002 トリック・スター
寛太は押し黙り、ゲーム機の電源をつける。
スピーカーフォンの先では、壮麗グループのお偉方がなにやら言っていた。が、気に留める価値もない。
「んじゃ、切りますよ。僕はゲームに忙しいんで」
『いや、少し落ち着け。君は現に、銀髪の少女になっただろう? なんの取り違えで、壮麗の最高機密が君の元へ渡ったのか知らないが──』
「僕の親は、共に壮麗グループの幹部です」
『……なんだと?』
「壮麗が巨大化の一途をたどる前、お偉方だったんですよ。だからまぁ、一向に働く意志を見せない僕にしびれを切らしたんじゃないんですか?」
『……苗字は?』
「西野です」
『西野さんか……。確かに、無職の息子さんがいるとは伺っていたが」
「そういうことです。僕の親はマッド・サイエンティストなので、ごくつぶしが最悪死んでも困らないんでしょう」
『うーむ……。では、君に渡された二錠の薬について説明するぞ。まず、性別を入れ替える薬がひとつ。もうひとつが、壮麗制の異能力を無効化する薬だ。そして、これらの効果は半永久的。質問は?』
「質問があるのなら、親にでも聞きますよ」
『確かに西野さんたちのほうが詳しいだろう。しかし、ひとつだけ忠告しておく』
「なんですか?」
『決して、自分の力を侮るな。その力は、いわばトリック・スターだからな』
「そうですか」
なにか言いたげだったが、電話を切ってしまう。寛太は起動済みのゲーム機のコントローラーを握り、FPSの世界へと逃げていくのだった。
*
西野寛太の両親は、めったなことでは帰ってこない。冠婚葬祭があって、ようやく帰ってくるほどだ。それ以外は、都内のホテルに泊まっている。両親は仲が良く、必ず同じ部屋に泊まるらしい。ヒキニートの寛太の顔を拝みたくないのも、大きな理由のひとつといえるだろう。
というわけで、寛太はカップラーメンをすする。広々とした家には、ペットすらひとりもいない。テレビを好き好んでつける性格でもないので、閑散としたリビングで麺をすする音だけが聞こえる。
「ふーむ。TSしました、って言っても、実感が湧かないんだよな」
時刻は夜の8時。こうなれば、外へ出て野郎どもの劣情でも集めてみるか? もっとも、着替える服がない。今だって、男性用の寝間着を無理やり着ているので、なにかの拍子で脱げてしまうだろう。
そんな折、
インターホンが鳴った。寛太は(ある程度想像がつきながら)、ドアへと向かっていく。
「霞、部活帰りか?」
寛太の妹・西野霞が、ジャージ姿で玄関に立っていた。
「ちっ……」
水泳部所属らしく、髪の毛の色と肌色が焦げている。目つきが良くなく、寛太を見た途端舌打ちする程度には兄妹仲も良くない。
「……って、誰?」
霞は、ある意味当然の疑問をぶつけてきた。目の前にいるのは、銀髪で白い肌、顔立ちの整った白人の少女だからだ。
「おれだよ、おれ。寛太兄ちゃんだよ」
「新手のオレオレ詐欺?」
「ところがどっこい、詐欺でもなんでもないんだな」
「アニキにしちゃ、女の子みたいじゃん」
「ま、詳しいことは親に聞きな。風呂沸かしてあるからさ」
「は、はぁ」
霞は、典型的な優等生だ。現在中学生ながら、大学レベルの内容が理解できる。また、壮麗グループの幹部の娘ということもあり、異能力でも侮れないものがある。炎使いであり、その威力は小規模な山なら燃やし尽くしてしまうほどだ。
「……アニキ、随分身長縮んだけど、不便とかないの?」
「霞から心配される日が来るとは、思ってもなかったよ」なにか言いたげな霞に言葉をかぶせる。「大丈夫。こんな姿になってから、まだ1日も経過してないからさ」
一応兄らしい(?)ところもみせつつ、寛太は霞が風呂場へ向かったのを視認し、自室へと向かっていくのだった。




