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トルコ石  作者: 葉櫻
八、月
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71/87

8-3

今の闇は、本当に手を伸ばしても見えないほど完全な暗闇だった。弦羽げんうを信頼することだけを頼りに前進する。視覚を奪われた状態で、弦羽げんうの確かな足音を聞くことで、自分が一人ではないという実感をかろうじて掴んでいた。雪の足音はずっと軽く、後ろについてくる。そらは自分に言い聞かせ続けた。一人じゃない、と。


さっきヴィスパの前で演じた芝居のことが、まだ心に引っかかっていた。月顏花の毒が背中を押してくれなければ、あんな行動には絶対出られなかった。今この暗闇の中を進むだけでも吐きそうなほど不安で、魅魔の美しくも危険な黒い瞳を思い返すと、手足が冷えた。あの温かい湯に浸かっていたことも多少は助けになったのだろう。もし今の状態でヴィスパと向き合ったとしたら、しどろもどろになるだけだっただろう。


弦羽げんうが先頭に立つ三人の小隊は苦労しながらノードを一つ、あるいは二つ越えた。そらが気が狂いそうになってきた頃、突然明かりが灯った。


びくっとしながらも、反射的に安堵した。ところが目の前の光景を見た途端、警戒心がぶり返してきた。


目の前に鏡があった。鏡の隣にも鏡。その隣にも鏡。


気づかないうちに、四方が全部鏡に囲まれていた。いや、遠くに弦羽げんうと雪の姿は見えるから、完全な一面鏡というわけでもない。今回は学習していたそらは、慎重に手で探りながら進んだ。


歩けば歩くほど、仲間との距離が離れていく。どこかで間違えたのか、それともまた迷宮の理不尽な仕掛けなのか、次の瞬間には弦羽げんうと雪の姿も見えなくなっていた。剣を抜くと、空間が一気に圧迫してきた。剣を収めると、また広くなった。


このノードは生きている。自分の動作を感知している。その考えが背筋を寒くした。叫ぼうとしても声も出ない。鏡の中の自分を見つめながら、突破口を探そうとしたとき、映っている「自分」がそれぞれ少しずつ違うことに気づいた。


正面の鏡は、毎朝起きて見る普通の自分の顔。右の鏡は今の自分のはずで、瞳の色が染まり、引きつった笑顔を神経質に浮かべている。左の鏡は、幼い頃の自分だった。


他の鏡も順番に見ていくと、それぞれが違う姿の自分を映していた。背を向けた鏡像が見えたとき、そらは即座に目をそらした。次に映ったのは、吸血鬼のように目が真っ赤に充血し、爪が鋭くのびて、自分の喉を引っ掻こうとしている姿だった。またすぐに目をそらした。


向きを変えるだけでは足りない。逃げなければならない。最も危険な鏡像たちから。むやみに逃げ続ける自分を見て、鏡の中の像たちが一斉に笑い出した。そして声を揃えて言った。「本当に生きてここを出られると思ってる?」


そらが答えた。「仲間が強い」


目の前の鏡像がヴィスパの浴槽に浸かる自分の姿に変わって、邪悪な笑顔で言った。「魅魔だって対処できたじゃないか。なんで自分が怖いの?」


言いたくなかったのに、何かに引き出されるように口から出た。「みんなの足を引っ張るのが怖い。さっきのは運が良かっただけだ」


浴槽の中の自分が冷笑して言った。「今足を引っ張ってるのは雪だろう」


そらが反論した。「彼は僕たちのチームの頭脳だ!」


「本当に? 弱くて剣も抜けないのに。じゃあ弦羽げんうは何をした? 王族の目があると言いながら、こんな状況に追い込んでいる」


そらが言った。「彼らを批評する資格はお前にはない!」


「資格があるのはお前だよ。このまま彼らについていくつもりか?」


そらが聞いた。「じゃあ一人で行けというの?」


「フェラキオ家を単独で救えば、その功績で貴族になれるほどの価値がある」


そらは込み上げる怒りを抑えながら言った。「貴族になりたい根本の理由は彼らのためだ。お前は見た目だけ僕と同じで、中身は全然違う」


「彼らの目には、お前はこんな姿に映っている。お前がしてきたことは全部痕跡を残す。もう純粋だった頃のお前じゃない」


そらが答えた。「それが本当の僕だ」


「今ここにある姿は、かつて存在した、あるいはお前がなれるかもしれない全部の自分だ。偽物じゃない」


そらが聞いた。「完全な狂信徒にもなれるということか?」


「力を取り込めば、できる」


そらが聞いた。「お前は何者だ?」


「お前だ」


「この迷宮の生き物なのか?」


「お前そのものだ。証拠を見せようか。お前はたくさんの人を好きでいる。ラウンもそうだ、彼はお前のために犠牲を払ってくれた、今お前がここに立てるのも彼のおかげだ。でも名前を声に出すことも許されない」


「ラウン」という二文字が、そらの心に重く打ちつけた。その通りだ。あの取引を完成させられたのも、最初にラウンが支払ってくれていたから。ラウン、この名前を誰かが口にするのを久しく聞いていない。自分も言えなくて、恋しくなるたびに心の中で呼ぶしかない。その空洞感の中で、ラウン本人までもが現実ではないように感じてしまう。


