ジェヴォーダンの獣。7
『…これが、…ニュイちゃん?』
獣は、小さなお墓をみつめながら
不思議そうに言った。
『獣、次はこっちだよ。』
そういって夢ちゃんは、
今度はルマたんの小さなお家の前へ。
扉をノックし、
中から出てきたのはルマたん。
その姿を見て獣は叫んだ
『ニュイちゃん!』
突然の訪問に、
ルマたんは戸惑いながらも言った。
『私はルマです…』
『…え?』
『ニュイは…私のおばあちゃんです。』
『…獣。あのね。
獣と人の生きる長さはね、ちがうんだよ。』
ーー最初にこの街、ジェヴォーダンで
獣による事件が発生したのは、120年前。
人々に追われ傷ついた獣はこの街を離れ、
長い時間をさまよい続けた。
それでも。
ニュイちゃんのことだけは、
忘れられなかった。
人目を避けながら、
長い年月をかけこの街へ戻ってきていた。
あの日、
優しくしてくれたから。
ニュイちゃんに《似た》匂いを、
頼りにして。
『私が小さな頃、おばあちゃんが…
よく話してくれていました。』
ルマたんは、少し遠くを見るようにして…
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『ねえ、ルマ』
『なあに? おばあちゃん』
『おばあちゃんが、あなたくらいの頃にね、
森の中で、ケガをした獣に会ったの』
『…こわい』
小さなルマは、ぎゅっと手を握る。
『食べられちゃうかもしれない…』
ニュイはゆっくりと首を振った。
『大丈夫。』
そう言って、ルマの手をそっとにぎる。
『その獣はね、人を食べたりなんてしないの』
『ほんと?』
『ええ』
少しだけ懐かしそうに目を細めて、
『ホントはとても、優しい子だったから』
『…』
『おばあちゃんはね』
ルマの目を見て、静かに続ける。
『その子と、お友達になったの』
『…お名前はー?』
ニュイは、やさしく微笑んだ…
『それはね………』
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ニュイちゃんの小さなお墓の前。
綺麗なお花がやさしくゆれている。
獣は、じっと見つめていた。
『ニュイちゃん。ごめんね。ワタシ…
間に合わなかったのね…』
『…獣さん…』
歌ちゃんの目からは涙がこぼれ落ちる。
『ルマたん…夢さん、歌さん、ありがとう。』
獣はゆっくりと背を伸ばす
『大事なものを…』
『どんなに大切に思っていても、
いつかは無くなってしまうのね…』
『…』
『……』
『しかたないわ。そういうものだもの…』
夢ちゃんは、隠すこともせずに
ポロポロと泣いていた…
『…でもね、ニュイちゃんはワタシに
…残してくれていたわ…』
獣はすこし微笑む。
『とてもとても暖かいものを…。ずっと忘れてしまっていたけれど…それを思い出せたの…。』
そう言って獣は
白い指先を伸ばし
優しくお墓に触れた。




