005 カテゴリー・エラー
「つっても、時間の問題か」
呼ばれ方がどうであれ、あの西野霞の妹(?)という評判はあっという間に広がる。霞は、良い意味でも悪い意味でも有名人。その兄、基妹が入学したとなれば、どうあがいても有名人になってしまうだろう。
「さて、と」
1学年用の教室へと、歩いていくのだった。
*
寛太は確かに中卒だが、さすがに中学1年生レベルの授業くらいは分かる。国語・社会・数学・理科・英語と。勉強面で苦労することは、まずないだろう。
問題は、異能力開発だ。寛太が受けた治験は、性別・年齢を入れ替えてしまうものと、あらゆる異能力を無効化するもの。おおよそ妹・霞の異能には似ていない。彼女は、その気になれば小さな山を火だるまにできる。だから教員側も、寛太の異能が〝発火系統〟とでも思っているはず。
そして、この壮麗学園には、〝カテゴリー〟という仕組みがある。1から5に分けられていて、数字が高いと能力が強い。
さらに、入学した生徒はまず、このカテゴリーを算出する。霞のカテゴリーは5なので、その妹(?)にも相応の実力があると踏まれているだろう。
というわけで、カテゴリー算出の時間だ。出し方は簡単。利き手を装置の上にかざせば良い。
転校生が集められた教室で、寛太ともうひとりの生徒が、今か今かとカテゴリー評価を心待ちにしている。もっとも、寛太は冷めた目でそのときを待っているが。
「なー、アンタ現主席の妹だろ?」
ツーブロックの少年が、寛太に話しかける。
「そうだけど」
「ならカテゴリー5なんだろうな。うらやましいよ」
「そうかな?」
「うれしくねェの?」
「カテゴリーが高ければ高いほど、壮麗から危険視される。強すぎる異能力者は、壮麗にとっても不穏因子だからね」
「でも、高いに越したことはねェべ」
少年は、どことなく落ち着いていない。手や足を、せわしなく動かしている。カテゴリーですべてが決まると思っているのだろう。カテゴリー5の霞を見れば、そんなわけがないのに。
「おれは、現主席・西野霞を超してェんだよ。そのために壮麗学園へ入ったんだから」
「西野霞とて、苦労してると思うぞ」
壮麗は、民間軍事会社としての側面も持つ。ここでカテゴリー5に認定されれば、一生壮麗の飼いイヌだ。そんな危険性を、少年は中学生らしく理解していないようだった。
「まぁ良いや。測定してくるぜ」
「あぁ、健闘を祈る」
少年は指紋認証のごとく、人差し指を装置に入れる。それから数秒後、ツーブロックの少年は意気消沈としながらこちらへ戻ってきた。
「……カテゴリー3だったわ」
「中学生にしちゃ、上々じゃないか?」
「そうかもしれんけどさー、やっぱりてっぺん獲ってなんぼっしょ。この世界は」
「いえてるかもな」
続いて、寛太が機械の元へ向かう。人差し指を入れ、数秒間のタイムラグの結果、
『カテゴリー・エラー』
と表示された。
(壮麗でも計れないほどの異能力……まぁ、カプセル飲んで発現させてるから当然か)
1から5まで、と思われがちなカテゴリーだが、ごくまれにエラーが生じることがある。時価総額10年連続1位、人間に能力を開発するという禁忌を犯している壮麗ですら、計り知れないものはあるのだ。
「どうだった?」
「カテゴリー・エラーだった」
「え?」
「ごくまれにあるんだよ。壮麗でも推し量れない異能が」
「……アンタ、随分詳しいな」
「まぁね」
「アンタの名前、覚えとく価値がありそうだな。おれは宮下敏明。アンタは?」
「西野か……千尋。きょうから1学年編入になった」
「西野? あの西野霞の妹?」
「そうだね」
「姉はカテゴリー5で、妹はエラーかよ。とんでも姉妹だな」
「よく言われるよ」




