受難の裏側・実行編
色々あったが、準備は整った。最難関は、ターゲットの指輪を着けさせることだが、私は心配していなかった。
「この魔具を持つ人に罠が作動します。挑戦、受けてくれますよね?」
挑発したら嬉しそうに受け取り、その場ではめてくれた。さあ、ゲームスタートです。院長さんの様子は蜂型録画魔具と定点カメラ魔具が撮影しています。全員別室で待機して院長さんを観察します。
最初の罠、水かけからのパイ投げ。
「よっしゃあ!命中!」
繰り返し試したかいがありました。綺麗に命中しましたよ。兄、エルンスト、ジェンドとハイタッチしました。
「あ、あの院長パイ食ってやがる!」
「くっそ!俺も食いたい!」
「…くーん…」
顔のクリームをなめとり、もくもくとパイを食べる院長。メンタル強いな!まったく悔しそうじゃない…パイが羨ましいらしく、ライトンさんとレフティさん、ジェンドが食べたいご様子。せつなげに鳴くなジェンド!あげるから!
「…はい、どうぞ」
パイ投げの被験者になりたがる人が多かった。なぜなら、皆パイが食べたかったらしい。なぜだ。
「ロザリンド」
「喜んで」
兄にも予備のパイとお茶を渡しました。エルンストにもついでにあげると美味しそうにたべてました。お茶とパイでまったりしていたら、金ダライがヒット。
「よし!」
狙い通り命中しましたよ!すぐ回復しちゃうものの、今回は痛かったらしくイラついたご様子です。
「ざまぁ」
兄の呟きに、院長への怒りがチラリと見えました。院長、兄は敵にまわしたらダメですよ。後悔しますから。
さらに私得意のワイヤートラップ…いや、ゴムヒモトラップ?が作動した。ターゲットの魔具を感知して作動するものです。他の人が上に来ても作動しません。
「あ、やっぱり足元は展開しないんだね」
宙吊りから、ぼよんぼよんと伸縮するゴムヒモ。さすがの院長も慌てている。
「いやあ、いつもどや顔してる院長が焦ってるわ」
「珍しいなぁ」
誰も心配しない辺り、院長さんの人望の無さがうかがえます。院長さんは魔法でゴムヒモを切断し、トランポリンに落ちました。私からの手紙を見て、表情がひきつっています。正しく意味を理解してくださって、嬉しいです。
「あれ、なんて書いてあるの?」
「ああ、直訳すると『どうせゴムヒモ切るのに手一杯で着地までどうにかできないだろうから、マットを用意してあげましたよ』ですかね」
「流石はロザリンド。的確に相手を抉るね。えらいぞ」
兄にナデナデされました。兄を敵にまわしてはいけません。
トランポリンはマットのようなタイプ。内部に仕掛けがある。トランポリントラップが発動した。勝手に波打つトランポリンに翻弄される院長さん。浮遊を使うなり対処法はいろいろあるんだけど、集中できないのか思いつかないのか、トランポリンからなかなか抜け出せないようだ。波打つトランポリンは魔法なしでの脱出は不可能に近い。異常な身体能力があれば出来なくはないだろうけど、見たところ院長さんの身体能力は普通の人に比べればいいぐらい。魔法なしではほぼ脱出不可能だろう。
「おね…ロザリンド、僕後でアレやりたい」
子供って、好きだよねぇトランポリンとか。
「いいよ。ついでにエルンストも遊びなよ。いい運動になるよ」
「……いや、俺は「わーい!一緒に遊ぼう、エルンスト!」
パタパタ尻尾を振るジェンドに、エルンストは敗北した。
「…………わかった」
あ、よそ見してたら第3のスタウトさんが通りがかった。
スタウトさんは虫ケラでも見るような目で院長さんを見て、見捨てて行きました。院長さんに若干同情しました。
そして、どうにかトランポリントラップから飛翔で脱出した院長さん。ぐったりしています。
5分経過。
10分経過。
「動かないな」
「ですねぇ」
「…動かしちゃう?」
「いいですねぇ」
ライトンさん、飽きたご様子です。レフティさんがいたずらっ子の表情です。他に通行人が来ちゃうと使えませんし…やっちゃうか!
