003 中学からやり直せ
「汚ねえ部屋だな、相変わらず」
寛太はそうボヤく。そこらに落ちているティッシュ。捨てるつもりもない化粧箱。缶やペットボトルが散乱していて、座れる場所なんてベッドとゲーミングチェアくらいしかない。
「ま、散らかってるほうが落ち着くしな」
まだ寝るには早いが、なんとなく自分のサイズが気になったので、ベッドに横たわってみる。うーむ、小さい。TSするまで身長が170センチくらいあったが、今や150センチにも満たないであろう。
「ま、肉体は魂の器にしか過ぎないさ」
寛太はベッドの上に座り、ボーッと部屋を見渡す。視線が下がっているのも相まって、汚い部分がくっきり見える。困ったものだ、と思いながらも、やはり散らかっているほうが落ち着くので片づける気はない。
「さぁーて、と。これからどうしようか」
いかんせん、怒涛の一日だったので、特段なにをするかは決めていない。とりあえずタバコでも吸ってみよう、と寛太は紙巻きタバコをくわえる。
「……おぇッ!!」
が、肺の年齢まで子どもになっているためか、吸い込んだ瞬間気持ち悪くなってしまう。これでは到底吸えない、と灰皿に押し付ける。
「よくもまぁ、こんなもん吸えたな……」
そう嘆きながら、寛太は口直しに水を飲む。口の中には、まだえぐみが残っていた。
「FPSでもするか? いや、さっき画面酔いしたしな……」
こうなると、やることがない。無色歴が長すぎる故、選択肢が少なすぎるのだ。
「……インフルエンサーかVtuberでも目指すか?」
紹介したいものもないインフルエンサー。ゲームすらできないVtuber。うん、無理だな。
「しかし、この銀髪少女の見た目を活かせそうなもんは、なんだろな」
せっかく、美少女になったのだからなにかしたい。美少女は、なにをしても絵になる。35歳のおっさんではできないことも、今ならできる。
「うーむ」
寛太は腕組みし、今後について考える。
なにもしないには惜しいが、なにかをするにしては足りないものも多い。こういうとき、友だちでもいれば仕事でも紹介してもらえそうだが、中学生・不登校、高校生・通信の人間に友だちはいない。
「こうなりゃ、霞といっしょに、壮麗学園中等部でも行くか?」
間違いなく霞が首を縦に振らないのを除けば、割とベターな発想ではある。
壮麗学園は、生徒の頭に電気を流したり投薬治療を行ったりして、人間の頭に無理やり異能力を開発する実験施設である。〝サイバー・ギア〟という外部装置をインストールしても異能力は得られるが、現在主だった異能開発は人間の頭の構造そのものを変えてしまうことで行われる。
「とりあえず、父に頼んでみるか」
こういうときだけ、行動が早いのが寛太の良いところである。持たされている携帯電話で、父へと電話をかけた。
電話は、ツーコールには通話状態になる。
「やぁ、パパ」
『やぁ、親愛なるドラ息子』
「今のおれは、銀髪の少女だよ」
『そうだったな。どうだ? 少女の身体は』
「どうもこうもないさ。FPSすらできない」
『脱ニートにはちょうどよかろう』
「脱ニートしてほしいなら、20代前半くらいにすべきだと思うけどね」
『実質中卒がなにを言ってる。数学の授業もできんくせに』
「そりゃそうだけどさ、加減ってもんがあるでしょうに」
『ともかく、わざわざ中学生くらいの少女にしたのには訳がある』
「なんの意味だよ」
『壮麗学園中等部からやり直せ、って意味だよ』
「だと思った」
『なんだ、意外と驚かないんだな』
「どうせ、中卒以下だしね。おれの頭ン中。霞が嫌がらないかどうかが心配だよ」
「霞は、お母さんが説得し始めてる。あの子も、なんだかんだ君が心配なのだよ』
「……ひとつ良いか?」
『なんだ?』
「エゴイストだよな、パパもママも」
『褒め言葉として受け取っておく』




