10-9
戻ったあと、空は国の大事を弦羽とマリリンに丸投げして、こっそりリアンドラヤを訪ねた。これほど混乱した状況でなければ、彼女に接触する機会は得られなかっただろう。
空の話を聞き終えると、リアンドラヤは言った。「わたしは解毒が得意なの。呪いは専門外だから、目覚めないかもしれないわ」
空は言った。「君の性格なら、目覚めないかもしれないと言うのは、治せる自信があるということだ」
「ええ」リアンドラヤはごく淡々と尋ねた。「これは、あなたの個人的な頼み?」
「……そうだ」
「わたしがもう一人治すということは、別の誰かを治せなくなるということ。分かっているわよね?」
「これは僕の個人的な頼みだ。聖女への頼みじゃない。僕が『リアンドラヤ』に頼んでいるんだ」
リアンドラヤは彼をちらりと見て言った。「あなたの個人的な頼みなら、受けるわ」
「ありがとう!」リアンドラヤが礼儀作法を嫌っていなければ、空はとっくに彼女にひれ伏していただろう。
立ち去るとき、空はシルバに呼び止められた。
少年の姿に老成した瞳を持つ、フェラキオ家の族長が、冷ややかに口を開いた。「君は、リアンドラヤがこの国全体、この世界全体にとってどれほど重要か、分かっているだろう?」
空は言った。「知っています」
「では、僕にとって彼女がどれほど大切かは、分かっているのか?」
空は黙り込んだ。
シルバは言った。「リアンドラヤが今向き合っている問題は、ただでさえ多い。それなのに君は、彼女に定期的に療養院へ通わせて、あの子の世話をさせようとしている。彼女は君の友人だし、僕も罪のない者が死ぬのを見たいわけではない。だが、リアンドラヤの命が脅かされていることは、結局のところ変わらない。君のやり方に反対はしない。ただ、この件の重みを忘れないでほしい」
「分かりました」
「君は、フェラキオの選択を見たはずだ。僕たちは他の者より少しばかり執念深い。守るべき者を守るためなら、エルフの道徳観の一部を捨てることも厭わない。もし君がリアンドラヤを傷つけたなら、僕は黙って見てはいない」
空は言った。「彼女を傷つけたくはありません」
だが、彼の行いがリアンドラヤを危険にさらしていることは、彼自身にも分かっていた。
一か月後、判決が下った。
アクミリン家の者たちは、罪状に応じて、ある者は深淵へ追放され、ある者は国外へ追放された。倒れかけた壁には皆が押し寄せるもので、もともと盟友だったクランシュ家は、全力でアクミリン家との関係を切り離しにかかった。ほかにも入り組んだ政治的な要因はあったが、アクミリン家が長年続けてきた人身売買という汚れた所業が根こそぎ暴かれたことが、致命の一撃となった。
空が再びシーデ・アクミリンと顔を合わせたのは、学院の神廟だった。彼は地面に跪き、神廟の花壇に植えられたヒナギクを、黙々と世話していた。空は、どう声をかければいいのか分からなかった。振り向いたのは、シーデのほうだった。
あの日、エドウィンに重傷を負わされたあと、弦羽がシーデはエドウィンの共犯者ではないと証明し、シーデの身から黒魔法との関わりも一切見つからなかった。だが、疑いを完全には消せない彼は、それでも自由に動くことは許されなかった。
結末は折衷案だった。サイフィ学院の神廟の主祭司リアが、シーデの園芸の才能を認め、女神の植物の世話を手伝わせることにしたのだ。毎日祈りを捧げ、罪を省みることが条件だった。
再会したとき、シーデが空にかけた言葉は、たった一言だけだった。
「この身を捧げることで、神のお赦しが得られますように」
空は、返す言葉がなかった。
彼がこの世界に来たばかりの頃、学院の温室で起きた、今思い返せば馬鹿馬鹿しくて笑えてしまうような事故のとき、シーデは彼が誰なのかも尋ねず、どの家の出身かも気にせず、ごく自然に手を差し伸べてくれた。それは、アクミリン家の人間がするようなことでは、まるでなかった。
だが、シーデはアクミリン家で唯一の無辜の者ではない。きっと他にも、彼のように、不正な手段で築かれた環境に生まれた者がいるはずだ。そんな中で、どうすれば清らかに生きていけたというのだろう?エドウィンは全力を尽くしても、シーデ一人しか守れなかった。
