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トルコ石  作者: 葉櫻
八、月
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70/87

8-2

次のノードに飛び込むと、吸血鬼たちはまだ追ってきたが、全員吹き飛ばされた。悲鳴を上げてから、彼らは節点を越えることを諦め、自分たちの区域へ引き返した。


「やあ旅人たち、いい武器でも探してるのか? お腹でも空いたか? 払えるだけ払えば、何でも用意するよ!」


弦羽げんうが雪を下ろして、箱の山に寄りかかっていた青い高礼帽に短髪の女の子に聞いた。「失礼ですが、あなたは?」


女の子は目をくるりと回して言った。「まず自己紹介はしないの? まあいいか、お金があればそれで。見たところ……貴族が二人? 吸血鬼用の砲弾はいる? 必要そうに見えるけど」


そらが聞いた。「今の吸血鬼を吹き飛ばしたのはそれですか?」


女の子はにかっと笑って言った。「そう! あれが吸血鬼には一番効くの。一体一体木杭で刺すのは手間がかかりすぎるでしょ」


雪が言った。「アンブロス!」その口調には、珍しいことに喜びが混じっていた。


女の子は胸の前で手を重ねてお辞儀して言った。「お見知り置きを」


雪がそらに言った。「アンバール迷宮で最も有名な商人だよ」


弦羽げんうがつぶやいた。「本当に実在したんだ」


アンブロスが言った。「ははっ、外の世界では伝説扱いかしら。知ってるなら話が早い。ここは取引だけ、害は加えない。お金のない取引は受けないよ」


そらが聞いた。「誰かがお金を払って僕たちを害するよう頼んだら、そうするんですか?」


アンブロスはそらをじっと見て、何も言わずに笑った。その口が耳まで裂けそうなほど大きく開いて、そらは思わず弦羽げんうの後ろに隠れて聞いた。「あなたが僕たちをつけていた影ですか?」


アンブロスは首を傾けて言った。「自分の縄張りは離れないから、あなたが言ってるのはわたしじゃないと思う。何を買う? 伝説の商人に会っておいて空手で帰るつもり?」


そらが聞いた。「情報や地図は買えますか?」


雪が前に出て言った。「アンブロスは迷宮内で使える物品を売ってくれる。でもアンバール迷宮の動きは誰にも予測できない」


アンブロスが手を叩いて言った。「賢い男の子! 迷宮に入ったばかり?」


雪が答えた。「はい。ここでお会いできたのは幸運です。食料も武器も足りています。一度につき一つしか取引できません」


アンブロスは積み上げた箱の上の布をまくった。底がガラス張りの展示台が現れた。「何が欲しい? 姿を消せる道具なら、匂いも音も完全に消える薬液がある。誰かの部屋に忍び込んでもバレないくらいの性能は保証するよ」


雪が言った。「薬液は持っています。この迷宮の中に、この紋様を刻んでいる月神の信徒の一団がいますか?」彼は首元を引き下げながら、止めようとするそらに言った。「情報は取引の範囲外です。アンブロスの取引は代価が形になった硬貨の形で支払われて初めて成立する。情報を聞くだけなら別の話」


