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無能な婚約者に不要と言われたので辞めて王子の婚約者に転職しますね  作者: 蒼良美月


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4.光と影

 アメリアが下町で敏腕経営者として大成功を収めていた頃、かつての彼女の職場である王宮の第三会計部署は、まさに「地獄の釜」が開いたような状態になっていた。


「おい! なんでこの伝票の数字が合わないんだ! 先方から大クレームが来ているぞ!」


「わかりません! アメリアさんがいた頃は何も言わなくても期日通りに書類が処理されていたのに……!」


 責任者であるアレン・クロフォードは目の前に積み上がった未処理の書類の山を前に、髪を掻きむしっていた。


 また()()()()か!


 アレンはまだ気づいていなかったのだ。


 アメリアがいた頃、彼女がどれほど膨大な「事前確認」と「部署間の根回し」を行っていたかを。


 アメリアは、アレンが提出する書類の致命的な計算ミスを、彼が気づく前に全て裏で修正していた。


 他部署との面倒な交渉も、彼女が持ち前の調整能力で事前に話をつけ、アレンがサインするだけの状態に整えていたのだ。


 それが、彼女が抜けた途端、全ての業務がストップした。


 伝票はミスだらけで差し戻され、他部署からは「クロフォードの部署は仕事ができない」と冷たい目を向けられる。


「クソッ! 代わりの人員はどうした! ミレーヌ嬢をこちらに異動させたはずだろう!」


 アレンは、かつて自分が「いるだけで場が華やぐ」と絶賛したミレーヌを、アメリアの代わりに補佐として引き抜いていた。


 しかし、それが崩壊への道の決定打となった。


「ええ〜ん、アレン様ぁ。この数字の意味が、わたしぃ〜全然わからな〜い。頭が痛くなっちゃいましたぁ」


「お、おい、ミレーヌ。それはただの足し算と引き算だぞ……?」


「だってぇ、わたしぃ~可愛い笑顔で人を迎えるのがお仕事ですもの。こんな地味で汚い書類を見るなんて、お肌が荒れちゃいますわ~」


 ミレーヌは、アメリアのように裏方で泥臭く働く能力など、これっぽっちも持ち合わせていなかった。


 彼女にあるのは、男に媚を売る技術だけ。仕事が進むわけがない。


 それどころか、彼女が部署にいるせいで、他の男性職員たちが色めき立ち、仕事の効率はさらに低下していくばかり。


 おまけに、その光景に憤慨し嫉妬に狂った他の女性職員たちが、次々と「転属願」を提出するという最悪の連鎖が起きていた。




 ◇





「アレン・クロフォード。君には失望したよ」


 ついに、会計部署を統括する最高責任者である侯爵から、呼び出しをくらった。


「君の父親への義理もあり、優秀なアメリア嬢を無理いってフォンテーヌ伯爵に私が頭を下げてまで君の補佐に就けておいたというのに。君はその有能さを見抜けず、ただの無能な飾り物を側に置き、部署を崩壊させた。管理者としての能力は皆無と言わざるを得ない」


「そ、そんな! 私は……!」


「本日をもって、君を責任者の座から更迭する。平職員への降格、および地方の閑職への転出を命ずる」


「なっ……!!」


 出世街道から完全に叩き落とされたアレン。


 さらに、不幸は重なる。実家に帰れば、怒り狂った父親が待っていた。


「この愚か者が! たった今フォンテーヌ伯爵家から、我が家が行っていた全ての共同事業の打ち切りを宣告された! アメリア嬢を不当に追い出した報いだ! お前のような無能、我が子爵家の跡取りとは認めん! 勘当だ!!」


「そ、そんな……嘘だろ……?」


 仕事も、地位も、名誉も、そして実家さえも失ったアレン。


 彼は着の身着のまま王都の路頭に迷うことになった。


 かつて彼があれほど「使えない」と見下したアメリアが、どれほど自分を支えてくれていたのか、それを知った時には、すでに人生のどん底へと叩き落とされていたのだった。


「俺が、何をしたって言うんだよ………」







 ◇◆




 アレンが途方に暮れた、ある日の午後─


『相談所・エトワール』は、いつにも増して大盛況だった。


 ミーナがコーディネートしたお洒落な服を着た町娘と、緊張でガチガチのイケメン騎士が、楽しそうにお茶を飲んでいる。


 そんな時、相談所のドアが静かに開いた。


 入ってきた人物を見た瞬間、店内の空気が一瞬で凍りついた。


 いや、正確には「あまりの美しさに全員が息を呑んだ」のだ。


 流れるようなプラチナブロンドの髪に、神秘的なアメジストの瞳。仕立ての良い、しかし明らかにただ者ではないと分かる高貴な旅装を身にまとった青年。


 その圧倒的なオーラに、店内にいた近衛騎士たちが一斉に直立不動の姿勢をとった。


(ちょっと、何事かしら……?)


 私がカウンターから出向くと、青年は私を見て、ふっと極上の微笑みを浮かべた。その破壊力たるや、周囲の女性陣が数人リアルに卒倒しかけるほどだった。


「失礼。ここが王都で噂の『どんな人間も完璧に見抜く、天才的な女性がいる相談所』かい?」


「ええ、私が代表のアメリア・フォンテーヌですが……お客様、失礼ですが、どなた様でしょうか?」


 青年は、周囲の目を気にする風でもなく、私の目をまっすぐに見つめて名乗った。


「これは失礼した。私は、ユリウス・シュナイゼル。隣国――シュナイゼル王国の第二王子だ。君に会いに来た」


「は、はいぃぃぃ!?」


 まさかの隣国の王子様の御来臨に、今度は私がポカンとしてしまった。


「お忙しい中、最後までお読み頂き大変ありがとう御座います」

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