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date  作者: 真砂木
33/38

33話 閑話

時系列は29話より前


 「あ…、しまった」

 伊達はお風呂に入る寸前シャンプーとボディソープを同時に使い切った事を思い出した。

 今日はバイトもなく、気を抜いていた為かぼんやりとしていた。

 時計の針は夜の七時半をさしている。

 仕方ない…、行くか

 伊達は玄関へと向かい鍵と袋をポケットに入れて家を出た。

 少し歩いた所で伊達は思った。

 いつもならこういう時は大体謎の配達がなされている。しかし今日はどうやら違うようだ。

 …めずらしいな

 …学祭の準備でそれどころじゃないってとこかな

 と、頭に浮かぶ人物の事を想った。

 …無理してなきゃいいけど


 家を出て数分。伊達の隣を自転車が通り過ぎる。

 けれど、すぐに甲高いブレーキの音を響かせて止まった。

 乗っていた人物が振り返る。

 「やっほ、いーくん」

 「…こんな時間に何してんの」

 伊達は目を丸くして遥をみた。

 「え、遊んでた。というか釣り」

 そう言った遥の方をよく見ると、ハンドルの部分に釣り竿と思われる長い棒状のものが確かにあった。

 …釣りって、

 「え、もしかして」

 「そ、チャリで海までかっ飛ばして来た」

 …元気だ。結構な距離あるのに

 「…つれ」

 「なかったー…俺はね」

 と、どこかしょんぼりした様子の遥。伊達は「ざんねん、次は期待してる」と言って遥の背中をぽんと叩いた。

 「ぜってー釣る…!で、いーくんどこ行くの…?」

 「スーパー」

 「コンビニじゃなくて?」

 「うん、安いから…」

 …スーパーの方が。コンビニのが近いけど、今月は使いすぎたから少しでも節約したい

 「ぎりぎりなの…?」

 「そ。遥は早く帰って気をつけてね、俺もう行くし」

 「乗れば…?うしろ」

 伊達は首を振る。

 「パトカーがこわい」

 「…いーくんって変なとこでこわがり」

 「うん?そうかな」

 と言いながら伊達はゆっくり歩く。

 せっかくの休みなのでのんびり過ごしたい。そんな伊達の隣に遥はスピードを調整して蛇行しながらついてくる。

 「遥ついてくる…?」

 「いーくんが乗ってくれるまで」

 と前を見ながら自転車を運転する遥。

 「…なら、乗ろっかな」

 予想していたのか遥はすぐに自転車をとめた。

 伊達は遥の背負っていたリュックを受け取ると、代わりに背負う。

 後ろに乗ると遥はゆっくり自転車をこぎだした。

 …らくちんだ。ちょっと尻に衝撃が来るけど、風も気持ちいい…

 「いーくん、ちゃんとつかまってる…?」

 「うん、うしろの…っと」

 段差で大きく揺れて、遥の服を咄嗟につかむ。

 「飛ばしまーす」

 遥の宣言に伊達は「安全運転で…!」と叫びながら遥のお腹に手をまわした。

 ◆◇

 「とうちゃーく!」 

 着いてすぐに伊達は自転車から降りた。背負っていたリュックを遥に渡すと、なぜか一目散にスーパーの入り口へと駆けていく。

 「え、待って」

 という遥の言葉に伊達は振り向かずに言った。

 「トイレ…!」

 伊達の言葉に遥は一瞬きょとんとした顔をする。

 「そこで待ってて…!」という言葉を残し伊達は店の中へ消えた。

 置き去りにされた遥はそんな伊達の姿に少し笑うと、ポケットから光る端末を取り出した。


 ◇


 伊達はほくほくした気持ちで店を後にした。日用品が安く手に入ったからだ。

 …買う予定のないものまで買ったけど、安かったし…

 と誰にいうでもなく心の中で理由を並べる。

 機嫌のいい伊達に気づいているのか遥は鼻歌交じりに自転車のペダルを踏んでいる。

 「遥、ありがと」

 「いーえ」

 そこから会話は途切れたが、無言の時間も穏やかな空気が漂っている。

 そんな時、辺りにドンッと空気を震わせる音が鳴り響いた。

 そしてまたどこからか音が鳴る。

 遥が興奮したように言った。

 「いーくん、花火!」

 「はっ…?」

 遥の言葉に思わず空を見上げる。

 音はするがどこで上がっているのかここからは見つけられない。

 …今日何かイベントあったっけ?

