 銃声が鳴る。




 だが、その瞬間。




 トシノリの体は、すでに半歩ずれていた。




 弾は空を裂く。




 外れた。




 「……なに?」




 初めて、観測者の声が揺れる。




 トシノリはゆっくりと顔を上げる。




 「世界線が変わった」




 静かに言う。




 後ろを振り返る。




 ルルがいる。




 無事だ。




 「……よかった」




 小さく笑う。




 「守れた」




だが、小さな違和感が、胸に残り続けていた。

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