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29 交際0日のプロポーズ

?こういうタイトルの話、ありそう。

「え?」


 私?え?私何かした?


 吃驚して自分を指さすと、お兄さまは大きく頷く。


「君の守護者が力を貸してくれた」

「それは私のおかげでは……」

「いいや。あの方は君の事でしか動かない。君の為にしか動かない」


 そう言って、お兄さまはご自分の目を指さした。夏の空の一番高い所みたいな綺麗な青。


 兄様は生まれた時は赤い目をしていたと仰っていた。それが紫になり……。今は青い色をしている。では、本当に契約は破棄されたってこと?


 驚いて言葉にならない私に、彼は目を合わせて頷く。


「君は覚えていないといったけれど、私は覚えているよ。あの日は、父母の知り合いを集めてのお茶会だった」


 怪異との約束の日が近づくにつれ、お兄さまのお母様は塞ぎがちになり、それを慰める為の会だったらしい。


「今から考えれば、本当に奇跡のような偶然だったんだな」


 たまたま隣国から帰って来ていた私の母は、その時にお義父様の幼馴染ということで招待されていたらしい。


 普通、幼馴染とはいえ異性の友人をそういう場に招待するか?とは思ったが、当時はお互いに別の人と結婚し、子供もいたし、住んでいる場所も遠い。何より祖父と義父は事業提携もする仲だったということもあって、大丈夫だろうと判断されたらしい。


 勿論、母と義父もわきまえていたので、その場で言葉を交わしたのは挨拶だけだったという。


 友人たちのみ、とはいえ、結構な大人数。


 その中で、お兄さまは退屈して庭に出たのだと言う。そこにいたのが私。


「一目で、この子違うってわかったよ」


 もっとも、かなりな力を持った術師でなければ、わからなかったけれど。


 普通の人には魂の輝きなんて見る事はできないし、術師だとしてもそこまで見る力があるのはほんの一握り。


「恐らくお祖父さまにも不可能だっただろうね」


 それで、興味を持って見ていると、何と私は噴水の水に興味を示し、尚且つそこに落ちそうになった。


「危ない!って思って助けたのはいいんだけど、私の方が代わりに落ちてしまってね」


 幸い水は浅かったから、大事には至らなかったけれど、私の無事を確認しようとして顔を上げた瞬間、目の前にあの方がいたと。


「参ったよ。見たこともない怪異がいきなり目の前にいて、オマケに『穢れが!吾子に触れるでないわ!』って怒鳴られたかと思えば、雷が落ちたんだから」


 それでお兄さまは失神してしまった。


 幸い噴水の縁に凭れる形で失神したので、溺れる事もなく、気が付けば自室のベッドにいて、契約が半分解かれていた。と、お兄さまは話す。


「周囲は赤から紫に変わった目に驚いていたよ。それから君たちを探すために、親たちが八方手を尽くして探したんだけどね。……多分君の所にも誰か行っているはずだよ。でもわからなかった」


 相手が上位の存在すぎた事と、恐らく暫くの間は警戒して、私の魂の輝きも抑えていたのだろう、という事だった。


「結局該当者は現れなかったけれど、お陰で身代わりとして連れて来られた子供も死なずにすんだ」


 目の色を誤魔化す必要がなくなったから。それだけでなく、一度大きく契約が破られた事は、怪異にも伝わり、確かめる事もなく怪異は彼が死んだのだと言う祖父の言葉を信じたらしい。


 ……ノーキン万歳。


「そういえば、あの怪異ね。祖父が会った時は、立派な紳士の姿をしていたそうだよ」

「え?あれが?」


 紳士どころか、人ですらなかったけれど。


 青い顔の似非紳士がマネージャーとして側にいないのが不思議なくらいだったけど。


「奴の話の通りなら、契約を無理やり半分破棄された時に、返しをくらったというか、力を失って人らしい姿をとれなくなったんだろうな」


 上位の存在が無理矢理、力づくで破棄させたものだ。威力はかなりなものだっただろうとお兄さまは言うが、ようはゴムパッチンのようなものだろうか?


