受難の裏側
ロザリンド視点、準備段階です。
時間は少し遡る。悪戯大作戦、決行前日。第1開発室で、院長をシメ…………こらしめるための作戦会議が開かれていた。
「まずは敵の戦力ですね」
「はい!」
ライトンさんが挙手した。ノリがいいね。
「ライトンさん」
「はい!院長は基本的に全物理・全魔法防御結界の魔具を持ってます!」
「…燃費が悪くないの?それ」
「エド自慢の魔具だからな。作動して数秒で自動消失するから、燃費もいい。維持すれば燃費が悪いだろうが、罠は基本単発だから、充分だろう」
エルンストが情報を補足した。
「ふむ…ジェンド」
「はーい」
「結界が消えて、次が出るまでの時間をはかってきて。できるよね?」
「うん」
様々な案を推敲した。足元がお留守なのでは…というのは我ながらいい気づきだと思う。物理的な罠を仕掛ける奴はいないらしく、どうせなら…といくつか試作してみた。
悪戯だからはっちゃけたいなと私のちゃめっ気が出てしまったところで、誰かが来た。
「あ、蔵之助さん」
え?日本人?白髪の小柄なお爺さんが…
「くんくんくんくんくん」
全力で私の臭いを嗅いできた。
「いやあああああ!?兄様!兄様助けてぇぇ!!」
「蔵之助さん、お座り」
「わん」
座る小柄なお爺さん。いや、わんじゃないわ。兄に説明を求めると、兄は沈痛な面持ちで答えた。
「………ボケてるんだ」
「納得した!!」
「ダーリン」
「ひょあ!?」
小柄なお爺さんに抱き締められた。
「やややややめてください!」
「クラリン」
「へ?」
「クラリンって呼んで欲しいの」
「え?うん。クラリン、やめて」
「オッケーロザリン!魔法少女は終わらない!」
いや、うん。わけわかめ。とりあえず、離れてくれたのはよかった。しかし、なんというか…メンタルがゴッリゴリ削れ…………
魔がさした。そう。魔がさしたのだ。
「…クラリンは魔法少女になりたいの?」
「ちがうの。クラリンは魔法少女なの」
「魔法少女クラリンに新しい武器をあげる。そのかわりに、お手伝いしてね」
「うん、わかったの」
「ダメよ、クラリン!もっと可愛らしく!」
「ミラクリ」
「台詞間違ってるから!」
「ミラクル☆クラクラ☆」
「素敵よ、クラリン!」
「サンキュー、ロザリン!」
そして、私達はわかりあった。
「…ロザリンドは何がしたいんだ?」
エルンストが罠を作りつつ、呆れていたと後で兄に聞きました。魔がさしてました。今思えば。
「お姉ちゃ…ロザリンド、ポッチも連れてきたよ~」
「お姉ちゃん、僕もお手伝いするよ」
ジェンドが計測していたら、情報収集が終わって帰宅する途中のポッチに会ったらしい。
「じゃあ、ポッチには…」
お絵描きが得意なポッチ。工作も大得意である。粘土細工もとても上手い。ポッチにホラーな仕掛けの外装を作ってもらったのだが…………
「お姉ちゃん…」
「何?」
クラリンの演技指導に熱中していた私は、それに気がつかなかった。
「……………………おうふ」
怖い。
ポッチさんよ、リアルに作りすぎだよ!
「どうしよう…怖いよぅ、お姉ちゃん」
作った自分も怖いんだね!いや、明るい作業場で見ても怖すぎるよ!しかし、せっかく作ったからには使わないという選択肢はない。
ジャンケンで負けた、哀れなレフティさんが動作確認のためにポッチがデコったゴーレムに追いかけられたのだが…
「ぎゃあああああ!!怖い怖い怖い!!」
レフティさん、すまぬ。見てるこっちも怖かった。
おりてくる天井にみっしり顔を設置することになった。
「ロザリンドちゃん、本気だしすぎじゃない!?怖すぎるよ!」
「すいません!正直、同居人のポテンシャルを甘く見てました!」
皆で手分けして設置しましたが、この罠は絶対試したくないのでぶっつけ本番にしようと固く誓いました。
天井のギミックが作動するのに時間がかかるため、時間稼ぎにクラリンがオンステージとなりましたが…あの顔が天井にみっしりいる部屋で平然と待機できるクラリンは………超すげーと思いました。
短めですがきりがいいのでここまで。
次回、悪戯実行の裏側になります。