鏡の中の声がまた言った。「ルイーズへの感情を利用して、権力を自分の手に引き戻したつもりか? 青血貴族も五大名門も手の内に入れた」


そらが言った。「彼女が他の人間に騙されないようにするためだ。良くない手段だったとはわかっている」


「でもやった。しかも段々と手際よくなっている。これだけのことを経験して、まだ二人の王子より格下だと思うか?」


そらが言った。「比べる必要はない」


「本当の心はそうじゃないだろう。雪も弦羽げんうも、今この迷宮では足かせだ。商人と取引したのもお前、魅魔と交渉したのもお前、この迷宮でお前こそが最強だ」


そらは答えなかった。鏡の中の声が続けた。「永遠にこのままでいたくないか?」


そらが言った。「要らない、ありがとう」


「それと、お前が一番大切にしている夕立、彼女が誰のものか知りたくないか?」


「彼女は……」


鏡の中の影が目を輝かせて言った。「ここを訪れた者の秘密なら知っている。あの女の子も来ていた。誰と一緒に来たか、知りたいか?」


そらはゆっくりと息を吐いて、顔を上げて言った。「一つ、根本的に間違えている」


鏡の中の像が怪訝そうに眉を上げた。


そらが言った。「夕立は誰のものにもならない」


もし夕立がここにいたら、何と言うだろう。


「この鏡を全部割れ!」


きっとそう言うだろう。


そらは一度足を踏んで転んでから、歩いて鏡の中の自分に近づいた。勝ち誇った笑顔が浮かぶのを見ながら、そらはさっきこっそり地面で拾っていた石を振り上げて、鏡を叩き割った。


鏡が割れると、小さな自分がさらに増えて笑いかけてきた。そらはひたすら鏡を割り続けた。全部の鏡を粉々にして、顔や腕に無数のガラスの欠片が刺さった。


「無駄だ、ここは迷宮だぞ!」


何が正しいやり方なのかはわからなかった。でも鏡を壊す以外に、自分にできることはなかった。


「結局お前は、自分が嫌いなものになる」


その声は消えず、むしろ四方八方から小さく囁いてきた。もう持ちこたえられないと感じ始めたとき、一つの影が視界に飛び込んできた。


弦羽げんうが飛び込んできて、空中に向かって剣を薙いだ。強烈な風が起き、鏡の欠片を全部吹き飛ばした。うるさかった声も、これで消えた。


弦羽げんうそらをまっすぐ見た。いつもそうするように、正面から目を見て話しかけてくる。「王族の目は鋭い」という言葉を思い出した。だからあの誘惑は弦羽げんうには通じなかったのだ。弦羽げんうは自分が誰かを知っていて、どれが本当のそらかも知っていた。


弦羽げんうに礼を言おうとした瞬間、壁の影がまた一つ増えているのに気づいた。光がある! ということは、あの影の追跡者がまた隙に乗じて潜り込んできた!


弦羽げんうそらの視線の先を追った。不思議なことに、その影の人物はそら弦羽げんうの影を動かそうとしたが、まったく引き剥がせなかった。影の人は悔しそうに足を踏み鳴らして消えた。


弦羽げんうが言った。「ずっとついてきていた奴が、また追いついた。雪の影も奪おうとしたが、アンブロスの商品が確かに効いている」


そらが聞いた。「雪はどこですか?」


弦羽げんうが答えた。「安全なところにいる。迎えに行こう」


割れた鏡の破片を踏みながら進むと、まずまずな状態の雪がいた。弦羽げんうと雪なら、鏡の迷宮の精神攻撃にも十分対抗できる心の強さがある。一番ついていけなかったのは、おそらくそら自身だった。


雪が布の切れ端を拾い上げて見せながら言った。「フェラキオ家の家紋だ。正しい道を来ている。ここで捕まったようだ」


鏡の迷宮がまた生成し直されて、雪の推測が正しいと証明された。雪が言った。「フェラキオ家が敗れたのは影を奪われたから、そして影を奪ったのはおそらくこの狂信徒の一人だ。悪い知らせがある。泥沼の匂いの先に、牛頭人がいる。アンバールで最強の怪物だ、弦羽げんうが今確認した」


そらが言った。「偽装したり、牛頭人を迂回したりできませんか?」


雪が言った。「迷宮の規則は違う。牛頭人を倒して初めて次のノードへの道が開く。もし泥沼が迷宮の最深部にあるなら、牛頭人とは必ず対峙しなければならない。そら、大丈夫か?」


そらは自分の顔を触って聞いた。「ひどい顔してる?」


雪が言った。「かなりひどい、次の瞬間には魔化しそうだ」


人間の血筋は諸刃の刃で、そらが信徒に偽装できる反面、花汁の影響を受けやすくて中毒も深くなる。


雪がさらに言った。「まだ僕たちの側にいるかどうか、正直確信が持てない」


弦羽げんうが言った。「雪!」


雪が聞いた。「鏡の中で何が見えた?」


そらは少し考えてから正直に話した。ラウン・ルイーズ・夕立に関わる部分だけは省いて。話し終えてから言った。「馬鹿げてる、ああいうのは僕の本当の考えじゃない」


弦羽げんうが言った。「俺にも似た経験があった。ただ鏡の中の奴は成長した俺の姿で、同じように、お前たちから離れろと言ってきた」


雪は微笑んで言った。「鏡像は僕に、自分が荷物だとわかっているなら自分から離れろと言って、子どもの頃のことまで持ち出してきた」


そらが言った。「あれは全部嘘だ」


雪が言った。「わかってる。自分がこの迷宮では完全に足かせではないという自信もある」


そらが言った。「もとから足かせじゃない」


弦羽げんうが言った。「口に出して言えるなら、深刻な傷にはなっていない。フェラキオ家があの手に落ちなかったのは、影を奪われたせいだと思う」


そらが言った。「大丈夫。前に進もう」

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