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トルコ石  作者: 葉櫻
十、皇帝
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93/119

10-6

見慣れたプリオン要塞に戻ったエドウィンは、かつて父が造らせた王座に腰を下ろした。


彼は高みから、屈しようとしない弦羽(げんう)を見下ろしていた。


弦羽(げんう)が逃げられないよう、エドウィンは事前に弦羽(げんう)だけを標的にした呪いを用意していた。何しろ二人は、幼い頃からの知り合いなのだ。……友人と呼べる間柄ではなかったが。


弦羽(げんう)が自分を好いたことなど、一度もない。エドウィンにはそれが分かっていた。だから、厚かましくその傍らに付きまとうような真似もしなかった。母に「もっと弦羽(げんう)に近づきなさい」と言われても、説明するのも面倒だった。本能的に自分を拒む相手には、どれだけ上辺の好意を示したところで見抜かれてしまうのだから。


エドウィンの生い立ちの中で、帝国の築き方を教えてくれたのは父だった。一方の母は愚かな女だった。没落した青血貴族の家の出で、父と結婚したことで貴婦人たちの頂点に立つ身分を手に入れたに過ぎない。母が主催する俗悪極まりないお茶会に連れ出されるたび、エドウィンはできる限り早くその場を離れ、同じように俗っぽく着飾った貴婦人たちと関わるのを避けていた。


だが、その母こそが最後に勝利を収め、父の帝王の夢を終わらせたのだ。


父が刺殺された日、母は苦しげな涙を流し、一週間ものあいだ食事に手をつけようとしなかった。


その感情は本物だった。そして、自ら手配した暗殺者に父の命を奪わせたこともまた、紛れもない事実だった。


少女の頃から美貌で名を馳せていた母は、それゆえに父の求婚を受けた。本来であれば紅血貴族に嫁ぐところだった母の実家は、アクミリン公爵が娘との結婚を望んでいると知るや、慌てて話を受け入れ、家の力の及ぶ限り最も豪華な嫁入り道具を用意した。娘が嫁ぎ先で軽んじられることのないように。


母は容姿以外に取り柄のない女だったが、アクミリン公爵は彼女に一目惚れした。母もまた婚約を結んだ両家の期待に応え、間もなく男児を産んだ。この出産で母は体を大きく損ない、二度と子を産めない身となったが、父はそれを理由に愛人を作ることもなく、最上のものをすべて、至宝のように想うこの妻に注ぎ込んだ。人間の高位貴族の世界では、まずあり得ない話である。


愛に潤され、母は日に日に美しくなっていった。そして同時に、野心も育っていった。


外から見れば、誰もが二人を完璧な夫婦だと言っただろう。


父はエドウィンに大きな期待を寄せ、幼い頃から自ら家伝の黒魔法を教え込んだ。そしてエドウィンには、ちょうどそれを受け継ぐ才能があった。まさに天に愛された子と言っていい。


これほど完璧な家庭に、先祖代々が布いてきた布石が加われば、アイセンティアの人間貴族がこれまで誰一人成し遂げられなかった王位簒奪の計画も、あるいはアクミリン家で実現していたのかもしれない。


だが、父は母に権限を与えすぎた。人間は金と勢力を手にすれば、さらに上を求める貪欲さが生まれる。母はその力を笠に着て、自分直属の手勢を育て上げた。その策は穴だらけだったが、父は母を厳しく咎めることができず、危険の芽にすべて目をつぶり続けた。


そして母は、暗殺の手はずを整えることに成功し、父が任務で外に出ている隙に、その命を奪った。


父の懐には、母に贈るはずだった花の宝石のブローチが忍ばせてあった。水エルフの名匠の手による品で、値のつけようがないほどの逸品だ。だが今の母の目には、そのブローチすら取るに足らないものに映っているのだろう。


愛情が、父の敗因だった。


エドウィンは、そう言い切るのは早計だと思っている。父は他のすべての敗者と同じように、執着する欲望に負けただけなのだ。


自分が本当に欲しいもの、決して捨てられないものが何なのか、それを見極めなければならない。父が最も望んだのは王になることだった。だが胸の内にあった他の欲望を克服できなかった以上、敗れるのは当然の結末だ。