「ハンドゴーレム、発進!!」
カサカサカサ…と這い出す大量のハンドゴーレム達。なんとその数100体。エルンスト、ライトンさん、レフティさん、ポッチ、ジェンドが頑張りました。いや、頑張りすぎました。カメラ越しでも超怖い。
ぐったりしていた院長さんがハンドゴーレムに気がつき、悲鳴をあげて逃げ出しました。
「…院長が普通の人に見えるね」
確かに、パイ投げのパイを動じず食らっていた男が普通に逃げてます。
「ルーベルト君、あれは追われる側になってみないとわかんないよ。俺、最初逃げられもしなかったよ…怖すぎて」
そう、レフティさんは最初硬直してました。来るとわかっていた人にもこの威力。むしろ院長さんはメンタルが強いので即座に逃亡できたと言えよう。
「あ、曲がろうとしてるよ」
「任せて。シャカさん、ゴー!」
兄が隠してあったシャカさん…上半身のみの女性型…サ○コ的ゴーレムを起動した。いや、あれはそのまま置いとくと無関係な人がビビるから隠しときました。
ハンドゴーレムも箱詰めで隠してました。動いてなくても怖いからです。ちなみにシャカシャカ動くからシャカさんという安直な名前はジェンドが考えました。ジェンドは怖くないらしい。流石は英雄の息子…どっか感覚がおかしい。
「あ、やべ。加速かなんかで逃げ切りそう」
ライトンさんの声で院長さんの位置を確認する。他の罠を発動させるか思案したが、思惑通り院長さんはトラップ部屋に逃げこんだ。ちなみに直進したらシャカくん(上半身のみの男性ゴーレム)が出現する予定でした。
そして、指輪の魔具に反応して照明がついたトラップ部屋にはたくさんの枝豆マシンガンズと鳳仙花ライフルズが…………
「兄様、多すぎませんか!?」
よく見たら、天井にも居るじゃないか!!この部屋は完全に兄に任せていたから私も初見である。お野菜戦士も居るじゃないか!
「頑張ったよ!」
「頑張りすぎです!!」
「というわけで、薙ぎ払え!!」
兄の合図で植物達が一斉に射撃を開始した。しかも微妙にタイミングをずらしているので、相手は結界を維持しながら進むしかない。後方の扉を出たほうが早いが、先程のゴーレム軍団が嫌なのか院長さんは結界を維持したまま隣室に行く判断をしたようだ。
ちなみにお野菜戦士達は植物を傷つけた際のお仕置担当だったそうで、出番はありませんでした。院長さんは以前兄様の鉢植えを割ったらしく、全力の仕返しを受けたからではないかとのことでした。
「…全防御だけあって、魔力消耗がすごそうですね」
流石に魔力切れの人間をいたぶる趣味はない。魔力が切れたら終了かなぁと考えていたら、ついにあの部屋に院長さんがたどり着いた。
まばゆいスポットライトを浴びて、彼は輝いていた。
「ハピネス☆クラクラ☆ミラクルチャージ☆魔法少女蔵之助☆クラリンって呼んで欲しいの☆」
セーラー服風の衣装を纏ったミニスカニーハイ魔法爺さんが軽やかにポーズを決めた。
「完璧!!完璧よ、クラリン!!」
立ちあがり、拍手する私。私は惜しみ無い賛辞を同志に贈った。
「サンキュー、ロザリン!」
クラリンも誇らしげに微笑んだ。ちなみに周囲はげっそりしている気がする。兄は笑っていた。ジェンドとエルンストはゴーレムが見つかると大騒ぎになるんで回収しに行っている。その後トランポリンで遊ぶらしい。
院長さんは地べたでしんなりしている。効果は抜群だ!天井に微塵も気がついていない。
5分経過。
…………そろそろ気がついてくんないとまずい気がする。
「クラリン、上がやばいって教えてあげて」
「らじゃ~、ロザリン!」
