番外:第三者
冒険は、決して楽なものではない。
旅に出てからというもの、テイラロはずっと自分を風エルフだと名乗ってきた。木エルフがなぜ一人で旅をしているのか、余計な詮索を受けずに済むからだ。風エルフに見せかけるため、木エルフらしい装束を捨て、よりすっきりとした身なりにして、いつも垂らしていた長い髪も、風エルフがよくやる冒険向きの三つ編みに結い上げた。
冒険者公会の最初級の資格を取ってから、壁に貼ってあった組隊の求人票を適当に一枚引き抜き、見知らぬ一行に加わった。顔を覆って神秘的な雰囲気をまとい、前衛の戦士として仲間を守った。申告した能力は実際より低く見せていたから、戦闘はいつも素早く決着がつき、これまで苦労らしい苦労はひとつも経験していない。
一行にエルフが加わったことで仲間たちは大喜びで、彼女が優雅に戦闘を主導するたびに、称賛の言葉を惜しまなかった。
「これからダンジョンに挑む。一緒に来るよな?」
仲間の期待に満ちた問いかけに、テイラロは首を横に振った。「用事がある」
「でもこんなにうまくチームが回ってるのに、本当に抜けるのか?」
テイラロは頷いた。
「また戻ってくるか?」
「わからない」
それだけ言って、テイラロは振り返りもせずに歩き去った。
命に関わるような悪夢を見ると、もしそれが特別に鮮明なら、黒女神の仕業だという言い伝えがある。
最近、テイラロはそういう夢をほとんど見なくなっていた。
(黒女神がわたしに飽きてきたのかもしれない。わたしが普通になりすぎて、興味を失ったのかも)
それは自分にとっては良いことだ。でも、国家にとっては悪いことだった。
緑溢れる草木の王国、アイセンティア。
近づくにつれて、懐かしさと同時に、どこか他所者のような気持ちも込み上げてきた。三王子と火エルフの王女の婚礼を祝う飾りつけは、王都に近づくほど豪華になっていった。毎晩花火が上がり、大通りを歩けば、両脇の家々から撒かれる花びらが雨のように降り注いだ。子どもの頃の三王子の婚約式は規模が小さかったと聞くし、あのときテイラロには参加する機会さえなかった。今はそんな記憶が遠い昔のことのように感じられた。
テイラロは珍珠飾りのついた青緑色のドレスに着替えた。この舞踏会のために買ったものだ。あのとき、こんな美しいドレスが自分に似合うのだろうかと迷った。でも彼の褒め言葉に背中を押されて、結局買った。
絹の感触は冷たくなめらかで、最近すっかり慣れてしまった鎧とは全然違う。冒険で得た宝石も身につけてみたが、戦いで荒れた手で触れると、どうしても引け目を感じてしまった。
人の群れに入ってみると、空が言っていた通り、自分のドレスは見物に来た平民と変わらない程度のものだとわかった。本当に注目を集めているのは、豪奢な衣装をまとった高位貴族たちだった。青血の人間の貴族女性が現れたとき、周りのエルフも人間もどっと感嘆の声を上げた。その装いはまるで芸術品のようで、きっと水エルフが仕立てた礼服だろう。角のような銀の頭飾りはまるで王冠のようで、こんな大胆な真似ができるのは人間の貴族だけだ。下位の貴族に差を見せつけるための演出なのだろう。
高位貴族に視線が集まっている隙に、テイラロは身分確認を済ませて、王宮の外廷へと入った。
道中、誰の誘いにも応じなかった。
冒険に出ている間、人間をはじめとする他種族がエルフを見る目は、いつも渇望に満ちていた。でもアイセンティアに戻ると、自分はまた普通の存在に戻る。旅の中で改めて気づいた。彼が特別だったのは、人生で初めて出会ったエルフなのに、媚びようとも、何かを奪おうともしなかったことだ。穏やかな眼差し、人の世話を焼く癖、最初はそれが自分だけに向けられていると思っていた。でも違った。それは彼の性質そのものだった。彼はみんなに優しかった。
テイラロはひっそりと暗くなって、踊る気持ちも失せてしまった。庭の隅に座って、楽しげに踊る人々をぼんやりと眺めた。
(このまま夜を過ごすのか。それなら戻ってきた意味は何だったんだろう)
会いたいのか、会いたくないのか、自分でもわからなかった。アイセンティアの文化が好きな彼だから、平民でも入れるこの舞踏会に来ないはずがない。この広い王宮の中で、ここ最近で最も近い距離にいるはずだった。
舞踏会は夜明け前まで続いていて、会場はいつまでも輝いていた。そしてテイラロは、昼の精靈から夜の娘になっていた。夜落の地にいたとき、自分の力が強まっていると感じた。それがひどく気分を暗くさせた。
「テイラロ?」
聞き慣れた声に、テイラロは一瞬、聞き間違いかと思った。ルイーズがなぜこんな平民と下位貴族の混じる区域にいるのか。しかしサイフィ学院の緑のローブをまとっているのは、間違いなくルイーズ・ピエテ、幼い頃からの親友だった。
「ルイーズ? 顔色がよくなったね」テイラロはおそるおそる言った。
十年来の付き合いの中で、こんなにも生き生きとしたルイーズを見たことがあっただろうか。好きな本を読み終えたときや、貴重な孤本を手に入れたとき、ルイーズも喜ぶし楽しむ。でもその喜びはいつも、蒼白な顔色とふらつく体の陰に隠れていた。