リアは、シーデの面倒をきちんと見ると約束した。「それと、監視もね」彼女はそう付け加えた。
空は言った。「彼は、本当は悪い人間じゃない。以前も、何度か助けてもらったんだ」
リアは言った。「それでも、警戒はしておきなさい」
空は言った。「人によっては、善悪より立場のほうが重要だから。彼がそういう人間かどうか、僕には分からない」
リアは言った。「どのみち、わたしがしっかり見ておくわ」そして半ば慰めるように言った。「神廟で園芸をするのも、そんなに辛いことじゃないのよ。わたしたち祭司だって、普段からやっていることだもの」
確かに、アイセンティアはシーデに、かなり良い道を与えたほうだろう。
これで事は終わったと思っていたが、ズーラン鎮からの一通の手紙が空の手に届き、アクミリン家の件は再び動き出した。
その手紙に署名はなかったが、あの土地から空に手紙を送ってくる人間は、一人しかいない。
イルコは手紙にこう書いていた。「少主は死んだ。アイセンティア国内のアクミリン家の勢力も一掃された。けれど、カスティーラに、アクミリン家名義の廃鉱山がある。あなたの興味を引くかもしれない」
空は分かっていた。爵位が欲しければ、自分で功を立てなければならない。
彼はこっそりカスティーラへ向かった。
イルコと落ち合ってみると、以前よりも、空は彼女がいっそう恐ろしく感じられた。イルコが強気になったからではない。むしろ逆だ。彼女が纏う気配はいっそう柔らかく、まるで爪をしまった猫のように、最もしなやかな一面を見せている。それが、かつて彼女に騙されたことのある空を、かえって不安にさせた。わずかな期間のうちに、イルコはズーラン鎮で生き延びることに成功し、それなりの信用まで得ているという。その成長の速さが恐ろしかった。
空がそう考えていると、イルコは柔らかな声で言った。「わたしを怖がらないで。わたしたちには共通の利益がある。それは、どんな誓いよりも確かなものよ」
空は言った。「君は、何が欲しいんだ?」
「ラグマンの永住資格が欲しいの」
「どうして、アイセンティアじゃないんだ?」
イルコは小さく笑って言った。「ラグマンは徹底した実利の国よ。罪を犯していても、金とコネさえあれば暮らしていける人間はいくらでもいる。彼らが許さないのはわたしたちの家門であって、わたしみたいな小さな存在なんて、生きようが死のうが、彼らの利益に干渉しなければどうでもいいの。あなたも貴族になりたいんでしょう?この件をやり遂げれば、わたしたちはそれぞれの目的を果たせるわ」
「君が知らせてくれた情報っていうのは、何のことなんだ?」
イルコは地図を広げて言った。「この鉱山は、アクミリン家がカスティーラに持つ私設の軍営よ。彼らは最近わたしと取引をして、アイセンティア国内の情報を買おうとしていた。わたしが情報屋になるとき、家の資源をすべて捨てたわけじゃなかったから、彼らはわたしが誰かを知っていて、それでわたしを選んだの。もう彼らに情報を売ってしまったのに、これから裏切ることになる。情報屋の掟に背くことになるから、ズーラン鎮にはもう戻れないわ。あなたは王子殿下と知り合いだから、軍を動かす手立てがあるはず。わたしたちは罠を仕掛けて、アクミリン家の復讐を望むこの軍を片づけるの。彼らは、公爵夫人を救い出せば、アクミリン家にもまだ挽回の余地があると考えているわ」
空はイナータのことを思い出した。武力を司るクダ家。戦場が国内で、しかもクダ家が待ち伏せするのなら、十分な証拠を示せば、イナータの家に出兵を頼むのは難しくないだろう。
そこで、彼は言った。「アイセンティア軍のほうは、僕に当てがある。次はどうすればいい?」
イルコは言った。「わたしに接触してきたアクミリン家の一員は、オスワルという名前よ。彼は、この情勢の中で軍を連れて無事にアイセンティアの国境を越える方法を、わたしから買おうとしているの。わたしは、商隊に扮することを勧めたわ。あなたのことは、わたしがよく組んでいる情報屋で、アイセンティア出身だと話しておく。それから一緒に、商隊に扮した彼らを連れてアイセンティアへ入るの」
