熱。
『熱は、鉄い内にうて。』
読者の皆様におかれましては、
ひとつ前のお話、くじら14号。記憶に新しくと存じあげます申しあげます。候。ゆえ。
『あんな感じにさあ、なんかええ話っぽいのをさあ、やりなよ。天国ちゃん。』
まだ昼の早い時間だというのにー。
居酒屋さんで、キャベツ食べながら僕を
天国ちゃん呼ばわりするのは、
マチコさん。
僕の先輩みたいな御仁で、キャベツ食べてる。
『例えばさあ、さそり座がさあ、地上に落っこちてくるお話なんてどう? ええくない?』
『あははー……』
そのまま真顔でいると、マチコさんが気を悪くするかもしれないから、それはめんどいから、
愛想笑いしてみた。けど、やっぱり魂が許さなかった。
『似たようなお話を、こないだやったの。』
『大丈夫よ。ちょい変えて、ええ話みたいにしたら、ええかもよ? 』
店員さんがドリンク持ってきてくれた。
ビールとチャイナブルーです。
『お。さすが天国ちゃん。あくまで水色の飲み物で行くつもりやわね? やるなあ。』
『たまたまです。』
『それでさあ、じゃあ例えばこんなのどうかな?バスケットの青春物語。主人公はど素人。』
『絶対に怒られちゃいますよ。ソレ。』
『タイトルは、そう。 スラム。』
『下手すると殺されちゃいます。僕。』
『大丈夫よ。ちょい変えて、ええ話みたいにしたら、ええかもよ? スラム。ダンス。』
『……アハハー。』
店員さんがドリンク持ってきてくれた。
ビールとカルアミルクです。
『お。さすが天国ちゃん。あくまで甘い飲み物で行くつもりやわね? ふわふわ。絵本やね。
やるなあ。かないません。』
『偶然です。』
『またまた。こっちは、わかっとるんよ。
「甘味は幼児性と幸福の象徴である」やろ? 』
『今はじめて、そんなの聞きました。』
『まあええわ。』
『マチコさん、何か食べます?』
『キャベツだけでええよ。金ないし。
それよりも、あ、ほだら、サメのお話しとかどうかな? 天国ちゃんサメ好きやんね? 』
『サメ好きです。』
『人食い? 』
『限らずですね。』
『サメがね、鬼に家族をヤられちゃう。
妹まで鬼にされちゃってね。むかつくぞ、ってね。それで鬼を退治する組織に入るんよ。
復讐のために。悲しむ人々をこれ以上ふやさないために。刀を握りしめて。』
『……主人公の名前はどうなってます?』
『そりゃもう、暖炉サメ治郎やろ。』
『僕、切腹決定ですね。』
『まあ、いろいろ言いましたけどね、
わしはね、天国ちゃんがかわいいから、こんなん言いますのよ。かわいいから。キャベツうまい』
『それは、伝わってますよ。いつも気にかけてくれてありがとうございます。マチコさん。』
『ほんで、実際、次どうすんの?』
『もう閃いてます』
『ええ話っぽいのをもう一回やるんやね?』
『やだ。居酒屋でキャベツ食わせます。』
『それ………やるなあ。天国ちゃん。』
『てへへ。』
『そっか。ほならわしはもう何も心配することないわいな。よっこらせ。』
『ありがとうございます。マチコさん。
………この後、お仕事ですか?』
『アニメの打ち合わせや。』
『頑張ってください。応援してます。』
『ありがとな! ほな。また。』
マチコさんは、颯爽と昼の街へ去ってった。
僕の大好きな、カッコいい大先輩。
毎週、日曜日、
夕方18時半からの
国民的アニメ。
『シジミさん』
作者 長谷河マチコさん。




