第47話 おむすびころりんおむすび
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「お父さん」
数日後のカラッと晴れた日。私は御伽駅の改札口の前で、お父さんを呼び止めた。休みの日だから観光客の出入りが多かったけれど、パリッとしたスーツが目立っていたから、すぐに見つめることができた。
「ましろ、凛悟君。まさか見送りにきてくれるなんてな」
お父さんは足を止めて振り返る。私とりんごおじさんを順番に見つめると、再び私に視線を戻す。
「本当にいいんだな? ましろ」
「うん。私は、ここにいるよ。せっかく誘ってくれたのに、ごめんね」
「いや、かまわないさ。お父さんも、焦りすぎたかもしれないな」
昨日――。
りんごおじさんは、《りんごの木》でお父さんと話し合う時間を作ってくれた。
お父さんとテーブルで向かい合うのは緊張したけれど、以前のホテルのカフェと違って、今はりんごおじさんが隣にいる――そのことが心強かった。
私は自分の気持ちを正直に打ち明けた。
御伽町での生活は、毎日楽しいこと。《りんごの木》で学べることを大切にしたいこと。りんごおじさんと過ごす日々が大好きであること。
だから、血の繋がりはあるけれど、それだけでお父さんと一緒には行けないことを、たどたどしくも一生懸命に伝えた。
「ましろさんが幸せな気持ちで巣立つその日まで、僕は彼女と向き合い続けます」
りんごおじさんも強く言い切ってくれた。
いつかきっとお別れは来るけれど、それが前向きな旅立ちであることをりんごおじさんは願ってくれている。
それがいつになるのかは分からないけれど、私はそのことが心の底から嬉しかった。
そんな気持ちが、お父さんにも伝わったんだと思う。
今日、電車で東京に帰るというお父さんが私に注ぐ視線は、柔らかくて温かい。
「ましろ。父さん、また来てもいいか……?」
「うん! もちろんだよ。次は《りんごの木》でお食事してよ。ウェイトレスとして、最高のおもてなしをしてあげる」
「そうか。今から楽しみだ」
私は頬をほころばせるお父さんに「あのね……」と、ずっしりと重たい紙袋を差し出した。アルミホイルに包まれた丸い何かが3個入っている。
「これは……?」
「りんごおじさんと作ったから、新幹線の中で食べてほしいの。【おむすびころりんおむすび】。中身はシャケと梅干しとコンブでね、梅干しは自家製なんだよ。三角にはならなかったけど、味は美味しいから!」
「どれも美味しそうだ。ありがとう」
お父さんはチラッと紙袋の中をのぞきこむと、私とりんごおじさんに向かって頷いた。そして、残念そうに腕時計に目を落とす。
「そろそろ行くよ。ましろ、凛悟君と仲良くな。凛悟君、ましろをよろしくお願いします」
「美鏡さん……ましろさんと待っています。いつでも来てください」
「お父さん。いってらっしゃい!」
お父さんは、改札の向こうで手を振っていた。
「いってきます!」
お父さんの予想外に大きな声に、周りの人たちの視線が集まる。
かつてのあの日、私とお父さんが言えなかった言葉だ。お父さんはもう、一人でどこか知らない場所に行くわけじゃない。きっとまた会える。
私はお父さんの姿が見えなくなるまで、ぶんぶんと手を大きく振り続けた。
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「焦らなくていいんだよね? もがいたり、転んだり、おむすびみたいにころころ転がったりしても、また立ち上がって歩いてたらさ……。だんだん距離が近くなって、いつか隣で笑い合うこともできるんじゃない?」
「ましろさん、詩人ですねぇ」
「わっ! 今、馬鹿にした? したでしょ⁉」
「いえいえ、とんでもない」
《りんごの木》への帰り道。おとぎ商店街に私とりんごおじさんのじゃれ合うような会話が響いていた。
商店街のアーケードには、色とりどりの和紙で作られた提灯や立派なのぼりが飾られ、あちこちに準備中の出店が見える。
いよいよ、夏の大イベント――御伽祭りが始まる。