空は、その提案を受け入れた。
今のイルコには、信頼できるという感覚があった。彼女の言う通り、二人の目的は一致しており、互いを必要としていて、どちらも単独ではこの仕事をやり遂げられない。イルコの紹介がなければ、空はオスワルの計画に入り込めない。イルコも一人で功を立てることはできない。ささやかな情報だけではアイセンティア王室を出兵させることはできず、空からイナータに頼んで、イナータの家の私兵を動かしてもらってこそ、アクミリン家の私兵の侵入を鮮やかに食い止められるのだ。
カスティーラの衣装に着替え、砂漠にある廃鉱山へ入った空は、オスワルと対面した。白髪だが精気に満ちた男で、その鋭い眼光に、空は最大限の警戒心を抱いた。幸い、面紗で顔を覆っていたおかげで、表情から悟られることはなかった。
何より、イルコがいる。彼女は柔らかな口調で、オスワルに告げた。「こちらの同行者も、少主に直接お会いしたことがあります」
オスワルは空に尋ねた。「では聞かせてもらおうか。君は、うちの少主にどんな印象を持っている?」
空は言った。「読み取りにくい人でした」
オスワルは鼻を鳴らし、イルコに言った。「この二人だけでか?」
イルコは微笑んで言った。「あなたが率いておられる部隊は、すでに大人数です。これ以上増やせば、かえって人目を引きます」
オスワルは言った。「昔から、君は大したお嬢ちゃんだと思っていた。まさか今では、一人前の情報屋になっているとはな。ちゃんと食べているのか?こんなに痩せて」
イルコは言った。「近ごろ暑くなってきたので、少し食べる量が減っただけです」
オスワルは言った。「また子供の頃みたいに、果汁ばかり飲んでいるんじゃないだろうな?」
イルコは言った。「それは、ずいぶん昔のことです」
オスワルは言った。「僕にとっては昨日のことのようだ。君は聡明だった。あのとき、僕は少主と君の結婚を支持していたんだ」
イルコは一瞬きょとんとしてから言った。「ありがたいお言葉です。あなたが少主の最も強い後ろ盾だったことは存じています。わたしの家が滅びていなければ、この時に多少はお役に立てたでしょうに、世の中、何が起きるか分かりませんね」
オスワルは言った。「今回最も重要なのは、公爵夫人を救い出すことだ。そうすればアクミリン家にも再起の望みが出る。だが、僕たちの兵力では、正面から迎え撃っても勝てない。プリオン要塞を占拠する」
エドウィンがプリオン要塞で死んだという知らせは完全に封じられており、イルコでさえそれを知らなかった。オスワルの考えはこうだ。王族はアクミリン家の財産を各地で捜索しているが、プリオン要塞に行き当たったところで、短期間で内部の黒魔法の装置をすべて根絶することはできない。したがって、たとえ王族が確かにプリオン要塞を捜索していたとしても、オスワルはそこを奪い返し、拠点として兵を挙げられる。そしてイルコの計画は、そのプリオン要塞でクダ家の部隊に待ち伏せさせることだった。
だが王族はすでにプリオン要塞を特別に粛清し、内部に残っていた多くの魔法陣を取り除いてあった。これは、オスワルにとって大いに不利な状況だ。空はそのことをイルコには伝えなかった。イルコが幸運にも、当たりを引いたということになる。
酒が回ってきたころ、オスワルはエドウィンの死がもたらした影響と、自分たちが築こうとしている目標について、饒舌に語り始めた。
「僕は少主が育つのを見てきた。今回、クランシュ家の裏切りさえなければ、少主が簡単に負けるはずがなかった。あの子は能力が高く、それ以上に聡明だった」
オスワルは杯を揺らしながら言った。「ただ、少主は父親の情に脆いところを受け継いでしまった。お嬢ちゃん、君は、少主が情に脆い人間だとは思っていないだろう?」
イルコは言った。「わたしの知るエドウィン少主は、とても強靭で、決断力のある方でした」
オスワルは言った。「見てみるといい。人間の貴族たち、クランシュ家にしても、家族を守るために自分の生きる道を捨てる者が一人でもいるか?少主は、そのまま逃げて僕のところへ来れば、まだ逆転の機会があった。だがそれでは、アクミリン家で重い罪に問われる者がもっと増えてしまう。だから彼は、罪をすべて自分で背負うことを選んだ。父親もそうだった。あの親子は、同じ型から抜き出したようなものだ」