父が身の程も弁えずに造らせた王座は、今となってはただの座り心地の悪い椅子でしかない。


そして今、エドウィンの目の前には、縛られた弦羽(げんう)がいる。


父との勝負は、すでについている。


弦羽(げんう)は少しも慌てることなく、毅然とした態度でエドウィンに告げた。


「僕を脅しても無駄だ。僕がいなくなったところで、アイセンティアは権力のない王子を一人失うだけだ。だが、アクミリン家の罪はすべて暴かれる」


エドウィンは言った。「お前は両親にとって非常に大切な存在だ。彼らがお前を犠牲にするはずがない」


弦羽(げんう)は溜息をついた。「だが他の貴族たちは、この機会に王室に痛手を与えたくてたまらないんだ。アクミリン家がアイセンティアを去り、そのうえ僕が死ぬ。それが彼らにとって最良の結果だろう。最後に勝つのは、お前でも僕でもない」


エドウィンは言った。「子供の頃、僕はお前と友人になりたかったんだ」そして、自嘲気味に続けた。「笑えるだろう?僕はそういう人間には見えないはずだ。王子すら眼中にない、王族の学友役など務める気はないと見下している――周りにはそう言われていた」


弦羽(げんう)は言った。「昔のお前を見ている。お前は生まれたときから悪人だったわけじゃない」


エドウィンは問い返した。「お前を好きなら善人、お前と対立すれば悪人か?僕が決して善人でないことは分かっている。だが、そんな理由で悪人になったわけじゃない。お前は正義の絶対的な基準じゃない」


弦羽(げんう)は譲らなかった。「お前の周りの大人たちが、お前をそう育てたんだ。だがこの期に及んでなお家族を守ろうとしているのは、お前に人間らしさが残っている証拠だ。今ならまだ、引き返せる」


エドウィンは言った。「最も寵愛されている王子を攫った。それも、その婚礼の場でだ。どれほどの貴族を傷つけたかも分からない。降伏したところで、深淵に追放される以外の末路はない」


弦羽(げんう)は言った。「ああ。だが、尊厳は守れる」


エドウィンは思わず笑ってしまった。心の底から、馬鹿げていると思ったのだ。


彼は言った。「見てみろ。今、僕の前に跪いて、尊厳を失っているのは誰だ?」


弦羽(げんう)は言った。「お前との争いで負けたのは僕だ。だが、お前が意地を通し続ければ、家族すら守れなくなる」


「彼らは守る。だが、最優先ではない。僕が生き延びることが何より重要だ」

「ならば、なぜ今すぐ自分だけでも逃げない?」


エドウィンは言った。「手札を使い切るまで、僕は自分が負けたとは認めない。お前は今でも旅人棋が好きなんだろう?僕は幼い頃から、軍略牌しか打つことを許されなかった。初めて会ったとき、お前が旅人棋に誘ってきた瞬間に、はっきり分かったよ。僕たちは友人にはなれないと。僕はお前と旅人棋を指したことはないが、おそらくあまり強くないんじゃないか?お前は性格が優しすぎる。僕に忠告する前に、自分の弱点について考えてみるといい」


「知っている。僕は一番の親友に、一度も勝てたことがない。非情になりきれないからだ」

「だが、今お前が言っているのは、僕に自ら死にに行けということだ」


弦羽(げんう)の視線は逸れなかった。「お前はもう負けているからだ」


エドウィンは言った。「最後の瞬間までは、まだだ」


彼自身、自分の末路が不名誉な死に決まっていることは重々承知していた。


家族を逃がせるかどうか。それが、最後の一局となった。


他人の目には、家族を守り、弦羽(げんう)を殺すことが、彼にとって最後の逆転の手に映るのかもしれない。


だが、エドウィンは弦羽(げんう)を殺したくなかった。


エドウィンは父によく似ていた。自らは闇でありながら、光のような存在を求めてしまう。母、弦羽(げんう)、ラヴェニ。最も敬愛していた父を母が殺したというのに、それでも彼は母を愛し、彼女を一筋の光だと思っていた。


エドウィンは弦羽(げんう)に言った。「エルフには理解できないかもしれないな。お前のような王子には特に。人間は複雑なんだ。僕が家族を救おうとしているからといって、僕を高潔だなどと思う必要はない。僕が本当に守りたいものは、おそらくただ一つだ」


