死狂い。 3。
『もしも、万が一、
もしもな事になっちゃったら、どうしよう……』
やだなあの気持ちで、歩くものだから
風邪をひいた感じがする。
カチコミかけるお屋敷まで、
もう少し。雪の坂道、
向こうから歩いてくる女の子が見えた。
『サンタさんとかなら、いいのになあ』
近づくにつれ、
その女の子はやっぱりサンタさんではなくて、
『だよね』
と、えもんちゃんは、ふっ、と、
笑ってみせた。
すれ違った女の子は、
宝石みたいな紫の瞳。
美しいのか残酷なのか、
よくわかんない無音の雪ふる夜。
——— ♡
『もうやるしかない。ござる。』
カチコミ屋敷の門の前、えもんちゃんは両手に
長い刀と短い刀を構え、
『パッとやって、パッと帰ろう……
で、あたたかいお布団で眠るんだ。』
自分に嘘をついて、
一歩を踏み出した——
『えもんちゃーん!ダメー!』
その時、天国旅行を阻止する声が。
『え? あっ。マツダイラちゃん?』
走ってきたのは、えもんちゃんの主君。
大和郡山藩主の マツダイラちゃん。
その人であった。
『ど、どうしたの?マツダイラちゃん?』
『はあ。はあ。良かった……間に合った。』
この雪の中を、藩主ともあろう人物が
護衛も伴わず、ただひとり走ってきたのだ。
これは只事ではないござるに。候。
『カチコミは中止だよ』
やっと息が整ってきたマツダイラちゃんが、
決行の中止を宣言した。
『え?なんで?大丈夫なの?』
『うん。あのね、えもんちゃんが出かけた、
そのすぐ後に、大変な事が……』
『 仇討ち禁止令。
廃刀令。
廃藩置県。
って、お知らせが届いたの。
だから、もうカチコミなんて
しなくていいんだよ。』
笑顔で一気に説明をしたマツダイラちゃん。
『え? え? どゆこと?』
事態の急な方向転換に、
えもんちゃんは困惑した。
つまり、まとめると、
「みんなで仲良くクリスマスをしよう。」
という事で、えもんちゃんはもう、
わけのわからない武士の名誉だとか、
お家のためだとか、そんなもののために
天国へ行かなくても良いのだ。
『嫌な命令して、ごめんね。』
マツダイラちゃんが頭を下げる。
『……いいよ。マツダイラちゃんだってさ、
カチコミなんてしたくて、
決めたわけじゃないんだもんね。』
えもんちゃんは、そう言いながら、
刀を鞘におさめた。
『かえろっか。』
『うん。かえろ。風邪ひいちゃう。』
雪は美しく、無音でふりつづける。
——
時は
寛永11年11月7日。
1634年12月23日。
23時59分。
クリスマスまで1分前の奇跡。