イルコはしばらく静かに黙ってから言った。「あなたも、家族のために、安全な国外からアイセンティアへ戻ってこられたのでしょう」
オスワルは酒を飲み干し、何も言わなかった。
空の胸中は複雑だった。
ヤン・クランシュのような打算に満ちた人間や、初対面のときから空に侮蔑を向けていたエドウィンとは違い、オスワルが空に与える印象は好意的だった。まるで、少し情に厚いタイプの叔父貴のように、部下に対して率直で公平だ。オスワルの言葉からも、彼が人身売買に手を染めない側の人間であることが窺えた。それなのに今、空は彼を罠へと連れていこうとしている。王族に捕まり、私兵を連れて帰国したとなれば、先頭に立っていたオスワルは間違いなく深淵へ追放される。それは、実質的には死刑と変わらない。
空はこの人物が嫌いではなかった。イルコに対する彼の口ぶりは、まるで自分の姪と話しているかのようだった。イルコが非情であることは知っている。今ここで自分が非情になりきれないなら、それはただの偽善だということも分かっていた。だが、本当にこんな人物を売るのだろうか?真実を打ち明けて、アイセンティアからできるだけ遠くへ離れるよう説得するか、せめてこの私兵を解散させるよう説き伏せれば、オスワルにも、まともに生き延びる機会が残る。イルコが家の滅びたときに新しい生活を始めたように。
結局のところ、オスワルを罠に誘い込むのは、本当にアクミリン家のすべての「悪」を取り除くためなのか。それとも、空とイルコが功を立てたいだけなのか。
いくら考えても答えは出ない。空は情報をすべて頭に叩き込み、隙を見て、イナータへ知らせを送り返した。
その夜、皆の雰囲気は復讐に赴く軍隊というより、宴会のようだった。軍がこれまで身を潜めていた場所はカスティーラ王国内だったが、兵士の大半はアイセンティア人だ。ようやく故郷に帰れると言って、酒を一杯また一杯と飲み干し、あちこちで朗らかな笑い声や掛け声、サイコロを振る音が響き、音楽に合わせて酔態丸出しの乱舞を始める者までいた。
誰かの「男の踊りなんか見て何が面白い」という一言で、皆の視線が、隊にいる女性たちのほうへ移った。イルコにはオスワルが付いているので、兵士たちは手を出せない。そこで彼らが目を向けたのは、イルコを除いて唯一の女性、空が連れてきた侍女だった。面紗をつけていても、宝石のような美貌と身のこなしは隠しきれない。
皆にはやし立てられて、侍女は優雅に宴の卓へ上がった。すぐに、一本の手が伸びて彼女の足首に触れようとしたが、侍女は身を屈めて近くにあった短剣を抜き取り、相手を威圧した。
侍女は踊り出した。それは人を喜ばせるための舞ではなく、むしろ警告のようで、それでいて、この上なく美しかった。
空の鼓動は、侍女の舞の足取りに絡めとられていた。彼女は、見えない敵と戦っているかのようだった。身を翻し、剣を振るうその動きには恐ろしいほどの正確さがあり、近づこうとしていた兵士たちは自ずと退いた。その選択は正しい。なぜなら空は知っていたからだ。もしこの女性が本気で命を奪おうとすれば、この場にいる誰一人として、生きて出られはしない。
最後に彼女が剣先を収めたとき、周囲は数秒間静まり返り、それから敬意のこもった喝采が湧き起こった。
イルコがにこやかに進み出て言った。「皆さんには大事なお役目があるのですから、楽しむのもいいですが、明日には出発することもお忘れなく」
その言葉に、私兵たちはばつが悪そうに散っていき、出発前夜のうちに、武器や鎧を分解して荷箱に隠し、商人の服に着替えた。余分に用意されていた大きな油樽は、ちょうど成人男性が一人ずつ隠れられる大きさだった。オスワルの部隊はこうして、精鋭を商隊に偽装した。そしてイルコの案内で、アイセンティアへと移動していった。
アイセンティアへの入国は、空が最も心配していた部分だった。オスワルがアクミリン家の人間だと発覚すれば、その場で即座に捕らえられてしまう。だがオスワルは偽装術を使い、さらに本当にカスティーラの血を引いていたので、意外にも無事にやり過ごせた。
