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第三話 観測者ルル

※第三話を加筆修正しました(内容に大きな変更はありません)


「全部、救う」


その言葉は、自分でも驚くほど、迷いがなかった。


だが――


「それ、一番やっちゃいけないやつだよ」


ルルは、あっさりと言った。


「……は?」


トシノリは眉をひそめる。


「なんでだよ」


声に、苛立ちが混じる。


「助けるのがダメって、どういう意味だよ」


ルルは少しだけ考えてから、言った。


「じゃあ、見せてあげる」


「は?」


次の瞬間。


ルルが、トシノリの手を取った。


「――っ!?」


触れた瞬間――


世界が、崩れた。


音が消える。


色がほどける。


足元がなくなる。


「な、なんだこれ……!」


落ちているのか、浮いているのかも分からない。


重力も、時間も、曖昧になる。


その中で――


光があった。


無数に。


暗闇の中に、浮かんでいる。


一つ一つが、ゆっくりと揺れている。


「……なんだよ、これ……」


思わず手を伸ばす。


触れそうになる。


その瞬間――


「見て」


ルルの声。


一つの光が、強く輝いた。


その中に、映像が流れる。


――さっきの事故。


倒れる人。


赤く広がるアスファルト。


「……っ」


息が止まる。


だが、それだけじゃない。


別の光が、揺れる。


そこには――


トシノリが走っている。


間に合う未来。


助かる未来。


「……違う……?」


さらに別の光。


そこには――


まったく知らない景色。


知らない人生。


知らない自分。


「なんだよ……これ……全部……」


ルルは、静かに言った。


「世界線」


その言葉が、やけに重く響く。


「全部、本当に起きる未来」


トシノリは目を見開く。


「じゃあ……」


喉が乾く。


「さっきのは……」


ルルは頷く。


「トシノリが選ばなかった未来」


その瞬間。


胸の奥が、強く締め付けられた。


「……選ばなかった……?」


言葉の意味が、遅れて刺さる。


ルルは、一つの光に触れる。


その光が、揺れた。


同時に――


周りの光が、わずかに暗くなる。


「一つを選ぶとね」


静かな声。


「他は、消えるか……歪む」


トシノリは、息を呑む。


「……じゃあ……俺が助けたせいで……」


言い切れなかった。


でも、分かってしまった。


ルルは、ゆっくり頷いた。


「別の誰かが、代わりに――」


その先は言わなかった。


言わなくても、分かる。


トシノリは拳を握る。


震える。


「……ふざけんなよ」


絞り出すような声。


「そんなの……選べるわけないだろ……!」


ルルは、ただ見ていた。


その目は――


少しだけ、悲しそうで。


でも、優しかった。


「だから、私は観てるだけだった」


「……観てるだけ?」


「うん」


ルルは、静かに言った。


「私は“観測者”だから」


その言葉で――


空気が変わった。


トシノリは、ゆっくり顔を上げる。


「観測者って……なんだよ」


ルルは少しだけ困ったように笑う。


「未来を、知ってる人」


あまりにも簡単に言う。


でも――


その重さは、理解できた。


「じゃあ……最初から分かってたのか?」


ルルは、一瞬だけ目を逸らす。


「……全部じゃないよ」


その“間”。


トシノリは、見逃さなかった。


「でも、大体は分かる」


静かな声。


「だから止めたんだよ。“全部救う”なんて」


トシノリは歯を食いしばる。


「じゃあ……どうすればいいんだよ」


ルルは、少しだけ笑った。


今度は、少し柔らかく。


「それを、一緒に探すの」


その言葉に――


ほんの少しだけ、救われる。


でも。


違和感が残る。


トシノリは、ルルを見つめる。


「……ルル」


「なに?」


「なんで、俺なんだ?」


なぜ自分なのか。


なぜ見せたのか。


ルルは、一瞬だけ黙る。


そして――


少しだけ、寂しそうに笑った。


「それはね……」


その瞬間。


光が、揺れた。


世界が、歪む。


ルルの言葉は――


そこで途切れた。


まるで、


まだ言ってはいけないみたいに。


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