アンブロスが言った。「あなたのことがどんどん好きになってきた。その問いに答えると、アンバールでその紋様を持つ者を見たことはあるよ」


雪が言った。「その一団と対峙したときに使える方法が欲しいです」


弦羽げんうが雪に聞いた。「一度きりの取引機会をここで使っていいのか?」


雪はかすかに笑って言った。「旅人棋で勝ってたのはどっちが多かった?」


弦羽げんうは黙った。雪がアンブロスに言った。「そういった品物はありますか?」


アンブロスは唇を触りながらくすりと笑って言った。「何でも売るよ。ただ、このクラスの商品には前提条件がある。まず一つ質問に正解してもらわないと」


雪が言った。「どうぞ」


アンブロスが聞いた。「あなたのものなのに、あなたの色を失わせるものは何?」


雪は後ろを振り向き、燭台の光に揺れながら自分たちの輪郭を描き出している、あの影を見た。


「影だ」と彼は答えた。


アンブロスはまた耳まで裂けそうな笑顔を浮かべて言った。「欲しいものを売ってあげられる。代価はね」彼女はそらを見て言った。「あなたが払う番だよ」


弦羽げんうが聞いた。「他の人間が代わりに払うことはできませんか?」


アンブロスは芝居がかって目を大きく開けて言った。「これは特別割引よ! 以前ここを訪れた誰かが、白景空そらに関わる代価をすでに支払ってくれていて、この取引に価値を与えてくれたの。だから売ってあげられる」


そらが聞いた。「代価は何ですか?」


アンブロスが言った。「簡単よ。その前人が誰かを当てて、そして一番大事なこと、その人があなたに望んでいることを言い当てる。それができたら、取引の硬貨があなたの手に落ちてくる」


弦羽げんうが聞いた。「危険はありますか?」


アンブロスは笑いながら雪を見て言った。「この子が一番わたしのことを知ってる。わたしは人を傷つけるの?」


雪が言った。「アンブロスは悪質な商人じゃない。最初の数歩でこの人に会えたのは幸運だ。たとえ代価の支払いに失敗しても、取引が成立しないだけで、アンブロスが取引外のものを奪うことはない」


アンブロスが言った。「商品を渡さなければ、代金は受け取らない」


雪が言った。「最悪この取引の機会を失うだけで、追加の損失はない」


雪がそう言う以上、そらは答えた。「やってみます」


アンブロスがそらに向けて一つの紋様を描いた。


そらは幻境に引き込まれた。


顔が動かせない。正面を向いたまま。


怖くはなかった。周りには緑の草原が広がっていて、柔らかく風に揺れていたから。そして膝の上に頭を乗せているその人の顔は見えなかったが、緩んだ体の姿勢だけで、信頼が伝わってきた。


