魔法院長の受難・前編
魔法院長視点になります。
いつも通り朝が来て、コーヒーとパンを流し込み、まったりと出勤した。何か面白いことないかなぁ。そういや、ルー君の妹ちゃん。あれは面白そうだ。よし、ちょっかいかけてみよう。そう思って院長室を出たら、小さいじじいに遭遇した。
魔法院最高齢のこのじじいは魔法院に住み着いている。昔はすごい魔具職人だったらしいが、今はボケ老人である。
「気をつけた方がいいと思うの」
意味不明な発言だったが、今なら理由がよくわかる。退屈な日々は幸せだった。うん、刺激がありすぎだよ!!
始まりは、天使みたいに可愛らしい悪魔っ子から渡された魔具だった。赤い魔石つきの指輪を渡された。
「この魔具を持つ人に罠が作動します。挑戦、受けてくれますよね?」
仔猫みたいなつり目を挑戦的に輝かせた妹ちゃんに、私は内心喜んだ。いい暇潰しになりそうだ。
魔具を受けとり身につけた。
角を曲がったところで罠が作動したらしい。水をかけられたようだ。自動障壁が作動したので私は濡れてな…………視界が真っ白になり、顔面に何やら衝撃を受けた。ずるり、と何かが落ちる。顔はべっとべとである。
「……………生クリーム?」
甘い香りはどうやら生クリームであるらしい。舐めたら、甘くておいしかった。拾い上げると、パイに山盛り生クリームを盛ったものが直撃したようだ。パイにかじりついて糖分摂取しながら考察する。このパイうまいな。サッパリしてて…レモンクリームかな?
水は囮でこちらのパイが本命だろう。自動障壁の解除後再展開される数秒のタイムラグを狙い、正確に顔を狙うなんて…くだらないが、ものすごい技術力!しかも、ご丁寧に死角から飛んでくるよう計算され尽くしている…………え?しかもこれだけってことないよね?多分更に攻めてくるよね!?
嫌な予感は当たる……先ほど同様、水➡パイときた。しかし私も魔法院の長。同じ手を2回もくらうまぬけではない。自分の魔法障壁でパイを防ぎ…………脳天に衝撃が走った。
「ぐっ!」
自動治癒が作動し、即座に痛みはなくなった。床でグワングワンいってる金ダライ。どうやらこれが直撃したらしい。
この野郎。
久しぶりにいらっとした。二番煎じは通じないと予想して、こちらが防いだタイミングで頭上から金ダライ。障壁は基本最小限が身に付いている魔法使いの弱点を見事についてきている。自動障壁の再展開可能前に落ちるようにほぼ同時に作動したのだと思われる。罠の精度もさることながら、発想力がとんでもない。
さらに警戒しながら歩いていたら、急に足に何かが絡みつき、視界が反転した。いきなり宙吊りにされたと理解するより早く、体は宙にひっぱられ、やたら伸縮性のあるロープにぼよんぼよんされていた。
「ぎゃあ!?」
あ、頭に血が…!なんとかロープを魔法で切断すると、柔らかいマットレスに落下した。何故だろう。気づかい…なんだろうが…
『罠から逃れるので手一杯でしょうから、マットレスをご用意いたしました』
置き手紙に書かれた文章から、馬鹿にされている気配がする。しかし、自分の真下は自動障壁が作動しない。歩くのの邪魔にならず、かつ足元も守れるように改良しなければ!
マットレスから降りようとしたら、マットレスが波打った。これも罠!?ぼいん、と波打つたびに転げてしまう。バランスを保てず、立つこともままならない。端まで行こうとすると、明確に邪魔されている。
「……何遊んでるんですか」
第3のスタウト…だったかが心底呆れた視線が痛い。しかし私にもプライドがある。助けてとは言えず、余裕を見せた。
「そうなんだ、君もどうだい?」
犠牲者を増やそうとしたが、スタウトは虫でも見るかのごとく不快げに顔を歪めた。
「私は暇ではありませんので。失礼します」
そう告げると、早足で去っていった。助けを求めるべきだったろうか…私が飛翔の魔法を使えば良かったことに気がつくまでぼよんぼよんから抜け出せなかった。
まだ続きますが、話の展開上一旦切ります。