 伊達が考えていると、そわそわとした様子で遥が喋る。

 「えー、どこかな。ここからは見えないけど、音近いよね…?」

 …行く気だ

 …俺もみたいけど、あ

 「はるか、あっち光ってない…?」

 「うそっどこ、」

 伊達が指をさそうとする前に、遥はうっすら光りを放つ方向へスピードをあげた。

 「はるか、飛ばしすぎっ」

 「あはは、掴まってて…!」

 …だめだ、こうなるととめられん

 楽しそうな遥にひやひやしながら、伊達もなんだかんだドキドキして楽しんでいた。

 しばらく二人でこっちだあっちだと言い合い、ついに辿り着いた。

 立ち並ぶ木や建物の間からわずかに見えた。開いた所に出ると花火と対面する事ができた。

 「うあ、上がってる」

 「うはは、やった、たーまやーー!」

 もう少しだけ移動して完全に拝める所まで行く。

 見えやすい位置で自転車をとめると、二人して空を眺めた。

 周りは静かでたまに車が通り過ぎるくらいだ。

 コンクリートの四角い台のようなものが近くにあって、そこに二人で座る。

 …ちょっと遠いけどよく見える


 伊達はチラリと隣を盗み見る。

 花火をみれて嬉しそうだ。

 そんな遥を伊達はこっそり写真に収めたい、と思ってしまった。

 …いつもされる側だから、何か変な感じだ。遥には後で一緒に見てバラすとして…

 …一枚だけ

 そう思い、画面越しに遥を見る。

 遥は空に夢中で気づく気配はなかった。

 撮り終えて伊達も夜空に浮かぶ花火を一緒にみる。

 「あ、オレあれ好きー」

 と遥が言った一際大きな花火をみて伊達も頷く。

 「…きれいだねー」

 「うん…」


 魅入っていたが、数分の時間はあっという間だった。畳み掛けるように一気に打ち上げられる。

 …そろそろ終わりだ

 最後の花火が夜空に消えると急に静かになった。

 余韻でほんの少しだけ名残惜しげに空をみる。

 「終わっちゃったー…」

 と寂しそうな遥に伊達は「帰ろっか」と促す。

 「…やだー、っていうのはウソ。…帰ろ」

 「…、うん。今度は俺が前に乗る」

 「それはダメ…!」


 …なんで…?

 「…そんな顔しないで。自分の胸に手を当ててくださーい」

 

 伊達は言う通り手を当てて考えたが、わからない。

 遥は何か言いたげだったが、オレのチャリだから、いーくん後ろ乗ってねと言うと前に座った。

 …しょうがない、ここは黙って後ろに乗ろ…

 と思いながら伊達はどこかホッとしていた。


 「帰りまーす」

 「安全運転で…そーだ遥、今日――」

 

 

 昔、伊達は自転車に乗っていて大コケしたことがある。理由は大きな段差に気づかず、うっかり踏み外したからだ。その際、少しだけ頭を切ったあげく流血した。

 一緒にいた遥はそれを一部始終見ていて大泣きした。以来ちょっとしたトラウマなのである。

 そのことを思い出して帰り道、遥は行きとは違い比較的ゆっくりと伊達を家へと送り届けた。

 伊達はというと、その時の記憶に知らずと蓋をしている。何となく自転車が苦手だ、と本人はうっすら思っている。遥には言わないが。

 遥はそんな伊達のことを何となく察しており、必ず自分が運転する事にしている。ということに、伊達は気づいていない…



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