ててて、とクラリンが院長さんの側に駆け寄る。
「エドモンモン………」
声をかけるが、院長さんは気がつかない。クラリンがしつこくつつくのに根負けしたのか、ようやくクラリンに反応した。
「あー?」
「うえ、うえ」
「上?」
上を指差すクラリンにつられ、上を見た院長さん。微妙に波○拳のコマンドを叫んでいた気がするが、気のせいか。目を見開いて、悲鳴をあげたが流石は魔法院の長。植物部屋に逃げることにしたらしい。
植物部屋に行けば魔力切れは確定だし、クラリンに天井のギミック停止を頼もうと話しかけた。
「クラリン、お願い」
「オッケー、ロザリン!」
え、まだ私なんも言ってないよ?その一瞬の疑問が致命的だった。
「えい」
「は?」
押された。院長さんが、クラリンに、押された。
頭がついていかない。クラリンの院長さんへの予想外の攻撃に、固まってしまった。尻餅をついた院長さんは顔から流れる潤滑油で盛大にスリップした。院長さんも私もポカーンである。勢いよく滑っていく院長さん。
「くっそじじいぃぃぃ!!」
あっという間に氷の滑り台ジェットコースター風味に移行した。
「クラリン、ギミックを止めてほしかったのよ!」
「…………え?」
「院長さん、魔力切れになりそうだしこれで終わりにするつもりだったの!」
「……………クラリン、失敗。てへ」
「クラリィィィン!?」
テヘペロするクラリン、叫ぶ私。爆笑する兄。まだ固まってるライトンさんとレフティさん。
「あ、ロザリンドちゃん!」
「げ!大変だ!!」
「え?」
尻が、出た。
完全にアクシデントである。氷の均しが不十分だったのか溶けたのか…はたまたズボンが摩擦に負けたのかは不明だが、尻丸出しの魔法院の長は終着点に向かい滑っていく。
そして、終幕にふさわしく、盛大な水しぶきがあがった。
院長さんは、死んだ魚のような瞳をしていた。尻を隠しもしない。
私は覚悟を決め、古きよき日本の心、土下座を披露した。ライトンさんとレフティさんも一緒です。
「やりすぎました。ごめんなさい」
「あー、うん」
院長さんは心底どうでもよさそうだ。瞳は淀み…無気力状態である。
「院長さぁぁぁん!!戻ってきてぇぇ!?」
結局院長さんは魔力切れによる無気力だったらしく、魔力ポーションをのんだら回復しました。尻はわざとじゃないと強調しましたが、心底どうでもよさそうでした。この人はどうなってるんだろう。
兄はケラケラ笑っていて、ジェンドとエルンストは盛大な水しぶきを見て来たようですが、状況がわからず首をかしげてました。
翌日、院長さんに会いました。
「おはようございます」
「おはようございます。悪魔っ子怖い…」
なぜ土下座をする。悪魔っ子怖いって…悪魔っ子って私!?
院長はその後、なぜか私に会うと土下座をするようになりました。
「ロザリンドのおかげで、院長が働くようになったよ」
晴れ晴れとした兄の笑顔に、兄が原因だということはよくわかりました。兄を敵にまわしたらいけません。後悔します。
追伸・私は院長への罠チャレンジ挑戦権を剥奪されました。解せぬ。
あと、エルンストが筋肉痛になりました。強くおなり。
今日は更新頑張りました!悪戯大作戦はこれにて終了です。
実は多数のアクシデントにみまわれていた…という話でした。ロザリンドは直接院長と関わってないんで、やりすぎた!と思ってます。ルーは散々イラついたりしてまして、ざまぁと思ってます。エルンストはいい薬だなぐらいの認識。
トランポリンはアルフィージ様が遊具兼防犯グッズとして買いました(笑)




