第50話 『めでたしめでたし』のその先
本編最終話です。
御伽町のおとぎ商店街にある小さなレストラン。ファミリーレストラン《りんごの木》は、私の通う小学校でも話題のお店だ。
まず、みんなで笑って話したのは、面白いメニューの数々だ。【桃太郎の~】や【シンデレラの~】といった、有名な物語の名前が付けられていて、メニュー表を見ただけでワクワクしてしまう。
そして、もちろん料理もとびきりおいしい。シェフの心のこもった料理は、ひとりで食べてもおいしいけれど、大切な人と食べるともっともっとおいしい。
カランガラン……。
少しだけ錆びた音を立てるドアベルを鳴らしてお店に入ると、優しくほほ笑むりんごおじさんが出迎えてくれた。
「待っていましたよ。今日は何を食べますか?」
「【白雪姫のホワイトバーグ】がいいな!」
「それなら、彼女の得意料理ですね。期待していいですよ」
りんごおじさんがくるりとキッチンを振り返ると、「オーダー、承りました!」と、明るい声が飛んで来た。
「相変わらず元気だね、ましろお姉ちゃんは」
私――亀山まゆりは、やれやれと肩をすくめると、姉のように慕うリトルシェフ白雪ましろの顔を見にカウンター席に腰掛けた。
ましろお姉ちゃんは、長く伸びた黒くてふわふわの髪をくるくると上手にお団子にしていた。10歳の頃に私の母に習って練習したらしい。想像したら、かわいくって仕方がない。
私はそんなましろお姉ちゃんを見て、こっちを向いてほしいなといたずら心を押さえずにはいられくなってしまった。
「今日は、ましろお姉ちゃんが作るのか~。りんごおじさんのご飯が食べたかったな~」
「生意気だなぁ! 私の料理だって、けっこう人気なんだからね!」
「冗談だよ。ましろお姉ちゃんの料理、大好き」
ムッと唇を尖らせるましろお姉ちゃんが可笑しくて、思わずクスクスと笑いを漏らしてしまう。
ましろお姉ちゃんとりんごおじさんは、私の両親が仕事で忙しい時、《りんごの木》で一緒にご飯を食べてくれる。
発案者はましろお姉ちゃんで、彼女いわく、親がいなかった自分にりんごおじさんがそうしてくれたから。
だから、妹同然の私にも同じようにしたいらしい。
私はそんなましろお姉ちゃんの優しい気持ちが嬉しくて、《りんごの木》に頻繁に通っている。
「りんごおじさん、味見して」
「……うん、美味しい。ましろさん、また腕を上げたね」
私のいつもの楽しみは、キッチンで肩を並べるましろお姉ちゃんとりんごおじさんの姿を眺めること。
2人の間に流れるあたたかい空気、親子以上に強い絆──目に見えない家族愛を感じることが、私はこの上なく好きだった。
「誰よりも家族だよねぇ」
「ん? まゆり、何か言った?」
きょとんとした顔で、ましろお姉ちゃんがこちらを見つめていた。
でも、言ってあげない。わたしはましろお姉ちゃんみたいに素直な女じゃないからね。
「べっつにぃ。おなか空いたって言ったの」
「そっか、ごめんごめん。ちょうどできたよ」
キッチンから出てきたましろお姉ちゃんは、テーブル席に丁寧に料理を並べ始めた。
楕円形の黒い鉄板にのっているのは、雪のように白いソースをまとったハンバーグ。付け合わせは、色鮮やかなニンジンのグラッセだとフライドポテト。わたしがちょっと苦手なインゲンもある。
ふわりと立ち昇る食欲をそそる香りと、ジュウジュウという熱を持った音を聴いているだけで、おなかがさらに空いてくる。実際、わたしの胃袋は、ぐぅという切ない鳴き声をあげた。
ましろお姉ちゃんとりんごおじさん、そしてわたしがテーブルを囲む。
何気ない日常になっているこの時間を、きっとわたしは一生覚えていると思う。
ましろお姉ちゃんが笑顔で言う。
「さぁ。一緒にご飯を食べよう!」
御付き合いいただきありがとうございました!
ちなみにりんごおじさんの対ましろの敬語が取れているのは誤記ではありません。
親にも敬語を使っていたようなりんごおじさんの言葉遣いが砕けるほど、2人の絆がより深くなったと思っていただければと思います。
この後ちょっとだけ番外編がありますので、そちらもお楽しみいただけると嬉しいです。




