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無能な婚約者に不要と言われたので辞めて王子の婚約者に転職しますね  作者: 蒼良美月


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3/9

3.大成功

 あの日、雨の中逃げるように王宮を去ってから私は実家に戻っていた。


 ありがたいことに両親も、仲人である叔父も私に理由は何も聞かず黙って迎え入れてくれた。


 でも、いつまでもこのままではいけない。


 こんな生活をするために、王宮の仕事を辞めたわけではない。心機一転やり直すつもりで私は婚約破棄までしたのだから。


 私は反対する両親を説得し、王都の片隅、活気だけはあるけれど少し寂れた下町の安アパートに居を構えた。


 両親は最後まで「何かあればいつでも戻ってきて良いんだよ」と私を心配してくれた。


 でも、私は一からやり直すと決めたのだ。






 ◇





 さて、これからどうやって生きていこう?


 軍資金はそれほど多くない。でも、私には王宮の会計部署で培った「数字を管理する能力」と、「人間の適性を見抜く目」がある。


 そんなある日、アパートの近くの井戸端で、女性たちがため息をついているのが聞こえてきた。


 私は知っていた。女性たちが集まる「井戸端」こそ、一番の情報収集できる場所だ。


「はぁ……うちの宿屋、人手は足りてるんだけど、どんぶり勘定だから毎月赤字なのよね。誰かいい経営のアドバイスをしてくれる人はいないかしら」


「私は、そろそろ結婚したいんだけど……出会いがなくて。町のごろつきみたいな男ばかりに声をかけられて困っちゃう。もっと真面目で、ちゃんとした職人の人と知り合いたいわ」


 それを聞いた瞬間、私の脳内でパチリと火花が散った。


(これだわ……!)


 どんぶり勘定で困っている商店や宿屋の経営を、数字の面からサポートする。


 そして、真面目に出会いを求めている男女を、お互いの条件や性格に合わせて最適にマッチングする。


 これこそ、私が王宮でやってきた「適材適所」の応用じゃない!


 私はすぐに行動を起こした。下町の古びた空き店舗を安く借り受け、看板を掲げたのだ。


 その名も『相談所・エトワール』


『お困りの女性たち、集まれ!経営から人生、そして最高の結婚相手探しまで私が一手に引き受けます!』


 最初は怪しまれたけれど、まずはアパートの住人や、近所の商店の娘たちの相談に親身に乗ることから始めた。


 メンバーとして、まずは井戸端で困っていた宿屋の娘ニナをスカウトした。彼女は愛嬌があって、人の顔を覚えるのが天才的に上手い。


「アメリアさん! 私、ここで働きたいです! アメリアさんのアドバイスのおかげで、うちの宿屋の帳簿が初めて黒字になったんです!」


「ふふ、頼りにしてるわよ、ニナ。私たちの手でこの町を、そして女性たちを幸せにするのよ!」


 さらに、お針子として働いていたけれど、口下手で男運が悪かった町娘のミーナも仲間に加わった。


 彼女は衣装のセンスが抜群で、相談に来る女性たちの魅力を引き出すプロとして覚醒した。


 こうして、使えないと言われた元令嬢と、下町の隠れた才能を持つ女性たちによる、前代未聞の「婚活・男女マッチング相談所」が本格的にスタートしたのである。






 ◇





「エトワール」のやり方は、これまでの王都の結婚仲介所とは一線を画していた。


 従来の仲介所は、家柄と身分、そして持参金の額だけで機械的に男女を合わせるだけ。そんなの上手くいくはずがない。


 私は、独自の「適性審査シート」を作成した。


 趣味、思考、理想の家庭像、さらには「朝型か夜型か」「食事の味付けの好み」まで細かくヒアリングし、それを元に私が裏で完璧なデータ分析を行い、絶対に相性が良いと確信を持てた相手だけを引き合わせるのだ。


 これが、笑ってしまうほど大当たりした。


「アメリアさん! 先日紹介してもらった職人さんと、婚約が決まりました! 彼、私の作った料理を『美味しい』って全部食べてくれるんです! これを機会にもっと仕事も頑張りますね!」


「おめでとう、ミーナ! あなたの穏やかな性格には、寡黙だけど優しい彼がぴったりだと思ったわ。仕事のほうも無理しない程度によろしくね?」


 口コミは瞬く間に広がった。最初は下町の町娘や職人だけだった客層が、次第に変化し始めた。




 ◇




「あの……ここが噂の相談所か?」


 ある日、ガタイのいい、見るからに強そうな青年が照れくさそうにドアを叩いた。


 見れば、王宮を守護する近衛騎士団の制服を着ている。


「いらっしゃいませ。近衛騎士様がどのようなご用件で?」


「いや……同僚のやつから聞いたんだ。ここで紹介してもらった相手と結婚したら、毎日が信じられないほど幸せだって。俺たち騎士は、遠征も多くて出会いがないし、女性とどう話していいか分からなくて……」


 近衛騎士といえば、世間の女性からは憧れの的。けれど実態は、男ばかりのむさ苦しい環境で、恋愛初心者だらけのピュアな集団だったのだ。


「お任せください! 当相談所には、騎士様の忙しい職務を理解し、陰から支えたいという自立した素敵な女性がたくさん登録していますわ!」


 私は彼のライフスタイルと性格を分析し、しっかり者で料理上手な商家の娘をマッチングした。結果は、大・成・功。


 これに味をしめた彼が、騎士団内で「エトワールはすごいぞ」と言いふらしたため、翌週から相談所の前には、端正な顔立ちのイケメン騎士たちが長蛇の列を作るという異常事態が発生した。


「おい、エトワールの予約は取れたか?」


「いや、来月までいっぱいらしい……頼む、アメリアさん、俺にも素敵な嫁さんを紹介してくれ!」


 『イケメン騎士たちが群がる相談所』その噂はさらに上流階級へと届き、やがて高級馬車に乗った高貴な貴族たちまでもが、お忍びで下町の相談所へやってくるようになった。


「私の領地を一緒に盛り上げてくれる、聡明な女性を探しているのだが……」


「お任せください、伯爵様。こちらの、元商家の財務担当をしていた才女などいかがでしょう?」


 身分だけにとらわれず、お互いの「能力」と「性格」を噛み合わせる私のマッチングは、王都の貴族社会にも革命を起こしていった。


「エトワール」は連日連夜、大繁盛。


 私はかつて王宮でこき使われていた頃とは比べ物にならないほどの富と、そして輝かしい名声を手に入れたのだった。


「お忙しい中、最後までお読み頂き大変ありがとう御座います」

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