終わらない物語。
暖かなお部屋の空気と、冷たいお外の空気で
窓にはてんとう虫みたいな小さな水滴。
キャラメル色。
やわらかなローソファーに背中をあずけて
何やら絵本を読んでいる、夢ちゃん。
ぽーんと、
もこもこわたあめ靴下の両足をなげだして。
窓の外では、冬枯れのクリスマスツリー。
落ち葉がひらりと——
絵本のタイトルは、
《武の真髄》
夢ちゃんのほっぺがふくらんでいるのは、
キャンディのしわざ。
《武の真髄——74ページ。
武術において、相手が攻撃しようとするまさにその瞬間や気配(起こり)を察知し、相手よりも先に仕掛ける高度な戦術のことを、
先の先といいます。——》
夢ちゃんの、指先がほんの少しだけ、
ぴくり。と動いた。
ほっぺのキャンディが、ころん。
落ち葉がひらり——。
《武の真髄——123ページ。
先の先より次元の高い戦術が
相手のさらに先を読む、
先々の先です。
相手がまだ攻撃の意志を起こす前、こちらの気迫や圧力で相手をコントロールし、相手が仕掛けてくるのを予測して先んじて技を極めること——》
夢ちゃんの、指先がほんの少しだけ、
ぴくり。と動いた。
ほっぺのキャンディが、ころころりん。
落ち葉がひらひらりん——。
《武の真髄——9999ページ。
後の先
相手の攻撃を先に出させ、それを受け流したりかわしたりした(相手の技の後に対応した)直後にすかさず反撃すること。
返し技に相当し、相手の気勢が萎えた隙を狙う戦法です。——》
夢ちゃんの、指先がほんの少しだけ、
ぴくり。と動いた。
ほっぺのキャンディが、ころ。
落ち葉がひら——。
先の先を後の先で、だけども状況に応じて戦術を後の先から先々の先、もしくは先の先のとみせかけた先先々の先の先?必勝を万全とするならば、
先先先の先を先先先の先のさらに、先先先の先を先先先の先先の先先先先先先先々
あ、まちがえた。じゃなくて
先先先の先の先先先の先の先先先の先を先先先の先先の先先先先で先先先々の先………。
『きりがないや。』
夢ちゃん、絵本をぱたんと閉じた。
『ふわー……』
あくびをしながら、窓の外を見ると、
落ち葉がひらりと、地面に到達した。