相手の声は風に攫われて聞こえない。そらの声も出なかった。それでも、ここにずっといたいと思った。目頭が熱くなって、視界がにじんだ。


この人は誰だろう。


自分は今、何をすればいいのだろう。


そらは直感に従った。いつも祈るときのように、全身で感じ取り、想像に身を委ねた。


この「人」は、純真で、優しくて、何千何万回と愛想笑いを強いられても、本物の笑顔を捨てない魂だ。


誰かわかった。では何をするべきか……この、甘えん坊な子は……そらはその少し冷たい手を取り、手の甲にそっと口づけを落とした。


清澄な空気が消えて、現実に引き戻された。頭が動くようになった。


弦羽げんうが慌てて言った。「なんで泣いてるんだ?」


笑い声が聞こえて、そら弦羽げんうと雪が一緒にアンブロスを見た。笑い終えてから、彼女は何かをそらの掌に弾いた。


そらは手のひらの硬貨を見つめた。書物でしか見たことのない国の貨幣だった。


アンブロスが言った。「コーツタン帝国では、手の甲への口づけは〝愛〟を意味するの。あらゆる種類の愛、絶対に誠実な愛。商品は何にする?」


雪が頷いて、そらは硬貨を差し出した。


「取引成立」アンブロスは言って、硬貨を手のひらで包み込んだ。手を裏返すと、掌には糸を通した三本の針があった。


彼女が言った。「靴に縫いつけるだけ。苦労して踵に縫うんじゃなくて、靴に縫えばいい」


雪が針と糸を受け取って言った。「ありがとうございます」


アンブロスが指を鳴らすと、そら・雪・弦羽げんうは見えない力に弾き飛ばされた。起き上がると、もう次のノードにいた。


弦羽げんうそらの肩に手を置いて聞いた。「取引の中で何を支払ったんだ?」


そらが言った。「本当に何も取られていない、ただアンブロスの言う通り、一つのことを正しくやっただけです」


雪が弦羽げんうの額を指でついて言った。「本人が話したくないなら聞かないで」雪はそらに言った。「懐かしくて泣いたんだと思うけど、正しい?」


そらは頷いた。雪が言った。「詮索しない。話したくなったら話してくれればいい」


そらはつぶやいた。「今はまだ、話せない」


雪が言った。「じゃあ、これの使い方を考えよう。弦羽げんう、あの追跡してた影に気づいてた? 今はいない」


弦羽げんうが言った。「気づかなかった」


雪が言った。「時々現れて、時々消えて、でも確かについてきていた。号角を吹いて僕たちを窮地に追い込んだのもそいつだ。今いないのは、まだ追いついていないからかもしれない」


そらが壁の影を確認した。今は三つしかない。


雪が続けた。「影は自分の一部を映すもの。影を奪われると自由を失う。ルイーズさんからもらった資料にそう書いてあって、本当だったようだ」


弦羽げんうが言った。「フェラキオ家は影を奪われたから、力を発揮できなくなったのかもしれない」


そらは針と糸を取り出して、全員の靴に影を縫いつけた。縫いつけるとき、影が少しうごめいて縫われるのを嫌がるように見えて、ぞわっとした。影は布のような触り心地で、縫いつけた後は元の影の姿に戻り、光に従って素直に動くようになった。


どこからか澄んだ歌声が漂ってきた。弦羽げんうが立ち上がって剣を抜くと、雪が彼の腕に手を置いて言った。「すぐに戦おうとしない。だから旅人棋で勝てないんだよ」


弦羽げんうはちょっと不満そうな顔をして言った。「でもここは危ない場所だぞ!」


雪が言った。「そうだ。そしてこの危険に必要なのは強い武力だけじゃない。そうじゃなきゃ、フェラキオ家に勝てるわけない。旅人棋は元素相克の原理を使う、賢く、力を使わずに迷宮を解くということだ。偽装も忘れずに」


弦羽げんうは剣を収めて言った。「わかってる。少し苛立っていただけだ」


雪がそらに聞いた。「まだ前に進める?」


そらが頷くと、弦羽げんうが手を貸して立ち上がらせてくれた。


三人は歌声の方向へ向かった。道中、温かい食べ物の香りが漂ってきた。近づくと、焼き肉とソースの香りと確認できた。


比較的まともな月神信徒だろうか。それともフェラキオ家を拉致した犯人だろうか。


その「野営地」の前に来ても、そらには自分が何を見ているのかまだよくわからなかった。


円頂のテントが並ぶ野営地で、岩天井には蛍光が流れていた。この集団がどうやったのか、この区域だけ幻の色とりどりの空を移してきたかのように照らしていて、街灯がなくても輝かしかった。蛍光がテントの間を流れていく様は、深海で光を発して獲物を誘う生き物のようだった。


布地の極めて少ない衣装をまとった数人の少女が水を持って野営地へ入っていった。そら・雪・弦羽げんうは岩陰に隠れながら、彼女たちの露わな背中を見た。その容姿は妖艶で、身に纏う独特の魅惑的な気配が、思わず近づいて裸足にひれ伏したくなるような感覚を生む。頭には黒い曲がった角が一対あった。


三人は少し遠ざかってから、弦羽げんうが言った。「魅魔だ。このノードは魅魔の領域だ」


そらが聞いた。「それはいいことですか?」


雪が言った。「魅魔は商人と同じで取引が基本、潜在的な客を自分から傷つけることはない。入浴サービスのほかに、傷の治療や情報の取引もできる。この魅魔たちは迷宮内を移動しながら、冒険者や迷宮の住民から稼いでいるんだと思う」


そらが言った。「フェラキオ家について聞きに行けるかもしれない」


雪が言った。「魅魔はエルフは相手にしない。魅魔の魅惑術がエルフには効かないから、手がかかる客だと思われる」


そらが言った。「僕が行く」


雪は砕いた銀貨と宝石のアクセサリーをいくつか取り出して、そらに渡して言った。「入浴サービスは銀貨で足りる。もし魅魔があなたに好意を示して、さらなる取引のチャンスが生まれたら、アクセサリーで賄賂を使って」


