10-2
ラヴェニが計画を説明した。
「罠を仕掛けて、エドウィンに間違った子どもを誘拐させた。そこからクランシュとアクミリンを決裂させて、アクミリンの反逆と人身売買の証拠を手に入れる」
空が聞いた。「間違った子ども?」
「エドウィンにクランシュ家の私生女を誘拐させた。その子——ドラリスは、ヤン・クランシュの私生女で、成人するまでヤンは彼女を安全な城で匿っておくつもりだった。エドウィンには、ドラリスはヤンの弟の私生女だと思わせた」
空は急いで聞いた。「その子に何もないよね?」
ラヴェニが言った。「上流貴族の子どもをさらうよう魔族の貴族に大金を払わせた。ドラリスほど貴重な対象となれば、エドウィンは万が一にもミスを犯せない。他に誘拐された子どもたちより、あの子は断然安全よ。エドウィンが傲慢すぎるのも問題で、相手がクランシュ家の子どもだとわかっていても手を出したんだから。かつてドラリスは農場で育てられていて……」
「まさかミチェルの農場?」
「そう」
「ミチェルのところで働いていたとき、ドラリスは見かけなかったけど」
「正確には、ヤンはドラリスをミチェルの区域内に置いていた。そうすれば誰かに疑われても、ミチェルの私生女だと思わせられるから」
空が言った。「ミチェルはまだ二十一歳だよ」
ラヴェニが言った。「普通の青血貴族の二十歳が五歳の私生女を持っていても、そんなに珍しいことじゃない。まして本家のクランシュならなおさら。とにかく、ドラリスがヤンの娘でなければ、ヤンもこの件を揉み消していた」
空が言った。「ドラリスはヤンにとって、アクミリンと手を切るほどの価値があるの? ヤンって良心のなさそうな人だけど」
「そうね。でも彼は本当にドラリスを溺愛している、それはわたし自身が確認済み。婚礼の前にヤンへエドウィンのしたことを知らせて、両家を決裂させる。そうすれば精靈と人間の争いでも、教派の争いでもなくなる。ちなみに、ドラリスの安全をそんなに気にしているなら、あなたに確認しに行かせましょうか? 弦羽はドラリスを守るために別の精靈を手配している、あなたはその見習いとしてついていけばいい」
空は承知した。
翌日、弦羽が一人の精靈を連れてきて言った。「彼女を紹介する」
弦羽のそばに立つ木エルフの女性は、知性のある眼差しをしていて、百歳は超えているような風格を漂わせていた。瞳の色は弦羽より少し深い藍色で、静かな大海原のようだった。腰まで届く金色の髪は一本に編んで背に垂らしていた。温かで静かな空気をまとっていて、荒れた者も一瞬で落ち着かせそうで、同時に目を離せない美しい気高さもある。一目で青血貴族の出だとわかった。
弦羽が言った。「マリリンはフェラキオ家の出身で、かつてはオーロパ公女に仕えていた。武力の高い王族護衛で、魔法も武術も達者で、治療師の資格も持っている。これからの任務では数々の危険が待っている、マリリンに守ってもらいなさい。俺が完全に信頼できる数少ない人物で、仕事も快諾してくれた。彼女がそばにいれば安心できる」
空は先にマリリンに聞いた。「なんとお呼びすればいいですか?」
マリリンが言った。「お名前でお呼びいただければ」
弦羽が説明した。「フェラキオの決まりで、王室に仕えるときは別の家族の一員になる、だからかつての姓は使わない」
マリリンが言った。「王子殿下から事情はお聞きしました。これからの行動は王室の安泰に関わります。どうかわたくしに力を貸させてください」
そこまで言われれば断れず、空は高位貴族への礼を取って言った。「よろしくお願いします」
マリリンは少し微笑んで言った。「殿下からお聞きした通り、穏やかで礼儀正しいお方ですね。礼はお断りします、ご無用です。これからわたくしはあなたの部下ですから」
少し考えてから空が言った。「一つお願いしてもいいですか? こちらも敬語を使わず、上下関係があるような振る舞いもしないでほしい。その方が気が楽なので」
マリリンが言った。「外から見て不作法に映らないよう、そうしています」
「せめてお辞儀だけは」
「わかりました」
空がマリリンに聞いた。「アンバール迷宮でお会いしましたか?」
マリリンが言った。「あのときは同行していませんでした」
弦羽が言った。「マリリンが一緒にいたら、結果も変わっていたかもしれない」
