006 戦闘狂
きのう少女になったばかりなので、そう言われたことはないが、適当に話を合わせておく。
「だけど、どんな異能なんだ?」
「無効化」
「へ?」
「あらゆる異能を無効化する……らしい」
「断言できねェんかよ」
「野暮なツッコミだよ、それは。だからカテゴリー・エラーなのさ」
「うーむ。いよいよ摩訶不思議だぞ」
「お、私も不思議には思ってるさ」
つかみどころが無さすぎる寛太に、宮下も首をかしげるばかりだった。
*
中学生カリキュラムは、あくびが出るくらい簡単だった。中卒止まりとはいえ、さすがに中学1年の授業ができないほどではない。
授業が終わり、寛太は帰宅しようと荷物をまとめる。
そのとき、
「貴方がカテゴリー・エラー?」
後ろから、女子に声をかけられる。寛太は気だるそうに振り向く。
「そうだけど」
「あの主席・西野霞の妹にして、カテゴリー・エラー……喧嘩を売らない理由がないよね」
「はぁ」
とにかく、壮麗学園の生徒は血気盛んだ。ましてや、寛太は非常に珍しいカテゴリー・エラー。悪目立ちしている感は否めない。
「模擬室で、ちょっと手合わせ願える?」
「嫌だと言ったら?」
「ここで闘うまでよ」
茶髪のセミロングヘアで、顔立ちの整った低身長の少女は、アドレナリンにあふれた目でそう言った。
せっかく平穏に一日が過ぎると思っていたのに、このザマだ。どうも、彼女は闘うことでしか快楽を得られない、悲しき血族らしい。
「分かったよ。ただ、後悔しても知らないからね」
中学生活の1日目の終わりは、名前も知らない女子中学生と闘うことで終わる。
*
壮麗の異能開発は、副作用として戦闘狂になってしまう。〝サイバー・ギア〟という外部装置を使えば、その副作用は(ある程度)避けられるが、主流──そして、壮麗学園で用いられる異能開発だと、その副作用は現れることも多い。
だからきっと、名前も知らない女子生徒は、能力開発の所為で凶悪になっているのだろう。困ったものだ、と寛太は手を広げる。
核兵器が降ってきても大丈夫、という白いブロックの模擬室で、寛太と女子生徒が向き合う。寛太は一応身体を伸ばしておき、
「いつでも良いよ~」
と間の抜けた声で言う。
「言われなくても⋯⋯!!」
どうやら速攻で終わらせるつもりらしく、彼女は即座に寛太との間合いを狭めた。対する寛太は、突き指したいのか? と言わんばかりに両指を突き刺す。
「なにを⋯⋯ッ」
すると、
少女の攻撃は、その両指に吸い取られた。
「……ッッッ!!」
かなりの高速移動で鎮めるはずだったのに、その勢いはすべて、銀髪少女に打ち消される。少女は地面を蹴り、今度は両指に触れないように斜め上から攻撃を仕掛けるも、
「残念」
寛太は、それすらも見越していたかのように、右の全指を動かす。
そうすれば、
見えない斬撃を喰らったかのごとく、少女の身体から力が抜けていく。
(ぶっつけ本番なのに、こんなうまくいくとはな⋯⋯)
当然ながら、寛太はこれが本番だ。
しかし、異能を計る際、自分の能力の詳細を知っていたのも事実。
とにかく、指の動きが大事。指がうまく動けば、相手はなにもできない。寛太の指には、微弱な膜が張られており、それを元に相手の異能を無効化できるらしい。
「クソッ!!」
女の子らしい言葉も投げ捨て、相手が焦り始める。
一方、寛太からしても、決定打がないのも事実。男性時代ならともかく、今の寛太は160センチで体重も60キロに満たない細身。だから、無効化系にありがちな殴り勝つことができない。それに、いくらこちらが女子とはいえ、女の子を殴って良いのか、という論理的な話にもなる。
さて、困った。
⋯⋯いや、よくよく考えれば勝ちにこだわる必要もないのでは? 命をとられるわけじゃないし。
「あー、参りました」
寛太は両手を上げ、降参するのだった。




