001 引きこもり絶対ジャスティス
もしも35歳無職が美少女になったのなら?
西野寛太は、引きこもり歴20年のニートだ。15歳のとき、イジメが原因で不登校になった。ニートの定義は34歳までなので、もはやニートとも名乗れない。
見知らぬ美少女が「お兄ちゃん♪」と現れたり、大金持ちの親が生前贈与してくれたり、とSFを妄想するも、現実はそう甘くない。60歳を過ぎた両親が、寛太の未来について話し合うのが、現実といえるだろう。
すでに働きたくない、という次元は通り過ぎている。問題は、中卒で職歴なしの存在を雇ってくれる会社があるのか否か、だ。
「ふぅ……」
寛太は、タバコをふかす。親からお小遣いをもらえる年齢でもないので、彼の資金源はもっぱら〝治験〟だ。在宅で怪しい薬を飲むだけのお仕事。なんの効果があるのか分からないが、1週間飲めば3万円もらえる。タバコ・酒にはまず困らない。
「ねみィな」
そういえば、もう治験から1週間経った。その意味があるのか知らないが、寛太に強烈な眠気がやってくる。あまりの眠たさに、足の踏み場のない部屋で雑魚寝する羽目になるのだった。
*
10年ほど前、寛太の暮らす横浜市は財政破綻を起こした。国と大企業〝壮麗〟からの莫大な資金援助によって、なんとかインフラは保たれている。壮麗グループは、検索エンジンから軍事ドローンまでを統括する会社で、世界時価総額第1位を10年連続で獲得している。要するに、今もっとも巨大な企業というわけだ。
また、壮麗は、「人類を一段階進化させる」という標語の元、違法スレスレの人体実験を行っている。「科学の発展のためには、犠牲はつきもの」らしい。日本政府はそうした実験を黙認しており、泣き寝入りした者は数知れない。
その事情を、西野寛太は自身の境遇から知らないはずがなかった。だが、壮麗のやり方は、所詮ニートの寛太では回避しようがなかったのである。
朝起きた……といっても、夕方の6時に起床した寛太は、まず水を飲む。鏡を見ながら、歯磨きもする。家には誰もいない。定年間近の父は残業らしく、寛太のためにパートへ出ている母もまだ帰宅していなかった。
「……なーンか、髪色が違げェな」
寝ぼけまなこだからか、深く考えていないものの、さすがに髪色が銀色に染まっていることくらい分かる。闇落ちしたみたいだな、と深く考えない。
「声も変だし……うーん」
寛太の声は低い。声変わりして以来ずっと低く、通りずらい声色だ。長年の無色生活で、何度か聞き直されることもざらにある。
「まぁ良いや。低いよりは、高いほうがまだマシだろ」
さすが20年も引きこもっているので、考え方はだいぶ刹那的だ。
寛太は、散らかった自室へ戻ると、ボイスチャットをつけてFPSゲームに興じようとした。
「こりゃあ、姫プに期待できるかもな」
自分の耳で聞いても、美しい声。凛々しくて、幼いものだ。
すると、
一応持たされていたスマホが鳴った。どうせ外へ出ることなんてまずないのに、親から渡されたものだ。
寛太は仕方なく、ゲーム機をつける直前に電話へ出た。
「なンすか」
『壮麗グループだ』
「なるほど、間違い電話ですか」
『そうじゃない。今、メモできるものはあるか?』
「チラシの裏なら」
『よろしい。大切なことだから、何度でもいうぞ』電話越しの男は一呼吸置く。『まず、君に投与された茶色い錠剤は、性別と年齢を入れ替えてしまうものだ』
「はぁ」
『少しは驚いてほしいもんだな……。で、その錠剤はいわば〝人類の夢〟。性別はともかく、年齢を若返らせるもんだと思えば、想像もつくであろう?』
「はぁ、まぁ」
『さらに、君へは2種類の錠剤を渡したはずだ』
「あの茶色いヤツと、白いヤツ?」
『その白いヤツは、あらゆる能力を無効化できるエッセンスが入っている』