それほど強いということか。オーロパ公女の護衛を務めていたなら、確かに驚くことでもないかもしれない。
弦羽が言った。「マリリンが変装を手伝う、二人でアクミリン家に潜入してもらう」
空が言った。「マリリンがいれば、わたしは必要ないんじゃないですか? 功績だけもらうみたいで……」
弦羽が言った。「父上が新人を育てていると思えばいい、腕を磨く機会にしなさい」
任務を引き受けてから、まずミチェルに会いにいった。ミチェルは空を見るなり言った。「やっぱり王族の重要人物だったんだ!」
空は苦笑して言った。「違います」
ミチェルは大笑いしてから言った。「謙遜しなくていい、王族がついに俺を一度見てくれる機会が来た」すぐに顔が曇って言った。「でも兄貴の方はきっと怒り狂ってる」
空が言った。「ドラリスさんが行方不明のことは、まだ話していないんですか?」
「言えるか! 兄貴が一番溺愛している娘なのに」
「なぜそんな大事な子を外で育てていたんですか?」
「権力を固めるまで表に出したくないから、ここで養っていた。普段はおとなしい子で、だからこそ見張りの護衛も、まさか抜け出すなんて思わなかったんだ。それがよりによって誘拐犯に出くわすとは」
話を聞きながら、空はミチェルが犯人の正体を知っているのではないかと思い、遠回しに言った。「聞いたところによると、国内の一部の貴族が人をさらって売りさばいているとか。貴族の子どもでさえ狙われることがあると」
ミチェルが言った。「クランシュ家の子どもに手を出せる者なんていない」そう言ってからミチェルの表情が変わり、どもりながら言った。「まさか……」
空が言った。「ドラリスさんが初めて一人で外へ出た日に、護衛全員が目を離すというのは偶然じゃないと思います」
ミチェルが言った。「内通者がいる」
慌て始めるミチェルにマリリンが言った。「心配なさらず。内通者を探してください、その間にわたくしたちは王室の命により、ドラリス様を取り戻してまいります」
ミチェルが言った。「頼む、部下は全員出動させたが全然足りない。兄貴に知られる前に必ず見つけ出してくれ!」
マリリンが言った。「任せてください」
テイラロが話してくれた通り、彼女は鉄の檻に入れられていた。しかし上流貴族の子どもには当然気を遣うらしく、アクミリン家の所有する城塞内に収容されていた。
出発前、マリリンが空の変装を整えた。二人はこっそりアクミリン家の下人と入れ替わった。さすが変装を得意とするフェラキオ家だけあって、素性を隠して潜り込む手際は鮮やかだった。
城塞に入って仕事を始めたものの、一日中外周の地面を掃除するだけで城塞の内部には入れなかった。ドラリスが上の階にいるか下の階にいるかさえわからず、ましてどの部屋にいるかなど、見当もつかなかった。ウィスラ城塞はエドウィンの私有地で、もともとここで働いていた使用人のほかには、アクミリン家の者たちでさえそう頻繁には出入りしなかった。
悪党の巣窟とはまるで違う雰囲気で、むしろイナータのもとで働いていた頃の良い「職場の空気」を思い出させた。エドウィンは使用人への扱いが良いらしく、足腰の不自由な高齢の使用人も雇っていて、それぞれのペースで働かせていた。
石畳を水で流して磨いていると、垣根を刈り込んでいる庭師と、階段を掃除している年配の女性使用人が雑談しているのが聞こえた。女性使用人が庭師にしばらく姿を見ないと言うと、庭師は持病のひざが悪化して歩けなくなったと話した。エドウィンが王城の治療師を呼んでくれて、二週間の治療中も給金は変わらず出してもらい、ゆっくり休養できたという。
空は常に自分に言い聞かせ続けた。テイラロが経験したことを思い出せ、使用人たちが口をそろえる「いい主人」と、土地一つのために一族を滅ぼし、人を売り飛ばしたエドウィンを、切り離して考えろ、と。
ある日、ようやく城塞の上の階の近くを掃除できる機会が訪れた。きちんと折り畳まれた紙の鳥を拾った。
城塞の中に年若い下働きはいない。
空は上の階の最上部を見上げた。紙の鳥の飛んできた軌跡からして、あそこから投げられたものだろう。いくつもの侍従・護衛・魔法の結界を越えて、ドラリスが閉じ込められている部屋には入り込めない。たとえ入れたとしても、救い出すのは自分の役目ではない。




