5.入会審査
──立ち話もと、奥の椅子に座ってもらい彼の話を聞く。
彼がわざわざうちを訪ねてきたのは、こういうことらしい。
隣国シュナイゼル王国では今、有能な内政官や、国政を支える官僚たちの「適正配置」に頭を悩ませていた。
そんな中、我が国に出向いていた密偵から、「王都の下町に、人間の適性と能力を完璧に見抜き、最適なマッチングを行う恐るべき魔女?がいる」という報告が上がったのだとか。
「私はね、国政を共に行える真に知性的で、仕事ができる素晴らしい女性をずっと探していたんだ。王宮の着飾っただけの令嬢たちには、もううんざりしていてね。そしたら我が国の情報部が、君の噂を持ってきた。アメリア嬢、君の噂を聞いた時から私の心は決まっていたんだよ」
ユリウス王子は、真剣な眼差しで私を見て言った。
そして流れるような動作で私の前に膝をつくと、私の手をそっと取って、その甲に熱いキスを落とした。
ちょ、ちょっと……な、何? これ?
「アメリア。私は『相談所・エトワール』に入会させてもらう。そして私の交際相手として、君を指名させてほしい」
「え、ええええええええっ!?」
周囲からは「きゃあああああ!」という黄色い悲鳴と「王子、抜け駆けはずるいぞ!」という騎士たちの野次が飛び交う。
「ちょ、ちょっと待ってください、王子! 私はしがない出戻りの……」
「関係ないさ。私が求めているのは家柄という飾り物じゃない。君という、唯一無二の輝かしい才能だ。……それに、初めて見た時から、君のその勝気で聡明な瞳に、私は完全に心を奪われてしまったんだ」
アメジストの瞳が、いたずらっぽく、そして底知れない情熱を孕んで私を見つめる。
不細工な上、愛想もなく無能だと王宮を追い出された私が、まさか隣国の王子様から直々にプロポーズ(仮)されるなんて、誰が想像できただろう。
だが、私は一度失敗していたため慎重になっていた。
いや、恋愛に対して臆病になっているのだと思う。
あんな思いをするぐらいなら一生一人で良い! と本気で思っていた。
「会って間もないのに、そんなことを言われても困ります……それにユリウス様だってまだ私のことをよく知らないはずです」
「そう言えばそうか。私は君に一目惚れだが、君は僕のことは何とも思ってなかったんだしな? そりゃあそうだ。君の言う通りだ。ハハハッ。とんだ失礼をアメリア嬢。ならこうしよう。私をテストしてくれないかい?」
「へ? て、テストですか?」
「聞けば、ここのシステムは先ず入会し、お目当ての人がいればその人を指名して良いんだよね?」
概ね間違ってはないですけど……『エトワール』には、二種類の選択がある。先ずは王子の言うように、最初からお目当ての人が居て、その人とマッチングするためにサポートするプランと、自分の好みのタイプをシートに記入してもらい、私たちスタッフがその条件にぴったり合いそうな人を紹介するプラン。
前者の場合はデートの誘い方やデート当日のプラン、告白のタイミングなどについて、女性の好みを調査し、成功できるようサポートしていくプランだ。
ただ、前者の場合は「相手が固定」されているため当然「相手」が拒否するリスクはある。
ユリウス様の言っている内容は「固定指名」で入会し、その指名に私をすると言っているのだ……
「そうですね……規約上はそれで間違いないですが」
「なら、入会でお願いして良いかな? 一応身元証明書としてシュナイゼル王国の勲章は持参したが、身分証明書を発行したほうが良いかい?」
「い、要らないです……疑ってないですし……」
どうみても普通の人じゃない出で立ちと、外に居る強面の護衛の数を見れば分かりますって……
「では、よろしくお願いします」
ユリウス王子はにっこり笑って、入会書にサラサラと記入していく。
そして一番下の指名する人のところに私の名前を迷うことなく書き入れた。
そこにはちゃんと「アメリア・フォンテーヌ」と正しく書かれていた。
「これで良いかい?」
王子が私に記入済の「入会申込書」を差し出した。
「分かりましたお預かりします。ですが王子、我が『エトワール』の入会審査は厳しいですよ? 私に見合う男かどうか、じっくり『適性』を見極めさせていただきますわ。マッチングまでは個別デートは禁じられております」
私の挑発的な言葉に、ユリウス王子は嬉しそうに声を上げて笑った。
「望むところだ、私の可愛い魔女殿。君の審査なら、どんな過酷なものでも喜んで受けよう」
それだけ言って王子は相談所を颯爽と出て行った。
◇
一人になって私は、改めてことの重大さを感じていた。
隣国とは言え一国の王子が何でまた……
私なんかと?
しかも出戻りだし……
冷やかしのようには見えなかったけれども……
でも、もう二度とあんな思いはしたくないから、簡単に信じることなんて出来ないわ。
悪い人ではなさそうだけど、期待はしてはダメ。
誰にも頼らず一人で生きていくってあの日強く決めたんですもの。
私は先程、ユリウス王子がスラスラと記入した「入会申込書」を改めて読み返す。
希望する女性のタイプや要望などあれば記入となっている備考欄を見て、一瞬心臓の音が早くなった。
『あなたと共に生きていくためなら、私はどんな困難にでも立ち向かうことを約束します。そして私の生涯を掛けてアメリア・フォンテーヌ様、あなたを全力で守り抜く。ユリウス・シュナイゼル──』
まるでラブレターのような文面だった。
「ここって、自分の好みの女性のタイプを書く欄なのに……」
綺麗な字で書かれた「入会申込書」を無意識のうちに私は胸に抱きしめていた──
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