 ピンと張ったゴム。契約が終われば穏便に撓んだ状態で切られるそれを、張った状態でいきなり挟を入れた、と。


 悪戯が成功したような声で、お兄さまは私の肩から一度顔を上げて遠くを見つめ、それから改めて私の顔を覗き込んでくる。


「ね?わかった?」


 呆然としながらも頷いた私に、お兄さまは満足そうに頷き返し、「だから…」と、話を続けた。


「契約も完全に解除されたし、前にも言ったけど、これからは遠慮しないから」

「?」

「好きな子には、好きって全力でアプローチするし、逃がしはしない」

「はあ……」


 甘く目を細めての彼の宣言に、私は心臓の痛みを感じながらも、気の抜けた返事を返すしかなかった。


 契約が解除され、お兄さまは元の姿を取り戻し、好きな子に好きって告げる。それは家族として喜ばしい事だろう。


 今までの状態では、告白すら許されなかっただろうから、猶更だ。


 けれどそれは同時に、これからお兄さまは、自分だけのお兄さまではなくなり、もっと互いに気を遣う関係になるということでもある。


 お兄さまのお相手の方だって、いつまでも妹がべったりしていたら、いい気はしないだろうし、何より私たちの間は義理の関係。血がつながっていないのだから余計に気を使った方がいい。


 …これはあれよね、私とラウロの関係みたいになる可能性だってあるってことだものね。


 突然現れて、妹みたいなもの、と言いつつ、いつの間にかラウロの恋人というポジションを奪っていったエリス。


 私にはそのつもりはないし、お兄さまは誠実な方だからラウロみたいになる事はないと思うけれど、だからと言って、お相手の方が不快に思わない保証はどこにもない。


 私としても、自分がさんざんやられて嫌だった事を、他の人にやるのは本意ではないし。


 ……寂しいけれど、仕方ないわよね。


 やっと訪れた、お兄さまの春を邪魔はできない。


 どうせ数年もすれば、ラウロではなくても他の方に嫁ぐことになるのだし。兄離れも必要だろう。


 となれば。


「あ、あのお兄さま」

「ん?」

「何でしたら、私学園の寮に入りましょうか?」


 通っている学園には、家が遠方にある子たちの為に寮がある。お兄様のお邪魔になるなら、そこから通うというのも選択肢の一つだ。顔を合わせる機会が少なければ、少ないほどお相手の方も安心するだろうし。


 そんな私の提案に、お兄さまの眉が「これでもか」というくらい寄った。


「何をそんな馬鹿なことを。もしかして、私の気持ちが迷惑だから、逃げ出そうとしているの?」

「は?」


「そんな事をしても無駄だよ。言っただろう?もう逃がしてあげられなくなるって。今はもう逃がしてやらないになったから、大人しく私のプロポーズを受けなさい」

「ええ?」


 プロポーズって…。交際0日でプロポーズなんですか?って違う!


 逃がしてくれないって……。


「あの、もしかしてお兄さまは私の事が好き…なんですか?」

「?前から言っているだろう?」

「ええ?そうでした?」

「ああ。そのつもりだったけど」


 驚きから目を白黒させる私に、お兄さまは平然と答える。


「それは…その。妹として?」


 家族として見ているのなら、プロポーズはおかしい。けれど、あまり人付き合いをしてこなかったお兄さまなら、あり得るかもしれない。


 大体交際ゼロ日っていうのも、非常識だし。


 でも……。


 私を見つめるお兄さまの目は、とても真剣で……。


「妹としてだけなら、こんなにガツガツはしないと思うけど」


 ガツガツしているようにも見えないけど、お兄さま的にはこれでガツガツしていると。


 確かに、接触というか、スキンシップ過多かな?と感じる時はあったけれど、そもそも兄妹間のコミュニケーションの程度を知らないし、お兄さまがそういうタイプの方なのかと思っていたから。まさか、そう言う意味でアプローチされていたなんて、考えもしなかった。


 それは、えっ、でも、まさか、でも、いえ、まさかそんな事。でも。


 心の中で「でも」と「まさか」を繰り返す。その度にオセロをひっくり返す時みたいに、反転していく気持ち。


 それは最終的に、心の底から湧き上がってきた「嬉しい」と言う気持ちでピタリと収まる。


 そう、嬉しいのだ。


 彼の告白が、彼の想いが。


 その喜びが、大好きなお兄さまと離れなくて済むといった家族としての嬉しさなのか、恋人として好きって、言って貰えた嬉しさからくるものなのかはわからない。


 それでも、嬉しいと感じる気持ちは間違いない。だから告げた。


「……嬉しいです」


 恥ずかしくて、小さな声にはなってしまったけれど、お兄さまには聞こえたようだ。


 一瞬目を丸くした彼が、次の瞬間には甘い笑顔になる。


「……人は一人で逝くものだけど、最後の瞬間まで側にいるから」

「はい」

「ずっと守るから。仮令先に逝ったとしても、君を守り、君を愛するから」

「はい」


「一緒にいてくれる?」

「………はい」


 泣き声になりそうだけど、しっかり返事をしたかったから、間をおいてもはっきり答える。


『守護者として生きるつもりがあれば、我を使え!』


 あの時に、答えを出してくれた彼だから。


 繋いだ手。指を指で絡めとられ、しっかりと繋がれて。その温もりと、手の力が嬉しくてそっと身を寄せると、もう片方の手に力強く引き寄せられた。 



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