弦羽げんうそらの肩を叩いた。去り際、弦羽げんうのなんとも言えない表情を思って、笑わずにはいられなかった。


野営地に足を踏み入れると、見張りの魅魔は筋肉質な男性だったが、そらを見た瞬間、体が縮まって次第に細身の美しい女性の姿に変わり、甘い声で言った。「澡堂バスルームへようこそ旅人、どんな侍者がご希望? 男、女? 肌の色は? 身長は?」


そらはとっさに言った。「歌が上手い人」


女性は艶やかに笑って方向を指して言った。「あちらを突き当たりまで行ったテントへ」


銀貨一枚を渡してから、そらは内部へ進んだ。道中、各テントから笑い声と水の音が聞こえた。香りは花や草木の心地よい匂いで、濃すぎることなくとても良い香りだった。この迷宮の中で、ここだけは天国のようだった。


指定のテントの前でそらは「失礼します」と声をかけてから幕を開けた。


中には黒いスカートをまとった少女が座っていた。胸から腹にかけての布地に長い切れ込みが入っていて、繩が胸の布の両端をきつく縛っていた。短いスカートの右の太腿に青い脚輪を巻いている。黒髪に黒い目、顎の線が特に繊細だった。甘い声が聞こえた。「ヴィスパと申します」


「僕は……」


ヴィスパが言った。「初めてのお客様でしょう、お名前はおっしゃらなくて大丈夫です。こちらは秘密厳守ですので」


そらが言った。「入浴したいです」


「承知しました、素肌でよろしいですか、それともお召し物のままで?」


「着たままで!」この選択肢があるとは思わず、そらはすぐに答えた。


ヴィスパは甘く笑い、そらに触れることなく、布の仕切りの奥に案内した。そこに置いてあった上衣とズボンに着替えるよう促された。長袖長ズボンだったことに、そらは一方で安心し、一方でこれがより大きな罠なのではと不安になった。


着替え終えると、ヴィスパが浴槽へ案内して入浴剤を入れた。室内はすぐに湯気に満たされ、温かい湯が幅広の袖口とズボンの裾から流れ込んで、体の力を抜いてくれた。思わずため息をついて、浴槽のへりに凭れた。


ヴィスパの声が背後から届いた。「マッサージはいかがですか?」


そらが答えた。「不要です」


「では何のためにいらしたんですか? 治療が必要な傷もないようですが」


そらが言った。「ただお湯に浸かって休みたかっただけです。こんな場所に辿り着けるとは思っていませんでした」


ヴィスパは軽く笑って、人差し指と親指で輪を作り、石鹸水につけてから泡を吹き出した。


そらは自分が笑っているのに気づいた。毒がまた効いてきたのだ。ヴィスパは自分の魅力が効いたと解釈したようで、聞いた。「あなたはなぜアンバール迷宮に来たんですか?」


そらが言った。「月神の宝を探しに」


「どんな宝なんですか?」


「何でもいい。伝説の牛頭人の顔も見てみたかった」


「牛頭人に挑戦するつもり? きっと強力な仲間がいるんでしょうね?」


「僕は盗賊で、仲間はいない」


「そうは見えませんね」ヴィスパが何かを手に取った。湯気の中を数秒目を凝らして、そらはそれが自分の緑松石の手環だと気づいた。「ハランドリ神の祝福を受けた緑松石、こんな高価な宝をお持ちとは、どこかの貴族のご子息では?」