「従弟か?お前はわざわざシーデをサイフィ学院に入れた。表向きは見下しているように見せて、実際には誰よりも全力で彼を守っている」

「あの平民に聞いたのか?」

「空(そら)のことか?彼はいつか貴族になる」

「王子が後ろ盾についているんだ、貴族になれないはずがない」


弦羽(げんう)は反論した。「彼は、自分の実力で成ったのだと証明してみせる」


エドウィンは言った。「もし僕がこの勝負に負ければ、それは彼にとっての好機になる」


弦羽(げんう)は目を見張った。「お前、自分が負けることを考えていたのか?」


「カードの卓で負けたことはない。だが現実の世界では、誰にも断言できない。だからこそ、こうしてここでお前と話す必要があるんだ。お前はシーデを知っているだろう」

「シーデのために、僕に取りなしてほしいということか?彼もお前に従って、少なからぬ罪を犯している」

「あれはすべて僕が主導したことだ。痕跡は一つ残らず消してある。お前たちには、彼の過去の罪など何一つ掴めない。それに彼は、空(そら)と何度か関わりがあるし、他の王族派の貴族の手助けをしたこともある。王族がシーデの罪を問えば、一部のエルフ貴族の面目が丸潰れになる。以上のことから、お前はシーデを守るだろう」


弦羽(げんう)はしばらく黙り込んでから言った。「子供の頃に、一局くらい旅人棋を指しておくべきだったな。そうすれば、お前のことをもっとよく知れたのに」


「一局で足りるものか」


エドウィンとラヴェニは数え切れないほどカードで勝負したが、そこに見えたのは、互いに武装した心だけだった。むしろ一局も対戦したことのないシーデこそが、エドウィンを最もよく知る人物だった。――あるいは、エドウィン自身よりも深く理解しているかもしれない。


思えば、あの小さな花エルフの混血児がいじめられているのを見たとき、エドウィンが抱いたのは同情ではなかった。


花エルフの血を引いていながら、エドウィンとは正反対に、天からまったく愛されず、ひどい手札を引かされた子供だった。女性でないのは仕方がない。男性の花エルフにもそれなりの価値はあるはずなのに、よりによってシーデは容貌が平凡で、エルフの美貌を崇拝する人間たちの目には笑い種でしかなかった。種族の天賦である「緑の指」も、特別優れているわけではない。


エドウィンの母は言った。「あの子なんて、せいぜい神廟の庭師が関の山よ。それでも買いかぶりなくらいだわ」


エドウィンがシーデに手を差し伸べたとき、シーデは言った。「僕に投資しても、意味はないよ」


確かに、意味などない。


エドウィンも、投資がしたかったわけではない。欲しかったのは、鏡だ。自分と同じ黒を着ることを、シーデには許さなかった。彼の前では、シーデは白を、純白を纏わなければならなかった。


シーデを通して、エドウィンは知りたかった。生まれたときに良い手札を引けなかった自分が、どのように扱われるのかを。


彼はシーデに対して、特に残酷だった。心優しいと知りながら、わざわざ人身売買の現場へ連れて行き、拐かされた下級貴族たちが泣き叫び、命乞いをするさまを見せつけた。


シーデは目を閉じたが、奴隷の命を盾に脅されて、ようやく目を開けた。エドウィンの挑発に対してシーデが返したのは、こんな問いだった。


「彼女を買ってもいいかな?」

「ふん、お前には買えないさ」


エドウィンには、この少女を、この奴隷たちを、そしてシーデを見逃すという選択もできた。人身売買は家業の一部に過ぎず、最も重要な部分ではない。父の死後、母には家を回していく能力がなく、予定より早く家の運営権をエドウィンの手に委ねた。ならば、エドウィンがこの悪習を廃止することも、不可能ではなかったのだ。


そうすれば、彼はシーデのように潔白でいられただろう。


だが、潔白な人間には、今彼が座っているこの僭越の座には座れない。


カードゲームにはさまざまな戦い方がある。彼が選んだのは、定石の布陣だった――先人の道を踏襲する。すなわち、父の歩んだ路線だ。


彼の前に跪く弦羽(げんう)が問うた。「今の局面は、本当にお前が望んだものなのか?」


エドウィンは、手のひらで揺らめく黒魔法の黒炎を見つめた。


彼は言った。「僕は多くの達人とカード勝負をしてきたが、正式な軍略牌の大会に出たことはない。本当の勝ち負けも、その先に何があるのかも知らない。ただ、一度始まった勝負を、途中で終わらせることはしない。それだけは分かっている」


弦羽(げんう)はさらに問うた。「勝ったあとに、何も残らなかったらどうする?」


「少なくとも、僕の人生が空虚だったと証明されたあとには、他人を妬む理由が一つ増えるだろうさ」


エドウィンは弦羽(げんう)を見据え、淡々と言った。


「僕は生まれてこのかた、誰かを妬んだことがない」

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