月を盗んだ女の子。5
長く、暗く、絶望に包まれた夜は
明けようとしていた。
『あまりにマッハの早業。
恐るべき速度の解決にて、
拙者は驚愕いたしました。
夢殿、どうもありがとうござる!』
えっと?
あくびちゃんの喋り口調ってこれで当たっていたかな?
まあいいや。
たぶん…この子達は忘れているみたいだけど、
本当の問題はまだ残っていて。
肝心なのはこたつが息しているか…
生きているかどうか?
じゃなかったっけ?
うん。まあでも。
呪い解除の儀式を無事に終えて
ぴょんぴょん喜ぶ女の子3人の
ハッピーを見ていたら、
今は、そんな無粋な事は
言わない方がよさそうなので、
しばらく様子を見ましょうね。
『それでは、こたつのスイッチを、
わーい!入れますー!』
瓦礫散乱する中、
こたつのスイッチを手にしたあくびちゃんは
ニッコニコにて。
しかし…
こたつはやっぱり息をしていなかった…。
暖かくもならなかった…。
『あれ?…こたつ?もう大丈夫だよ?
息をしてよ…。
もう…大丈夫なんだよ?』
『邪悪な豆は
夢ちゃん先輩がやっつけたはずなのに…
どうして…こたつちゃん…』
やっぱ長い夜はまだ明けてはいなかった。
絶望はまだこの部屋を支配していたのだ。
その時ー、
『あくびちゃん…』
『!?』
それは、物理的にも気持ち的にも
最期の時をむかえようとしているこたつの、
今にも消え入りそうなピアニッシモな声だった。
『こたつ!』
『あくびちゃん…私、こたつ。』
あくびちゃんは横たわるこたつを抱き起こす。
『こたつ…!』
『あくびちゃん…
私ね…あなたと過ごせたこの何日か、
すっごく幸せだったよ。』
『私もだよ!こたつ!』
『ふふ…ありがとう。
あくびちゃんは寒がりだから…
いつも、私が暖めてあげてたっけ。』
『うん、…うん…!』
『これからは身体を大事にね、
冷えは乙女の敵だからね…。』
『うん、!わがっでいるようー…。』
涙と鼻水でポロポロの
あくびちゃんのセリフは全部濁点。
『ずっと…ずっと、あくびちゃんの事、
妹みたいに大切に思っていたよ…
これからもずっと一緒にいたかったけど…、』
『やだ!…そんな死んじゃうみたいな事…
言わないで…!』
『ごめんね…あくびちゃん。
私、頑張ったけど…もうダメみたい、、』
『やだやだ!こたつ!』
『…ごめんね…。夢ちゃん歌ちゃん
私を呪いから、解放してくれてありがとう。
あなた達のおかげで最後に
あくびちゃんに想いを伝える事ができた…』
言葉にならない。
歌ちゃんは泣いている。
夢ちゃんは
大粒の涙がこぼれ落ちてしまわないように、
必死に耐えている。
こんな時は泣いてもいいんだよ。
『あくびちゃん…幸せになってね。
いつまでもずっと、見守っているからね。』
『ごだづ!!』
『…あくびちゃん。』
目を真っ赤にしながら夢ちゃんは
こたつの想いを察して
あくびちゃんに言う。
『お別れしなきゃね、…。最期に…
姉さん…って呼んであげて。』
こたつがニコッと微笑んだ、
『…ね…姉さーん!!!』
夜明けの空に、
あくびちゃんの叫びは吸い込まれて、
やがて静かに消えていった…。
空にはこたつの笑顔のイメージ映像。
その横に北斗七星が輝いている…。