余裕たっぷりのオスワルとイルコを見て、空は、本当に緊張しているのは自分だけなのではないかと疑わずにいられなかった。
目の前に迫った要塞の城を眺めながら、オスワルは笑ってイルコに言った。「お嬢ちゃん、あそこがアクミリン家最大の秘密の場所だ。中にはさまざまな秘法がある。どれだけの財宝よりも価値があるぞ!」
イルコは言った。「そんな場所があるなんて、聞いたこともありませんでした。さすがアクミリン家、外の者が知らない秘密をたくさん隠しておられますね」
「君が情報屋でも、ここのことは知らなかっただろう。今回は目を開かせてやる。しっかり見ておくんだな」
要塞に入ると、軍に随行してきた下僕たちが廃墟同然の要塞を整え、軍を駐屯させ始めた。だが、樽を開けて伏兵を出そうとしたとき、転がり出てきたのは、一つ、また一つと並ぶ死体だった。
オスワルは激怒した。急死した精兵たちを見つめ、厳しく問い詰める。「誰だ?誰がやった?」
調べが進むうち、前夜に踊っていた空の侍女が、前へ突き出された。兵士が報告する。「オスワルさん、樽を封じたあと、この女だけが樽に近づきました」
イルコの表情が一瞬凍りつき、空のほうをちらりと見た。
空は彼女の目を見返し、それから、面紗を外して、顔つきが揺らぎ変わり始めた侍女を見た。
やがて侍女は、金髪碧眼のエルフの女性へと変わった。一目で高位貴族と分かるその容貌に、兵士たちは極度の不安に陥った。
彼女は言った。「マリリン・フェラキオです」
それ以上の説明は要らなかった。オスワルの顔色が変わる。
マリリンは、軽く触れただけのように見えて、自分を掴んでいた兵士を押しのけた。そして空に微笑みかけた。まるで、彼を称賛するかのように。
空は功を立てなければならず、なおかつ秘密も守らなければならない。だから、誰にでも気軽に助けを頼むわけにはいかなかった。そうなると、弦羽が特別に彼のもとへ遣わした王族の護衛――マリリンほど頼りになる者がいるだろうか。
オスワルに会うことが決まる前に、空はマリリンに緊急で連絡を取っていた。詳しい事情は話さなかったが、マリリンは二つ返事で引き受け、侍女に扮して同行してくれた。空はイルコには、優秀な護衛がいるとだけ話していた。相手があの名高いフェラキオ家の者だとは、イルコも思いもしなかったに違いない。
マリリンはオスワルに言った。「アクミリン家はすでに全員が捕らえられました。あなたがアイセンティアに足を踏み入れたのは、誤った決断です」
オスワルの顔から怒りがゆっくりと消え、信じられないという表情に取って代わられた。「馬鹿な……イルコ!」
イルコは無表情で言った。「これはわたしがやったことではありません。わたしが連れてきたあの人間です。彼の名前を、覚えておくことをお勧めします」
空はマリリンが頷くのを見て、口を開いた。「僕は白景空。アイセンティアの四王子の友人です」そして付け加えた。「僕はこの目で、エドウィン少主がここで命を落とすのを見ました。ここはもうアクミリン家の砦ではありません。王族の地です」
そのとき、外から兵士が駆け込んできて叫んだ。「敵襲です!クダ家の軍が要塞を包囲しました!」
それを聞いたオスワルは、意外にももう怒らなかった。それどころか、こう言った。「いいだろう。二人の若者に負けたか。時代は本当に終わったらしい」
空は勇気を振り絞り、冷静を装って言った。「このまま反乱を続けるなら、あとは死ぬまで血戦するしかありません。クダ家の兵の数は、あなたたちをはるかに上回っています」
オスワルは言った。「俺が連れてきた戦士たちは、生死を預け合った兄弟だ。無駄死にさせるわけにはいかない」
マリリンは言った。「それなら、降伏が最も正しい決断です」
城壁の上に登り、要塞を隙間なく取り囲むクダ家の軍勢をその目で確かめると、オスワルは武器を下ろし、マリリンに礼をした。
こうして、この戦いは、始まる前にオスワルの投降によって幕を閉じた。
空もマリリンに従って、デフェニングへ戻った。