今日のルイーズは……長い間固く閉じていた蕾が、月明かりの下でふいに艶やかに咲いたみたいだった。生命力に満ちたその美しさ、間違いない、愛に潤された顔だった。テイラロは鏡の中に、かつての自分の顔を見たことがある。
ルイーズは感激して駆け寄り、テイラロの両手を握って言った。「戻ってたの! なんで教えてくれなかったの?」
「急に決めたから」テイラロは居心地が悪くて言った。
「ドレス、すごくきれい! どこで買ったの?」
「さっきまで誰と一緒にいたの?」
「踊ってたの、どうしたの?」
テイラロはルイーズの歯切れの悪さを見逃さなかった。遠回しに聞いてみた。「何人と踊ったの?」
ルイーズは反射的に答えた。「一人だけ」
「誰と?」
その瞬間のルイーズの、恥じらいを含んだ表情を、テイラロは見た。直感で、相手が誰かわかった。ルイーズの友人は少ない。ルイーズが緑のローブで変装しなければならない相手は、一人しかいない。テイラロの心が沈み、冷えていった。ルイーズが話題を変えようとする言葉は耳に入らなかった。考えたくもない結論に向かって、心が引っ張られていった。
「ルイーズ」
「うん?」
「恋をしてるの?」
ルイーズが顔を上げた。その瞳に宿る夢見るような光が、何よりも雄弁な答えだった。
テイラロは一歩下がった。
ルイーズが困惑した目で見ている中、テイラロは言った。「わたし、帰る」
ルイーズが手を引いて言った。「待って、せっかく戻ってきたんだから、一緒に庭を歩こう!」
「疲れた」
「冒険で大変だったの?」
テイラロは苦笑して言った。「大変じゃなかった」
冒険は何でもなかった。帰ってきてから「家」がまた崩れていくのを知る方が、ずっとつらかった。
「他のみんなにも会わないの?」
「あなたはわたしの一番の親友」テイラロはルイーズを真っすぐ見つめて言った。「それは絶対に変わらない」
それだけ言って、テイラロは立ち上がって歩き出した。
ルイーズは体が弱い上に、足に優しくない靴を履いていたから、すぐに置いていかれた。
こんなことをすべきではないとわかっていながら、テイラロはコール療養院へ向かう道の陰に立っていた。予想通り、まもなく彼の見慣れた後ろ姿が現れた。
会わなかった間に、少し背が伸びたようだった。表情は影で見えないし、見る勇気もなくて、テイラロはすぐに木の陰に身を隠した。
旅の途中で出会った黒女神の別の「娘」のことを思い出した。その子は、冒険を始めたばかりのテイラロに親切に声をかけて、どこから始めればいいか、チームの中でどう立ち回ればいいかを教えてくれた。
「わたし、空のことが好きなの」あのとき、その子はそう言った。
テイラロは言った。「彼の純真さが、一番の美しさだと思う」
でも、その子は大きく笑って言った。「純真? 全然違うよ。彼は人の痛みが見える。でも自分がその痛みに飲み込まれない。そういう優しさで、人をそっと養うの。もしあの人が本当に純真なだけだったら、わたしは興味を持たなかった」
あの言葉を聞いてから、テイラロは初めて気づいた。自分は彼のことを本当にわかっていなかったのかもしれない、と。
最初から最後まで、テイラロは一方的に彼に帽子を被せていた。でも彼は、そんなものは望んでいなかった。
木の陰から彼の後ろ姿を眺めながら、テイラロはつぶやいた。「あなたはルイーズのことを愛さない。あなたには、もう決まった人がいる」
まるでそう信じることで、ルイーズを貶めて、自分を慰めようとしているかのようだった。
ふと、空が振り返った。テイラロは慌ててさらに身を隠したが、それでも一瞬、視線が合ってしまった。
彼は深く何かを考えているように見えた。翡翠湖やスモーク・コーストに行ったとき、真剣に報告を書いていた彼より、もっと落ち着いていた。あの頃の純真な少年は、星を見る望遠鏡を抱えて、柔らかく聞いてきた。「食べられないものが多いなら、好きなものを教えて。全部探してあげるから」。別れの前、記憶を消されてしまう前に、最後の最後まで彼女の顔を見ようとして、ずっとこちらを見つめていた。
今の彼は、幾度もの生死を超えてきた。四王子と共にイグルーサの王子を迎えに行ったとも聞いた。そんな大きな任務をこなせるほどになって、王冠学院のような高い場所にも頻繁に出入りして、権力の流れというものを少しずつ知っていった。もうテイラロの知っている彼ではなかった。
でも、それはテイラロが招いたことだった。自分が欲張って、無理やり彼を自分の世界に引き込まなければ、空は今も純真な少年のままだったかもしれない。普通の友人を作って、普通の日々を送って、魔法世界の神々と角を突き合わせることも、王国の貴族たちと知恵を競うこともなかっただろう。テイラロが最初の連鎖反応を起こしたから、空はルイーズたちとも出会い、そして彼女たちが彼を深く変えていった。
だからテイラロはわかった。どんな立場から見ても、自分は「第三者」なのだ、と。
月の光は冷たく淡く、舞踏会の濃い花の香りが鼻に刺さった。冒険者たちの汗の臭いに慣れてしまった今となっては。
テイラロは珍珠飾りの青緑色のドレスを脱いで、コール療養院の外に置いていった。
この記憶をどうするか、彼が決めればいい。
自分は先へ進む。
彼女は踵を返し、美しくて、そして深く傷つけられたこの王国を後にした。