そらが言った。「返してください!」手首にちゃんとつけていたはずなのに、ヴィスパはいつの間に取り外したのか。


ヴィスパは穏やかに手環を傍の棚に置いて言った。「こんな大切なものがお湯で傷んでも困るから先に外しておいたんです」


(落ち着け)そらは自分に言い聞かせた。雪が言った通り、魅魔が欲しいのはお金で、長く稼ぐには評判が大事だ。特にこの怪物入り乱れる迷宮の地下で、客から物を盗んで面倒を引き起こすなんてことはしない。


案の定、ヴィスパが言った。「お客様の物を盗んだりしません。アイセンティアより、わたしたちの方がずっとまともな取引者です」


「どうしてアイセンティア出身だとわかったの?」


「匂いでわかります。草木の香りがする人間は、たいていアイセンティアから来た方です」


そらが聞いた。「アイセンティアから来る人は多いですか?」


「アイセンティアから来る人間はエルフより多くて、サービスを目当てに来る方もいます。わたしたちのここは、極楽の城にも引けを取りません」


極楽の城は夜落の地にある魅魔の領地で、老若男女問わず誰でも入れる歓楽の場所だ。魅魔が自在に性別を変えられるため、客層も幅広い。ヴィスパのように技芸で勝負するタイプもいる。極楽の城に比べれば、アンバール迷宮の稼ぎは少ないかもしれないが、月神の絶対的な聖地の一つであるアンバールに住む魅魔にとって、ここの生活は他の地域より快適だろう。


そらが聞いた。「他の場所からここに来て働いているんですか?」


「はい」


「見張りの方があなたは歌が上手いと言ってましたが、好きな歌を一曲歌ってもらえますか?」


ヴィスパは一口飲み物を飲んでから、静かに歌い始めた。声には少し幽玄な響きがあって、エルフほど純粋ではないが、夜のツグミが夜空を飛ぶように、かすかに風の抵抗を受けながら、清らかな月明かりの中を颯爽と泳ぐような声だった。


おそらく彼女には、伝説の吟唱者に似た力があるのだろう。そらは全身から力が抜けていくのを感じた。吸血鬼に攻撃された傷の痛みが消え、緊張していた筋肉もほぐれた。入浴を名目に歌を指定したのは発覚しないための口実だったのに、思いがけず当たりを引いてしまった。


一曲終えると、ヴィスパはタオルを取り出して、額に貼りついた前髪を払いのけて言った。「中毒されていますね。解毒方法はわかりません」


そらが言った。「これは僕の趣味です」


「では手は入れません」


「実は嘘をついていました。お宝を探しに来たんじゃない」


ヴィスパの声が湯気の中から届いた。「では何のために?」


「好きなエルフがいて。貴族で、身分が自分とはかけ離れている。少し前、任務でアンバールに来たまま行方不明になったんです。助けを借りられる人が他にいなくて、自分で探しに来た」そらは元の衣装を置いてある方向を指して言った。「アクセサリーをいくつか持ってきています。そのエルフのことを教えてくれたら、全部さしあげます」


ヴィスパが嬉しそうに言った。「太っ腹ですね! そのエルフはどんな見た目で、どんな格好を?」


「高位のエルフ貴族らしい金髪碧眼ですが、任務中は偽装しているから何の顔かはわかりません。エルフの一団で動いていたはずで、かなり目立つと思います」


「そうですね、確かにそういう木エルフの一団が通りましたよ」


そらが聞いた。「その人たちはどうなりましたか?」


「ここを通り過ぎただけで、サービスは使いませんでした。とても強い旅人たちで、何も彼らを阻めないように見えました」


「好きなそのエルフは治療者だから、うちのサービスが要らないのは普通ですね」そらは嘘に本当を交えながら話した。これは雪に教わった技術だった。本当と嘘を混ぜると、話した本人さえ混乱するくらいの精度になる。


ヴィスパが言った。「では、なぜ彼らは音信不通になったんでしょう?」


そらが言った。「それが知りたいんです。牛頭人でさえ彼らの相手にはならないはずなのに。アンバールで最も危険なのは牛頭人じゃないということ?」


ヴィスパは答えずに、ただ笑った。


彼女はだんだんとそらに近づいてきて、柔らかく言った。「そんなことより、追加のサービスはいかがですか?」


そらは手を上げて近づきを遮った。その瞬間、ヴィスパが濡れて半透明になった袖の下の紋様に気づいて、表情に恐怖が走った。


瞬時にいくつかの考えが頭を駆け巡った。


そらはヴィスパの手を掴んで言った。「これが何かわかりますよね? なら、本当に聞きたいことも察しがついてますよね?」


ヴィスパの瞳が不安げに揺れ、そらの手を振り払えないでいた。その様子を見て、そらは毒の効果のまま笑みを浮かべながら言った。「迷宮の外の動きはわかりますよね?」


ヴィスパが首を振りながら言った。「逃げ出したエルフはここには来ていません!」


そらはヴィスパの目をじっと見つめた。自分の姿が彼女の瞳に映っているのが見えた。人の皮を被った狂人が、笑い続けている。


そらが言った。「もし彼らがここへ逃げてきたら、わかりますよね?」


ヴィスパは何度も頷いた。


そらがさらに聞いた。「どのくらいの範囲まで保証できますか?」


ヴィスパは跪いて言った。「エルフは泥沼から遠くには行けません。あの匂いは十キロ以内なら感知できます。彼らはまだ、あなたが待っている領域を出ていません」


そらは言った。「静かに、動かないで」彼は濡れた入浴用の衣服を脱いで、乾いたタオルで体を拭いてから元の服に着替え、緑松石の手環を手首に戻した。残りのアクセサリーと銀貨をすべてヴィスパに渡して言った。「あなたが言ったことが本当かどうか、すぐにわかります」


弦羽げんうと雪のところに戻るなり、そらはすぐに言った。「フェラキオ家は僕たちが偽装している狂信徒に拉致されてます!」


ヴィスパとのやり取りを説明した。


魅魔として働くヴィスパが、牛頭人への恐れより強くこの月神狂信徒を恐れていたこと。そして「逃げ出したエルフはここに来ていない」という言葉は、そらが狂信徒の人間だと思って発した言葉で、つまりフェラキオ家が拉致されたことは、魅魔も知っている既知の事実だということだ。


説明を聞き終えて、弦羽げんうと雪は揃ってそらを見つめた。


弦羽げんうが言葉を選んで言った。「お前……随分成長したな」


二人の親友にそんな目で見られて、子どもが大人のふりをしているみたいな恥ずかしさが急に込み上げてきた。そらは頭を下げて言った。「偶然見つかっただけです。泥沼の詳細は聞きませんでした、偽物だとバレるのが怖くて」


雪がまとめた。「僕たちが偽装しているこの狂信徒はまだ存在していて、フェラキオ家を拉致したのは彼らだ。アンブロスと取引したとき、この狂信徒を敵と仮定して動いたのは正解だった、アンブロスの反応もそれを裏付けた。だから対抗できる道具を手に入れた。そらの話を聞く限り、フェラキオ家は〝泥沼〟に閉じ込められていて、まだ脱出できていない、おそらくまだ殺されてもいないということだ」


弦羽げんうが言った。「〝泥沼〟が土の元素に関わる場所なら、方角は感知できる」


そらが聞いた。「牛頭人は見えますか?」


弦羽げんうが言った。「今のところ見ていない」


雪が言った。「今聞いた限りでは、最も大きな危険は狂信徒だ。そらの経験から見ると、狂信徒はおそらく人間の外見をしていて、だから魅魔にも真偽の見分けがつかない。すべて影と関係している。光は使わない方がいいと思う」


そらが言った。「光なしでどうやって歩くんですか?」


雪が言った。「王族の目を信頼しろ。わたしの目のことじゃない」


弦羽げんうそらに言った。「俺を信じてくれ」


魅魔が違和感を覚えて追いかけてくる前に、弦羽げんうは仲間を率いて土の元素が最も濃い方向へと歩き出した。

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